46話 どっちが最強?
「お姉様って……どういうこと?」
私はエリナに小声で聞く。
「あ、君が綾瀬マイちゃん? エリナから話は聞いているよ」
エリナが答える前にその女性は私に近寄ってくる。
「そうですけど……えっと、アナタは?」
「ああ、ごめんごめん。私は赤坂ユイナ、一応そこのエリナのお姉ちゃんだよ」
エリナのお姉さん? 何故そんな人がここに?
「一応、私が飛行教導群のトップ。この一週間みんなをビシバシ鍛えていくからよろしくね」
え、この人が日本最強のアグレッサー部隊のトップ?
「マジで……?」
〜〜〜〜〜〜〜
赤坂ユイナ、赤坂財閥を率いる赤坂家のご令嬢。エリナの姉であり日本皇国統合自衛軍の戦人機パイロット。
大学卒業後、本来なら財閥の関連企業に就職する予定であったが。当時流行っていた戦人機パイロットを主役とした映画にハマり、自衛軍に入隊。一年後には戦人機パイロットに。
丁度、その当時は日本各地にゴーストは頻繁に出現する様になり、各地で大きな被害がもたらされていた。
新兵であったユイナも当然の様にゴーストとの戦闘に駆り出されたが、彼女は持ち前の反射神経と類まれなる判断力により対ゴーストとの戦いにおいて大きな戦果を挙げる。
戦闘を重ねるうち、いつしかユイナは鬼神と呼ばれる様になりユウミさんと肩を並べるエースパイロットになっていった。
ゴーストの出現が鈍化、日本が落ち着きをとり戻し始めると彼女は前々から受けていた飛行教導群のスカウトを受け教導群の一員としてパイロットを育成する側に回る。
教導群内でも飛び抜けた技術を持つ彼女は現在では教導群を率いるトップパイロットとなっている。
以上、エリナから聞いたユイナさんの経歴、いやはやとんでもない。絵に描いたようなエリート。
「いや〜それにしてもわざわざウチのホームにまで来てくれるなんて、本当ならウチらが中京基地に出向くのが筋なのに」
軽いテンションでそんなことを言うユイナさん。
「いえ……こちらでは別の仕事もありますので」
なんだかぎこちない様子のエリナ。
私、ハルカ、ジェイミー、アカネは二人より少し距離をとって歩く。
「まさか最強のアグレッサー部隊のトップがエリナちゃんのお姉さんだったなんてね……」
小声で囁くハルカ。
「あの娘は知っていたのかしら?」
と、ジェイミー。
「いや……そりゃ普通知ってるでしょ、家族なんだし」
それに、エリナは小松基地行きが決まってから少し様子がおかしかった。知らなければこうはならないだろう。
「あの二人仲悪いのかなぁ……」
私はそう呟く。
「ん〜、そうは見えないけど……」
前を歩く二人をジロジロ見るハルカ。
まあ、何となく二人の仲が悪いというより、エリナが一方的に壁を作ってる感じはする。ユイナさんは至って普通の態度だし。
「う〜ん」
なんとなく複雑そうな事情がありそうだけど……
「それにしてもまさかエリナが戦人機パイロットになるなんて、てっきり設計の方に進むものかと」
前を行く二人から会話が聞こえる。
「……成り行きですわ」
やはりどこかよそよそしいエリナ。
「みんな、エリナが足ひっぱたりしてない?」
唐突に私達に話を振ってくるユイナさん。
「エリナは足を引っ張ってなんかいませんよ、大切な私たちの仲間です」
きっぱりとそう答えるハルカ。流石主人公、主人公っぽい事を言うなぁ……
私とアカネはそれに頷く、ジェイミーは「ウチの冷静な作戦参謀ね」と呟く。
「あ、あなた達……」
なんだか恥ずかしそうな様子のエリナ。まあこんなにべた褒めされて普通にしていられる人はいないだろう。
「人気者ねエリナ、お姉ちゃん嬉しいわ!」
「……やっぱり、普通のお姉ちゃんって感じにしか見えない」
小声で呟くハルカ。言いたいことは分からなくもない。
「あんな人が日本最強の部隊を率いているなんて……」
何かの間違いではないのだろうか。
「でも、ユウミだって普段は気さくなお姉さんって感じだし、やっぱり人は見た目によらないんじゃない?」
ジェイミーは冷静にそう指摘する、まあ言われてみればそうだ。普段のユウミさんを知る人に彼女がエースパイロットだと言っても信じてはもらえないだろう。
「……あの人は間違いなく強いよ、雰囲気が違うもん」
と、それまであまり言葉を口にしなかったアカネがそんな事を言った。
「わかるの?」
私がそう聞くとアカネは強く頷いた。
「うん、あの人からはユウミと同じ匂いがするもん」
匂い? どういう判断基準なんだろうか、でもアカネがそう言うなら間違いはないんだろう。
「ユウミさんとユイナさんってどっちの方が強いのかな?」
ふと、ハルカがそんな事を呟く。
「ユウミさんに並ぶとは聞いたけど……」
あの人と並ぶと呼ばれるなら間違いなくとんでもないパイロットなのだろう。 だけどどちらが強いのか……正直全く想像できない。
「ま、それはこれからわかるでしょ、マイとアカネ以外は今日から訓練だもの、あの人がどれだけ化け物なのか……」
そこで言葉を切るジェイミー。ユイナさんの背中を真っ直ぐ見据え……
「見せてもらおうじゃない……!」




