44話 戦闘飛行教導群
石川県の小松基地には自衛軍最強のアグレッサー部隊が存在する。
中部航空方面隊所属、戦闘飛行教導群。コブラの隊章をもつその部隊は日本各地から集められた選りすぐりのエリートパイロットのみが所属しており、まさしく日本最強の部隊と言ってもいいと思う。
そもそも、アグレッサー部隊は軍隊においての仮想敵を演じる人達で彼らの指導により私たちの様な一般パイロットはより力をつけていける。
と、全部ユウミさんからの受け売り。
「そんな凄い人たちに特訓してもらえるなんて……」
日本最強の部隊、一体どういう人たちなんだろう、私は頭の中で想像してみる。渋めなおじさん達。うん、いかにもエースパイロットって感じがする。
「期間は一週間ほどを予定しています」
と、千駄木司令。
「その後は?」
ハルカが司令にそう尋ねる。
「ここから先の予定はまだ正式に決まっているわけではないので。決まり次第追って通達します」
決まってないって……まぁ、蒼グレ通りなら多分"東京"に行くんだろうけど。
蒼グレは二クールのアニメだった。そのうち夏休みの期間は大体一クール目の終盤にあたる。
そして、一クール目のラスト、中盤の山場。小隊は東京に行くことになる。そこでは大きな戦闘が繰り広げられ……
「……」
……いや、蒼グレとは全く流れが違うんだし、同じ展開になるとも限らない。アニメでの流れは頭から排除しておくべきだろう。
「夏休みに入り次第、みんなには石川県に向かってもらいます……って、聞いてますかマイ?」
「は、はい! 聞いてました!」
〜〜〜〜〜〜
「飛行教導群って、スーパーエリートなんでしょ?」
帰り道、バスの中で私とハルカは飛行教導群について話をしていた。
私の前に座るハルカ、隣にはアカネがすやすやと寝息を立てて眠っている。
アカネは私達と同じ寮に住む事になった。夏休み明けから百合ヶ浜学園にも転入扱いで入る事になるらしい、大丈夫なんだろうか……
そもそもアカネって何歳なんだろうか。そういう所も未だによくわかっていない。
「直接スカウトが来た人しか隊員になれないって……そういえば、ユウミさんにもスカウトがきたらしいよ」
ユウミさんにも、彼らからのスカウトが来たと聞いたことがある。でも本人はそれを蹴ったとか。蹴った理由は聞いても教えてくれなかった。気になる……
「ユウミさんみたいな人が何人もいるんでしょ? やばいなぁ……」
ハルカは怯えるような声色でそう言った。
たしかに、隊員全員がユウミさんレベルのパイロットとか、想像するだけで恐ろしい。
「にしても、石川県かぁ……石川県の名物ってなんだろう?」
と、唐突に話題を変えるハルカ。
「なんの話?」
いきなり何を言い出してるんだろうこの娘は。
「いや、だってせっかく向こうに行くなら何か美味しいものとか食べたいじゃん!」
先程とはうって変わってワクワクした様子のハルカ。
「はぁ……遊びに行くわけじゃないんだよ?」
そう言いつつも、私はスマホを取り出してブラウザを立ち上げる。石川県、名物っと……
「日本海で獲れる豊富な海の幸……海鮮丼や寿司……」
だめだ、お腹空いてきた。
私はスマホの画面を切る、これ以上調べてたら空腹で倒れてしまいそうだ。
「んっ……お寿司〜?」
おっと、アカネを起こしてしまったみたいだ。
「ごめんごめん、起こしちゃった?」
アカネの赤々とした綺麗な頭を撫でる。
「う〜ん……」
暫くすると彼女は再び眠り始めた。
「そういえば、アカネちゃんも連れて行くのかな?」
ハルカがアカネの方を見ながらそう言った。
「まあ、アカネも小隊の一員だし一緒に行くでしょ」
そうして、バスに揺られ寮に到着。ミニライブの疲れもあったので、シャワーを浴びて直ぐに寝ることにした。
「はぁ……疲れた」
ベッドに倒れ込む。このまま寝ようと思ったけど、一つ気になることがあったので、立ち上がり机の方に向かった。そうして、私は机の上に置いてあった蒼グレの資料集を手に取った。
この資料集も、もうあまり見ていない。かなり展開が違うしあまりこれの情報を鵜呑みにしても混乱するだけと思っているからだ。
けど今回ばかりは別、一つ確認しなければいけないことがあった。
「12話……12話……確かこの辺のページに……あった、これこれ」
一クール目の終盤、東京での出来事を詳しく解説しているページにたどり着く。
東京は私とハルカの出身地だ。
「超巨大ゴーストの出現……東京は一時ゴーストに占領される……」
資料集に記載されている情報と私の記憶の中の12話を重ねる。
ここまで、蒼グレとはかなりの展開の差異があった。私的にはこの世界は本編から分離したパラレルワールドのような世界だと思っている。だから、この先同じ展開が待っているとは限らない。
だけど、もし、万が一。東京で同じ展開が待ち受けているとしたら……
私はゆっくりと資料集を閉じる、窓からは心地よい夜風が入り込んでくる。まるで私の緊張した心を和らげてくれるかのようだ。
「ここが正念場か……」
だけどまずは飛行教導群との訓練。そっちをしっかりこなさなければ……




