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34話 空の欠片

「あれは間違いなく普通の紫雲じゃない……」


 私の紫雲とは桁外れに性能が上。姿形は全く同じはずなのに動きはまるで別物だ。


 いや、私がパイロットとしてまだ未熟だってのもあるけど……それを差し引いてもあれの動きはおかしい。


『……! そんな、まさか……』


 シリウスの驚く様な声がコックピット内に響く。


「ど、どうしたの?」


 私が問いかけると、シリウスは言うのを躊躇う様な仕草を見せた。だがやがて意を決したような表情を見せる。


『コンピューターによる解析の結果、あの紫雲から発せられる波長はゴーストのモノと酷似しています』


 ……えっと、つまりどういう事なの?


『あれは、ゴーストである可能性が高いです』


 え? いやいや……そんなバカな話があるのか?


「ゴーストってあんな機械的じゃないでしょ」


『そのはずですが……』


 私は再度、漆黒の紫雲を見据える。確かに、そのカラーリングはゴーストそっくりだ。


「でも、そんな事って……」


 長刀を構えたまま此方の様子を伺う敵、あれがゴーストだとは信じ難い。私はまたおかしな夢でも見せられているのであろうか。


 言われてみれば、そのゴーストから発せられる雰囲気は何処となくゴーストに似ている気がする。


「……! でもゴーストなら!」


 そう、あれがもし本当に私たちが戦っているゴーストと同じならば、私の歌声が届くはず……


『マスターも同じ考えですね、試してみる価値はあります』


 音響増幅装置……は飛行ユニットと共に接続を解除してる。確か飛行ユニットと同じく破損してたと思う、なしで歌うしかない。


 戦人機に搭載されているデフォルトのスピーカーにアクセスする。曲を流す音響増幅装置が無いのでアカペラで歌うしかない。


『マスター! スピーカーが外部拡声モードに切り替わりました』


 シリウスの合図と共に、私は"Shooting Star!!!"をアカペラで歌い始める。


 この不思議な空間に私の歌声が響いていく、なんだか不思議な感覚だ。こんな場所で歌うことになるなんて。


『敵ゴーストの動きが止まっています、やはり効果はあるようです』


 モニターを確認。漆黒の紫雲は長刀を構えるのをやめ、静かに立っている。


 と、その時であった。突如、敵の紫雲のコックピットハッチが開かれる。ど、どういう事……?


 そうして、中から現れたのはあの赤髪の女の子であった。



〜〜〜〜〜〜



 やっぱり……あの娘が乗っていたんだ。なんとなく予想はついてたけど。


『あの少女は一体……?』


 と、困惑するシリウス。


「……」


 予想はついていたけど、実際にこうして事実を突きつけられると混乱する。どうしてあんな小さい娘が。しかもあの紫雲は普通の紫雲じゃない。


 私はモニターを通し、様子を伺う。すると彼女はこちらに向かって手を振ってきた。


 私はコックピットハッチを開けようとした。しかしシリウスに『危険です』と止められる。


『相手の正体が全くわからない以上……」


「いや、多分もう大丈夫だと思う」


 もうあの紫雲やあの少女から敵意は全く感じなかった。私はコンソールを操作してハッチを開けた。


 コックピット内に外の空気が流れ込む。中にこもっていた緊迫した空気が一気に外に流れて消えたような気がした。


「お姉ちゃ〜ん!!!」


 と、少女の叫び声。


 私は機体に片膝立ちの姿勢をつかせる。そしてコックピットブロックから飛び降りた。


 少女も同じ動作をして地面に飛び降りる。そうしてこちらに駆け寄ってくる彼女。


「すごい綺麗な歌声……! お姉ちゃん歌上手だね!」


 と、彼女に褒められる、それは悪い気はしないんだけど……


「ねぇ……アナタ何者なの?」


 私は彼女に問いかける。


「うーん、私もわからない」


 この前と同じ返答。


「アナタもしかして……」


 ゴーストなの? と聞こうとした、だが流石に言えなかった。だって私の目の前にいるのはどこからどう見ても普通の女の子。この娘がゴーストだとは思えない……だけど。


 私はチラリと後ろに片膝立ちをしている漆黒の紫雲に目を向ける。シリウス曰く、あれからは間違いなくゴーストの反応がある。


「はぁ……」


 私は頭を抱える。南沖島に来てから理解が追いつかない出来事ばかり起きている。


「〜♪」


 ふと、赤髪の少女の方をチラリと見る。先程歌った私たちの曲"Shooting Star!!!"のイントロを口ずさんでいた。


「夜空に手を伸ばし〜……」


 彼女が辿々しく歌い始める。気に入ってくれたのだろうか……なんとなく私も合わせて歌い始めてみた。


 神秘的で不思議な空間に私たち2人の歌声が響き渡る。


 そうして、サビに入る。その時だった。


 ピシッ……ピシッ……


「……!?」


 突如、空にヒビが走る。一体何が……!?


 空のあちこちにヒビが入り。ガラスの欠片のように崩れ去り始める。


『マスター! 危険です!! 早く機体の中に!!」


 私の紫雲からシリウスの声が響く。


「〜♪」


 こんな状況なのに少女は構わず歌い続けていた。


「な、なにしてるの? 早く……!」


 だが彼女は全く動こうとしなかった。


「〜〜ッッッ!! もう! ほら逃げるよ!!」


 仕方ないので彼女の手を握り、紫雲の方に駆け出した。紫雲のそばに辿り着くと、マニュピレーターが差し出される、シリウスが動かしてくれているのだろう。


 私と少女はそれに飛び乗る。そうして持ち上げられコックピットブロックの近くで止まる。私たち2人はコックピットに飛び移った。


 プシューと音を立ててハッチが閉じられる。





 そうして、神秘的で不思議な世界はガラガラと崩れ去っていった。

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