41話 さらば南沖島
「うーん、かなり盛り上がってるねぇ……」
ハルカが周りを見回しながらそう呟く。今日は本番当日、私達の出番はあと一時間後だ。
「これが……日本のお祭りなのね!!」
興奮気味なジェイミー、彼女は誰よりも今日を楽しみにしていたようだ。
「すごいねー!」
アカネも同じようにはしゃいでいる。よくよく考えたらこの娘、こういう体験も初めてなのだろうか?
私たちはお祭りを回りつつ、仮設ステージに向かう。ステージは随分とこじんまりした感じであった。
「まあ、こんなものでしょ」
なにせ、私たちは民間の間では完全に無名。自衛軍の間じゃ結構名が知れているらしいけど。
そうして、しばらく時間が経ち。いよいよ私達の出番が迫る。いつもの衣装に着替えてフォーメーションなどの最後の確認。
私はステージの裾からチラリと外の様子を見る。
「結構人集まってるね……」
観客なんて殆ど来ないんじゃないかと思ってたが意外にもそうでは無かったようだ。
ライブについては南沖島基地が広報をしてくれたそう。軍人のアイドルなんて居ないしそういう物珍しさが人を集めたのであろう。
「初出撃と同じくらい緊張してきた……!」
ハルカがそんなことを呟く。
「はぁ……しっかりしなさいよ!」
ハルカの背中をバンバン叩くジェイミー。
「ライブの時間は大体十五分……三曲だから少し余りますけどどうするんですの?」
と、エリナ。
「まあ、私達のパイロットとしての経験とかを話しておけばいいでしょ」
ジェイミーが大雑把な事を言う。なんとアバウトな……
「お姉ちゃん! 私もライブ見てるから頑張ってねー!」
目を輝かせるアカネ。どうやら随分と私たちのライブを楽しみにしていたようだ。
アカネの期待に応える為にもしっかりとやらなければ……
そうして、ライブが始まる。披露する曲は三曲、最初に例のカバー曲。結構盛り上がる曲なので初めに持ってきた。観客の反応は上々だった。
二曲目はこのライブの為に作った新曲。エリナが作詞した電波系の曲だ。続けてラストは"Shooting Star!!!"、私達のユニット名にもなっている曲。前二曲からの雰囲気の落差が凄いなぁと感じたがウケは悪くなかった。
「えっと……ここまでお聴きいただきありがとうございました! 改めて、私たちは自衛軍所属の音楽ユニット"Shooting Star!!!"です!」
観客に向けて改めてユニット名を名乗る。そうして私達は自分たちの事、パイロットをしてなおかつアイドルもしている事などを話した。勿論、軍事機密に関わることなどは伏せて話す。
私達の一般での立ち位置は、パイロットでアイドルをしている自衛軍の広報係みたいな扱いになる。
「というわけで、今日はありがとうございました!!」
頭を下げる私たち、観客からの拍手が聞こえる。
そうして、私達の初めての民間向けライブは無事に終わった。
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翌日、今日は一週間過ごした南沖島を経つ日だ。帰りも行きと同じように戦人機で直接名古屋に帰還する。
「三日で此処まで直してくれるとは……ここの整備班は有能だなぁ……」
アカネとの戦闘で破損した箇所は既に修復されていた。喪失した飛行ユニットも基地の予備を貸してくれた。
「お嬢ちゃん達のライブは楽しめたからな、そのお礼代わりさ」
登場前に整備員の人に声を掛けられた、有難い話である。
『むぅ……私はお姉ちゃんの機体に乗りたかったなぁ』
アカネの声が聞こえる。彼女は複座機であるXA-51に乗っている。アカネもこのまま名古屋に連れて行く予定だ。
「仕方ないでしょ……こっちは単座なんだし」
『アカネはよっぽどマイが気に入ってるようね』
と、ジェイミー。
そんなこんなで雑談をしつつ準備を進める。機体状況の確認をしつつ、天候情報の確認、航路の確認も進める。
『はぁ……なんか、凄く濃い一週間だったね』
ハルカの呟き。たしかに、ここに来てからかなり色々な事があった。
初出撃に謎の空間に飛ばされ謎の紫雲と戦いアカネと出会った。そうして最後は初めての民間向けライブ。
「なかなかこんな体験ないよなぁ……」
蒼グレだと、南沖島でのイベントは訓練と初出撃だけだった、かなり色々なものが追加されている。ここまでこれだけの異なる展開があるなんて。
「これからどうなるんだろ……」
『マイ? どうかしましたか?』
おっと、エリナに聞かれてた。
「いや、なんでもない!」
と、誤魔化す私。
『そろそろ出発の時間ね、管制室、こっちの準備は整ったわよ!』
ジェイミーが管制室に通信を入れた。
『了解、滑走路はクリア。離陸の準備に入ってくれ』
格納庫から機体を出す私達。ふと、ファフニール隊の格納庫の方を見ると、隊員の皆さんが敬礼をしているのが見えた。私達も機体の腕を動かして敬礼をしそれに応える。
『進路クリア、試験小隊発進!』
そうして滑走路から離陸。機体は浮き上がり、空へと上がっていく。
『高度制限を解除、さらばだ、お嬢さんたち』
管制から別れの挨拶。私は後部のカメラ情報をサブモニターに映す。どんどん離れていく南沖島。
「ばいばい南沖島……」
そうして、色々な事があった濃い一週間は終わった。




