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3話 神様からの贈り物

「………ふぁ」


 何やらいい匂いがして目を覚ます、ちらりと窓を見る、空は暗くなっていた。


 もう夜か……


 しばらくぼんやりしていたが、そのうち匂いにつられ、部屋を出て一階に降りていった。


「やっば……めっちゃいい匂い」


 ぐぅー、と腹の虫がなく。そういえば今日は朝から何も食べていなかった。


 ……この独特の甘い匂い、うなぎの蒲焼きかな?


 ガチャ


 先ほど案内された食堂に入る。そこには見知らぬ人が2人、テーブルを囲んでいた。


「お、新入りちゃん!来たね!」


 1人が陽気なテンションでそう言った。


 あ、この人……


「ふふん、私は百合ヶ浜女学園2年、町屋ユウミ、よろしく!」


 少し背が高く、ボーイッシュな雰囲気なその人はそう自己紹介する。


 ……やっぱり、この人も蒼グレの登場人物、それも5人のメインキャラのうちの一人であった。


"町屋ユウミ"


 主人公であるハルカやマイ、そしてもう1人の娘の良き先輩で戦人機のパイロットでもあった。


「……っ」


 私は思わず目を逸らす、ユウミは蒼グレでは凄惨な死を遂げ、それが主人公達に大きな心の傷を残し、バッドエンドへの大きな布石の一つとなっていた。


 私はその死亡シーンを思い出してかなり硬い顔をしていたのであろう、向かいに座っていたもう1人の女の人が柔らかな声色で「ちょっと、マイちゃんが引いてるでしょ」と会話に入ってきた。


「ごめんなさいね、この()、馴れ馴れしいから」


 うふふ、と、上品な笑いをしながらそう言ったその人は、明るいユウミとは対照的に優しい雰囲気を漂わせ自己紹介した。


「私は霞ヶ関ユキ、ここの管理人の霞ヶ関ユイの妹よ、ユウミと同じく2年生、よろしくね」


 彼女もまた、蒼グレの登場人物の一人で、メインキャラではなかったけど、そこそこ出番がある人であった。


「……綾瀬マイです! よろしくお願いします!」


 私は元気に自分の名を名乗った。


「ふふ、元気な娘なのね」


 あ、少しテンションが高すぎたか、少しだけ後悔。


 そういえば、見た目の派手さとは裏腹に、かなり冷静でクールなキャラだったなぁ


 綾瀬マイのその性格が災いし仲間と衝突するエピソードも多々あった。


 今までこの世界で生きてきて、確かにずっとそんな性格だったし、これからもそんなキャラで立ち振る舞った方がいいのかな?


 そんなことを考えてると、ふと外からまた戦人機の大きな排気音が聞こえた。


「今日はやけに飛んでるわね……何かあったの?」


 ユキさんがユウミさんにそう問いかける。


「なんでアタシに聞くんだよ」


 ユウミさんはぶっきらぼうにそう答えた。


「だって……ねえ?」


 ユキさんが私の方をチラチラ見ながらそう呟く。


 ……知ってますよ、その人が自衛軍きっての戦人機乗りだってこと


 町屋ユウミは女子高生ながら、日本皇国統合自衛軍に所属する戦人機乗り(エースパイロット)であり、蒼グレ作中においては様々な活躍をしていた。


 この人設定盛り盛りだしなぁ、JKで軍人で戦人機乗り(エースパイロット)って……


「属性盛りすぎ……」


「……どうかしたマイちゃん?」


 おっといけない、口に出ていたようだ。


「いえ……なんでも」



「みんなー! 夜ご飯できたわよ!」


 そこに管理人のユイさんが現れ、テーブルに料理を用意していく。


 す、すごい……美味しそう……


 用意された料理は名古屋メシの一つ、"ひつまぶし"であった。


「うまそー! いただきます!!」


 ユウミさんは嬉しそうにひつまぶしを食べ始める。


「マイちゃんも、どうぞ」


「……はい、いただきます!」


 私はそれを食べ始めた。


 ……その日、私はひつまぶしの虜になった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「はぁ……美味しかったなぁ」


 晩ご飯を食べ終わった私は部屋に戻り窓を開けて外の景色を眺める。


「あ、名古屋城……」


 ここは随分と景色が良い、中心部から少し離れた場所にあり、名古屋市を一望できる良いロケーションであった。


 林立するビル群、その中にあの名古屋城も存在していた。


「やっぱり……私の世界の名古屋より発展してる……のかな?」


 ここで少し蒼グレの世界の日本について思い返していこうと思う。


 蒼グレ世界の日本は日本皇国という現実とは少し違った国になっていた、首都は現実の愛知県に存在してそこは中京都と呼ばれる場所になっていた。


 ……流石にそれ以上の事はあまり思い出せない、他にも色々設定があったはずだけど……


「はぁ……せめて蒼グレの設定とかもっと詳しく分かればなぁ……」


 と、そんな事を呟く、その時。コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


「マイちゃん、ちょっといい?」


 ユイさんの声が聞こえる。


「は、はい」


 私がそう答えると、ドアが開けられる。ユイさんは何かを抱えながら部屋に入ってきた。


「これもマイちゃんの荷物でしょ? 今朝郵便で届いたの」


 ユイさんは大きくて厚めな封筒を渡してに差し出した。


「え?あ、はい……どうも」


 私は戸惑いながらそれを受け取った。


「じゃあ、あ、そうだ、マイちゃんお風呂の場所は昼に説明したでしょ? 沸いてるから入っちゃって」


 そう言ってユイさんは部屋を去っていった。


 お風呂か……入る、入りたいけど、まずはこの謎の封筒だ。


「私、郵便で荷物なんて送ってないけど……」


 封筒を見ると、ここの住所と私の名前だけが宛先として書かれていた、差出人の情報はなかった。


「……まあいいか」


 若干迷ったが、大人しく開けてみることにした。


 中から出てきたのはずっしりと思い大きめの本だった、私はそれを見て目を疑った、だってそれはこの世界に存在しないはずのものだったからだ。


「なんで……こんなものが……」


 その本の表紙には。


"蒼き詩のガングレーヴィア"


 というロゴ。戦人機やハルカ、マイ達のイラスト。そして「設定資料集」という文字が書かれていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 当たり前だが、この世界に"蒼の詩のガングレーヴィア"というアニメは存在しない。


 この世界の日本、日本皇国でもアニメというものは盛んだ、私も前世からの血なのか、マイとしても、アニメというものを嗜んでいた、しかし今まで、前世の記憶が戻るまで蒼グレという名前は一切聞いたことが無かった。


 記憶を取り戻した後、スマホで調べてみたがやはり、この世界に蒼グレは存在しないようだった。


 じゃあ、私の目の前にあるものは何!?


 この世界にあるはずのない設定資料集、ふと封筒から一つの紙切れが滑り落ちてきた。


「……は?」


 私はその紙をみて目を疑う、そこには「神様からのプレゼント!チート能力はないけどこれで頑張って! by美少女女神より」と書かれていた。


「もしかして……」


 私の脳裏にあの女神様がよぎる。


「はぁ〜……」


 私は一気に脱力する、よくわからないけど、転生モノ作品にありがちな転生特典みたいなものなのかな……


「だる……」


 まあいいや……明日読もう……


 どっと疲れに襲われた私はそのまま眠ってしまう。


 だが私は後悔することになる、この時設定資料集を読まなかった事を。


 この翌日から第一話という運命の歯車は音を立てて回り始めていたのであった。

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