36話 少女の名前は?
「……ど、どういう事ですか?」
狼狽するジェイミー。
「私がご説明します」
と、研究員の方が前に出る。
「この少女は……簡易的な検査の結果、非常に強力なステラ因子を持つ事がわかっています」
検査……いつの間にそんなことを……
「現在、最も高い純度のステラ因子を保持しているのは綾瀬マイさん……アナタですが彼女はそれとほぼ同等のモノを保持しております」
この娘が? たしかに彼女の歌声からは何かピリッと感じるものがあったけど。
「綾瀬准尉の保有するステラ因子の純度は現在世界一位です、それとほぼ同等の力を持つ彼女、非常に強力な存在です」
「で、結局この娘は何者なワケ?」
ジェイミーがそう問いかける。
「……私たち研究チームも綾瀬准尉の戦闘ログを確認しました」
手元にあるタブレットを確認する彼女。
「全く不可解な現象ですが。記録として残っている以上アレを事実として考えなければなりません」
そこでチラリと少女を見る彼女。
「……?」
少女は不思議そうな顔をして私達の会話を聞いていた。
「検査の結果、彼女の遺伝子構造は人間のものと同じ、つまりこの娘は遺伝子的には人間なのですが……」
「えっと……つまり何が言いたいんですか?」
イマイチ要領を得ない言葉だったので私は詳しい説明を求めた。
「すみません、簡潔に言います。簡易検査の時この娘に歌を歌ってもらいました」
そこでタブレットを操作して音声を流す研究員さん。流れたのは赤髪の少女の歌声であった。
「やっぱり……なんかピリピリするかな……」
私はそう呟いた。
「彼女が発する歌声からはゴーストが発する固有波形と同じ反応が出ました」
え? それって……
「つまり、彼女はゴーストであり人間でもある非常に特別な存在なのです」
〜〜〜〜〜〜〜
日本皇国 中京都 統合自衛軍 統合幕僚会議
「四時間ほど前、南沖島で大型ゴーストとの交戦がありました。その戦闘終了後、試験状態が帰投する際、隊員の1人である綾瀬准尉の機体が消失」
そしてモニターにマイの紫雲に残された戦闘データ、そしてその映像が流れる。
「これは……」「この黒い紫雲は一体……?」
口々に疑問を投げかける幕僚たち。
「これら戦闘についての詳細は現在詳しく分析中です。そして重要なのが……」
モニターには赤髪の少女の姿が映し出される。
「彼女は綾瀬准尉の機体に乗って、こちら側にやって来ました」
"こちら側"という言葉を強調するステラ計画の担当者。
「以前から人型のゴーストの存在は代々木教授により示唆されてきました……彼女がそれである可能性は非常に高いです」
この言葉により、周りは途端にざわつく。
「彼女は綾瀬准尉とほぼ同じクラスのステラ因子を保持しております」
モニターにはそのデータが示される。
「うむ……やはり、小隊を南沖島の遺構と接触させたのは効果的だったな」
幕僚の1人が呟く。
「この少女をステラ計画の"駒"に加えるべきだ……対ゴーストとの戦いにおいて日本が世界を誘導する鍵になる」
幕僚はそう言葉を続ける。
「しかしながら、ステラ計画には米帝も一枚噛んでいる、隠し通すことは不可能だ」
別の幕僚がそう言い放つ。
「あちらさんは殆どステラ計画にやる気を出していないだろ、博物館送りされかけていた失敗作の試作実験機とパイロット一名を押し付けてきただけで何も協力してくれん」
試作実験機、XA-51の事である。アメリカ帝国より送られたこの機体は米帝軍内では失敗作の烙印が押されていた。
「これからステラ計画はより慎重に進めていく必要があるな……」
〜〜〜〜〜〜〜
「この娘の名前を決めよう」
と、ハルカが唐突にそう呟く。
私達はあの後、海岸沿いの宿舎に戻り。夕食を食べていた。
「なまえ?」
赤髪の少女は首を傾げる。
結局、この娘はステラ計画の一員となることが統合幕僚会議で決まったそうだ。何というか話が早過ぎる気もする……
本土に戻ったら、精密な検査を行うらしい。取り敢えず島にいる間は私たちが面倒を見ろとのお達しであった。
「名前ねぇ……」
エリナは微妙な視線で少女を見る。なんとなく彼女は少女と距離を置きたがってる雰囲気がある。
まぁそれもそうだよね……あんな話聞かされた後じゃ……
彼女は人間でもありゴーストでもある。
かなり衝撃的な話だ。私達はゴーストと戦う存在。なのにそのメンバーに半分ゴーストの少女が入る。
複雑すぎるしモヤモヤするのもわかる……
「そうだよ! 名前!」
……むしろなんでハルカはそんなに普通にしてられるんだ?
「マイちゃんは何がいいと思う?」
唐突に私に話を振られる。
「……いや、私に言われても」
私はチラリと赤髪の少女を見る。
そういえば、この娘どこかで見たような……
「マイちゃん?」
「ん……あぁごめん、名前だっけ?」
名前ねぇ、どうやら彼女は自分の名前を知らないそうだ。それでこんな流れになっている。
「……」
ふと、先ほど見た夕陽を思い出した。気がついたら海岸にいて、コックピットから出たら目に入ってきたあの夕陽。
「……アカネでいいんじゃない?」
赤色の髪、そして夕日から取った。なんとも安直。
「アカネ! 私はアカネ!!!」
なんか気に入ってくれたみたいだしいいか……
「決まり! じゃあこの娘は綾瀬アカネで!!」
「ちょ……何で私の苗字!?」