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31話 蒼き太平洋

 演習の結果は、まあ私が負けた。割と良いところまで行ってたと思うんだけど……あそこで狙撃が成功してたら多分私が勝ってたよ? いやホントに。


 そして、次の対戦に備えて待機していたら、南沖島の基地から呼び出し命令がかかった。


 何事かと思って急いで戻ってきた私たちに待っていたのは……



〜〜〜〜〜〜〜〜〜


南沖島基地 ブリーフィングルーム



「でっか……」


 モニターに表示されたのは、鯨のような巨大生物であった。


「シータクラスね、私も見るのは久しぶりだわ」


 と、ジェイミー。


 シータ級、座学でも習った、稀に出現する超大型ゴースト。だけどまかさこの島の近くに出現するとは……


「付近にはシータ級の他、複数のアルファ級の出現も確認されています」


 基地管制員さんが説明をしてくれる。雑魚のおまけ付きらしい。


「これらのゴーストは現在北上中、進路にはこの島が被っています」


 モニターに表示されるマップ。ゴースト群の予測進路が書かれている。


「これまた綺麗にこの島とかぶってるね……」


 ハルカが呟く。


「試験小隊には、当基地の戦人機隊と共にこれらの迎撃に当たってもらいたい」


 基地司令の説明。いよいよ初出撃……しかし、蒼グレと同じ展開ではあるが、問題は……


「出る以上は戦術戦技(ライブ)も行うべきね」


 と、ジェイミー。戦術戦技とはその名の通り私達の歌声によりゴーストを弱体化させる事。


 理論はすでに完成しているが、実際にこれを行うのはもちろん世界初になる。


「自衛軍の中央戦略情報センター、およびステラ計画研究チームからも、戦術戦技の許可は出てる、思う存分活躍してほしい」


 期待されているのか……かなりのプレッシャーだ。失敗したらと考えると……


「たとえ撃ち漏らしたとしてもファフニール隊(ウチの隊)がケリをつける、うちの隊は熟練揃いだ」


 私の心配を察知したかのような基地司令の言葉。


「大丈夫よマイ、この日の為にどれだけ訓練を重ねてきたと思ってるの?」


 ジェイミーが私の背中を叩く。


「だね……しっかりしないと!」


 私は決意を固めた。大丈夫、蒼グレじゃ特に何もなくゴースト撃滅に成功していた。こっちでも上手くいくはずだ。


「作戦開始時刻は一三〇〇、各自それまでに準備を済ませてくれ、以上! 解散!」



〜〜〜〜〜〜〜



 作戦開始まではあと二時間少しある、私達は準備を済ませ、各自各々の場所で待機をしていた。


「……あれ、エリナ、こんな所にいたの?」


 パイロットスーツに着替えた私は、基地の屋上に来ていた、此処からは基地や島が見渡せる。


「マイ……」


 振り返るエリナ、彼女は柵越しから太平洋を眺めていたようだ。私は彼女のそばに行く。


「んー、なかなの景色だねここ」


 柵越しに見える景色、この島には高い建物もあまりないので視界を遮るモノはない。


「飲む?」


 私はエリナに飲みかけのコーヒー牛乳を差し出した。先ほど基地の購買部で購入したモノだ。


 余談ではあるが私はコーヒー牛乳が大好きだ、あの甘ったるい感じがたまらなく好き。


「い、いらないわよ……」


「そう」


 私は彼女の隣に立ちキラキラと蒼く光り輝く広大な太平洋を見つめる、海からの風が少し吹いてきて潮の香りがした。


 チラリとエリナの手を見る、震えていた。


「…………」


 そっとエリナの手に私の手を重ねた。


「ちょ……! 何を……」


 慌てる彼女。


「大丈夫、私も怖いから」


 私の手も震えていた、流石に初出撃は怖いし緊張する。


「わ、ワタクシは違いますわ! これは武者震いですわ!」


 強がっちゃって。こういう時は……そうだ、歌うに限る。


 こういう時は、蒼グレのオープニングがいいだろう、あの曲には私は何回も勇気をもらっている。


 私はスーッと息を吸った。そうして歌い始める。


「……」


 彼女はそれを静かに聴いてくれた。そうしてテレビサイズのオープニング曲を歌い終わる、エリナの手の震えはすっかり消えていた。


「ふ、ふん……ま、まあまあ悪くない歌声ですわね」


 褒められた、やっぱり歌声を褒められるのは嬉しい。私は彼女の顔を覗き込む。


「守ろうね、この島を」



〜〜〜〜〜〜〜



『作戦概要を復唱します、先行するファフニール隊が誘導ミサイルによりアルファ級の露払いを行います』


 モニターの中のシリウスが作戦の内容を再度説明し始める。


『我々第一試験小隊は、それに後続し戦術戦技(ライブ)でゴーストの弱体化を試みます、最終的に二つの隊でシータ級を撃滅、以上になります』


 私は機体チェックを行いながらそれを聞き流す。


 兵装チェック、私の紫雲に搭載されているのはいつも通りの遠距離タイプの兵装。


『マスターの狙撃が役に立つ事を期待しています』


「うるさいなぁ……」


 AIも嫌味を言うようになったのか……全てのチェックを終えた私は滑走路の方を見る。


『ファフニール隊が発進しました、規模は二個小隊程度、彼らは手練れですので心配はいらないでしょう』


 滑走路では先行予定のファフニール隊の晴嵐が次々と発進を行なっていた。


『第一試験小隊、発進準備どうぞ』


 管制からの指示。


『じゃあ行きましょうか』


 ジェイミーの声。私達は格納庫から出て準備に入る。


『マイ』


 エリナから呼びかけられた、どうしたのだろうか。


『さっきの、なんて曲ですの?』


 なんだ、そんな事か。


『……教えない』




 そうして私達は作戦域に向かい飛び立った。

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