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32話 漆黒の紫雲

 そうして、私達の戦術戦技が始まった。私達の機体には戦乙女専用の装備として"20式音響増幅装置"が備え付けられている。


 翼下に、他の兵装と共に懸架されているそれは、一見すると普通のスピーカーの様なモノである。


 しかしながら、これは私たち戦乙女より発せられる歌声を、より効果的に戦域に伝播させる為の特殊な装置であるらしい。


 〜♪


 そのスピーカーより"Shooting Star!!!"のイントロが流れ出す。


 そして、私達はその曲を歌い出した。戦人機の中で歌うなんて変な感じだ。まぁ初搭乗イベントの時にも歌ったけど……


 私達4人の歌声が重なり、周辺戦域に響く。


『……効いています、シータ級の活動が減衰しつつあります』


 シリウスが現状を報告してくれる。


『奴の動きが鈍っている! ファフニール隊全機、今のうちに攻撃を仕掛けるぞ!』


 グリフォンリーダーが叫ぶ、周囲で状況を伺っていた晴嵐がシータ級に向かい破壊力の高い対大型ゴースト用ミサイルを発射。


 一斉に放たれたミサイルはシータ級からの迎撃を回避するため海面ギリギリを低空飛行、目標直前でポップアップ、一気に高度を上げ……そのままシータ級の背面に直撃……!


 ズガァァァァァァァァン…………


 という、複数の炸裂音。


『背部に存在するコアが露出しました』


 私はモニター越しにシータ級を確認。爆煙の中にわずがに赤く光輝いているモノが見える。


 丁度私の位置から射線が通りやすい、限界高度ギリギリにフォーメーションを取っているのは私たち試験小隊だけだ。


「わ、私が狙撃します!」


 念の為に構えていた長距離狙撃砲を構える。


『ミュージック3! 頼んだ!』


 ファフニールリーダーからの通信が入る、私は砲身をシータ級に向けた。


『滞空状態での狙撃は初経験ですが大丈夫ですかマスター?』


 シリウスが心配そうな声を上げる。地上でドッシリと姿勢を構えて狙撃するのと空中で滞空したまま狙撃するのでは訳が違う。


 "Mk-2 長距離狙撃砲"はなるべく反動が出ないような設計がされているが反動はゼロではない。


 そのため滞空状態で狙撃を行うためには姿勢制御用のバーニアで反動を打ち消す必要がある、無反動砲と同じ原理だ。


「いいから黙って準備! 反動計算頼むよ!」


『了解ですマスター』


 FCSが狙撃モードに切り替わる。操縦桿のトリガーに指を置く。


「……」


 その間にも、他のメンバーは歌い続けている。継続的にシータ級の動きを止める為だ。


 そうして目標を捉え、トリガーを引く。


 ドゴォォン……


 という鈍い砲撃音、127mm砲から放たれる特殊砲弾が放たれる。この特殊砲弾はGPSと姿勢制御用スタビライザーにより、終末誘導がかかるいわばミサイル砲弾の様なものだ。流石にこれが外れる事はない……はず。


 そうして響く着弾音、私はすかさず二発目を放つ、再度響く鈍い砲撃音。そして再度大きな着弾音。


『……目標、完全に動きを止めました』


 そうして、シータ級は大きな咆哮をあげ霧散した。


「か、勝った……?」


 レーダー情報を確認、周囲に敵影はない。


『周辺空域に敵影なし、作戦は成功です』


 管制から通信が入る。


「ふぅ……」


 緊張が途切れ、大きな息を吐く私。


『マイ、アナタの狙撃が初めて役に立ったわね』


 と、ジェイミー。


「うるさいなぁ……」


 あんな特殊砲弾使って外す方が難しいでしょ、通常砲弾だったら……いや、考えない様にしておこう。


 特殊砲弾は凄く値が嵩張る、あまり気楽にポンポン撃てるものじゃない。


『試験小隊、いい歌声だった、支援に感謝する』


 ファフニールリーダーからの感謝の言葉。


『ありがとうございます』


 ジェイミーがそれに返答する。



『作戦終了、全機RTB(return to base)』


 そうして私達の初任務は終了した。



〜〜〜〜〜〜〜〜



『終わったね〜』


 ハルカが疲れの籠った声でそう呟く、現在基地に向かい帰投中だ。


「帰ったらすぐ歌とダンスの練習だよ?」


 既に演習予定時刻は終了している。このまま帰ったら今度はそっちの練習だ。


『うげ……ハードスケジュール……』


 項垂れるハルカ。


 と、その時だった。


「っつ……頭……またこれ……!」


 激しい頭痛……痛い! これで何度目!?


『マスター……! 警戒してください……周囲の様子がおかしいです!!』


 と、シリウスの叫び、気がつくと頭痛は収まっていた。私はモニターで周囲の状況を確認する。


「は……?」


 私の周りに広がっていたのは……あの夢の中の不思議な空間であった。


「ここ……ウユニ塩湖みたいな場所……」


 またおかしな夢でも見ているのであろうか。


『おかしいです……GPS信号が帰ってきません、衛星通信も途絶、周囲に味方気の機影なし……』


 シリウスが困惑した様な声を上げる。


「そんなはず、ついさっきまで小隊みんなの機体も見えてたし、ハルカと通信もしていたんだよ!?」


 そんなバカな話があってたまるか。レーダー情報……アンノウン? 広域モードに切り替え……座標データなし……


「なにがどうなって……」


『……!? 九時方向に機影!? いつの間に!』


 私は急いでその方向を確認する、そこにいたのは……


「え……?」



 あの時夢で見た、漆黒の紫雲であった。

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