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33話 史上最大の危機

「あの機体は……」


 私の頭の中にあの夢での光景が思い浮かぶ。あの時とは違い、飛行ユニット装備のフル武装状態であった。


『IFF(敵味方識別装置)、応答なし、姿は紫雲ですが……国籍マークなどが存在しません」


 チラリとコンソールパネルを見る、《IFF Unknown……》の表示、敵か味方か判断がつかない状況だ。


 そこにいるのは私の紫雲・丙型と同型機……のはずなのに、あれからは異常なプレッシャーを感じる。


 操縦桿を握る手に力が入る。


「はぁ……はぁ……」


 私の息は荒くなる。顔に汗がタラリと流れるのを感じた。漆黒の紫雲はすぐ近く、格闘戦圏内に立っている。


 スナイパーの仕事する距離じゃないよねこれ……


『そこの紫雲・丙型、貴機の所属と目的を問う』


 シリウスが漆黒の紫雲に向けて通信を試みる、しかしながら相手からの応答は全く無い。


 と、その時だった。突如その紫雲が背中から長刀を抜いた。


「やろうってわけ……?」


 それを肩に担ぎ上げる漆黒の紫雲。その特徴的な頭部のバイザーからは物々しいプレッシャーの様な視線を感じた。


 ふと周りを見渡す、相変わらずに神秘的な光景。この緊迫した状況を嘲笑うかのようだ。


 私は兵装選択システムを操作して、右手に長刀、左手には30mm短機関砲を装備した。すると相手は手をクイクイさせて私を挑発する様な動きを見せた。


「なに……かかってこい、って言いたいの?」


 肩に担ぎ上げていた長刀をブンっと振り下ろし構える漆黒の紫雲。


『マスター、危険です。ここは距離を取って……』


「わかってるって!」


 と、その瞬間、紫雲が長刀を水平に構えてこちらに突進してきた!


 ビーッッ!!!


 という喧しい警告音がコックピット内に響く。モニターのIFFの表示はEnemy(敵)に切り替わっていた。


「っ……! あんな挑発して結局そっちから突っ込んでくるわけ!?」


 私は手持ちの短機関砲を構える操作を行う、あの紫雲は敵……シリウスがそう判断した、しかし……もしかしたら人が乗っているのかも……


 その思考のせいで私の動きが若干であるが遅れる。


『マスター! 攻撃してください!! 相手は明確な攻撃意識を持っています!!』


 シリウスの叫ぶ様な声。


 迫ってくる紫雲に向け標準を取り射撃体制に。FCSは短距離交戦モードに切り替わる。


「っく……!!!」


 だけど私はトリガーを引けなかった、何故か一瞬夢に出てきたあの赤髪の少女のことが思い浮かんだからだ。私は機関砲を投げ捨て長刀で受ける姿勢を取る。


 ガキィィィィィン……!!!


 という、大きな鍔迫り音。


 機体を襲う大きな振動。コックピット内が鍔迫り合いの衝撃でビリビリと振動する。


「……っああつ!!」


 私は振り下ろされた長刀を左に受け流す。そうして脚部の姿勢制御用バーニアを作動し後ろへと跳躍。


『マスターの格闘戦能力では危険です』


「わかってるってば!!」


 自動姿勢制御システムが作動し安全な着地が行われる。


 私は覚悟を決め、頭部に搭載されている20mmCIWSを作動するため、操縦桿に付けられているトリガーとは別のボタンを押す。


 バラララ……と30mm機関砲より軽めな連続した射撃音。しかし……


「避けられた!?」


 まるでこちらの動きなどお見通しだ、とでも言わんばかりの動作で射線から外れ、それを躱す。


 なんなのさっきから……こいつ遊んでるの?


「……っ! 私を無礼るなぁぁ!!」


 飛行ユニットのターボジェットエンジンを吹かして一気に漆黒の紫雲に向かい跳躍、長刀を振りかざす。


 フォン……


 虚しく空気を切り裂く音がスピーカー越しに聞こえてきた。


 私の斬撃を横に躱した漆黒の紫雲。


「……!」


 一瞬、その紫雲の頭部バイザーから微かに見える鋭いカメラセンサーが光った様な気がした。


『マスター! 避けてください!』


 シリウスの指示、しかし遅かった。敵はクルリと華麗な一回転をし……


「っっっっあああああ!!!」


 機体に響くあまりにも大きな衝撃。金属と金属がぶつかり合うあまりにも激しい衝突音。


「ん……はぁ……んっ……」


 意識が掠れる……やばい……一瞬気を失いかけてた……


 いくら慣性減衰システムを備えているとは言え、機体に受ける衝撃をゼロにするのは理論上不可能とされている。


 つまり、70〜80%カットした状態であれ。このシステムが無かったら……


「……ちょっと、本格的にまずいかもこれ」


 私は機体状況を確認する。回し蹴りを入れられたのは丁度右脇腹の部分。


『腹部装甲に異常発生、衝撃で飛行ユニットが破損、使用不可能です。オーバーウェイトになるのでパージします』


 シリウスの冷静な分析、飛行ユニットへのアクセスが切り離される。


 そうして背部の飛行ユニットの接続が解除される。ズシンという大きな地響きを立て背部から滑り落ちる飛行ユニット。これで私の紫雲は飛べなくなった。


『機体の損害率、小破程度と認定』 


 シリウスの分析。これでもまだ小破……戦うことは可能であるが……


「まさしく絶体絶命だよねこれ……」


 機体を操作して立ち上がらせる。相手は本当に同型機なのであろうか、動きが違いすぎる。

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