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30話 密林の紫雲

南沖島 統合自衛軍 密林演習場



『レーダーに感なし、周囲百メートルに目標は発見できず』


 シリウスの声。私はモニターのレーダー情報を確認する。静かなものだ。


「はぁ、しっかし、こうも視界が悪いと移動するのも大変ね……」


 モニター越しに見える木、木、木……本当とんでもない場所で演習させられるんだなぁ……


 私は今、南沖島にある自衛軍の演習場にて、演習訓練の真っ最中である。研究調査が終わり翌二日、つまり今日と明日は戦人機による戦闘訓練を行う。


『視界情報にとマップ情報を併用して確認してください』


「う、うん……」


 今は模擬戦の真っ最中である。相手は同じく"紫雲・丙型"を駆るエリナ。彼女とのタイマン勝負である。


 私は手元のサブモニターに表示されている搭載火器情報をチラ見する。今回も例の如く長距離狙撃砲をメインアームとした長距離タイプの装備だ。


 だけど、万が一の格闘戦を想定して近接用大型長刀を一本持っている。


「剣術は苦手なんだよなぁ……」


 どうしたらユウミさんの様に上手く扱えるのだろうか。


 

 ……しかし、もどかしい、のそのその歩いてないで優雅に空を飛びたい。特に高度制限がかかっているわけじゃないし。


『飛行はダメですよマスター、すぐに発見されます』


「はぁ……わかってるって、考え読まないでよ」


 しばらく進むと、周りを見渡せる少し高台になっている場所に着く、私達はここに陣取りエリナを待ち伏せる作戦だ。


『ここで待機、エンジンをアイドル状態に移行します』


 エンジンのタービン音が格段に小さくなる。これで周りの音をさらに拾いやすくなった。


「……」


 ふと、私は自分の胸の部分を見てみた。そこにはスナイパーライフルと音符をモデルにしたパーソナルマークがスーツにペイントされている。


 これと同じものが私の紫雲の右の肩にもペイントされている、最近になって付けられたものだ。


 このパーソナルマークはつい最近決めたものだ。ちなみにエリナは猫、ハルカはハートのマークにしたとの事。


「こんな立派なマークつけてるのに、狙撃の腕は上がらないなぁ……」


 と、愚痴りながらコントロールパネルのマスターアームスイッチを起動。これにより全武装が即座に使用可能状態になる。私は折りたたまれている狙撃砲を展開。


『マスター、十時の方向、距離およそ九十、駆動音と移動熱源を確認。赤坂機と推定』


 モニターに情報が表示される。確かに、見え辛いが"紫雲・丙型"らしき影が映っている。


 こちらも相手も"紫雲・丙型"、搭載されている電子兵装は同じなので、索敵能力は同じ。だけど動かずに出してる音も少ないこちらの方が早く発見出来るのは当然のことであった。


「まだ気が付かれてないよね……」


 私は即座に狙撃体制に入る。


「……っ」


 息を呑む、操縦桿を握る手が汗ばむ。私は一度そこから手を離す。


「はぁ……」


 今度は当たってよ……!


 トリガーを引こうとしたその瞬間であった。突如エリナの機体が飛行ユニットを使用して垂直上昇を始めた。


『狙撃するのが遅過ぎですマスター、判断は素早く出すのが鉄則。レーダー照射を確認、位置が特定されました』


 えっ、ちょ……


『赤坂機より小型目標が分離、"AGM-I 空対地ミサイル"と思われます』


 いやいや! 流暢に言ってる場合じゃないでしょ!!


「も〜う!! なんで私の狙撃はこううまくいかないの!?」


 私は即座にチャフグレネードを展開。肩部に搭載されてるディスペンサーより撹乱用のグレネードが発射される。


「シリウス! 後ろに下がって立て直すよ!」


 こちらに向かって発射されたミサイルはチャフにより防がれた。爆発の振動が伝わってくる。もちろんこれらもコンピューターの演出なのだが。


『マスター、それは厳しいかと』


 モニターにはこちらに向かって一直線に飛んでくるエリナの紫雲が。


『マスターは格闘戦が苦手ですので、ちょうどいい機会ですね』


 コンソールを操作、背面より近接用長刀を抜いた。


「あー! 剣術は苦手なのにっ!!」



〜〜〜〜〜〜〜〜


同日、南沖島戦闘情報管制センター



『"イーグルアイ"より、南沖島コントロール。目標を視認した、画像データを転送する』


 二時間前、南沖島のレーダーサイトがゴーストの出現を感知、状況確認の為、基地より発進した"二式早期警戒戦人機"によりそのゴーストの画像データが転送された。


「で、デカイな……」


 驚愕する管制員。出現したのはシータ級と呼ばれる大型のゴーストであった。


 その姿は大きな鯨にも似ている。シータ級はこの空は自分のものであると主張するかの如く悠々と空を飛んでいた。


「周りに小型の雑魚も多いですね」


 画像にはアルファ級の群れも確認できる。


「ウチの基地だけで捌き切れますかねこれ」


 南沖島基地には、戦人機8機を始めとする一個飛行隊のみが配置されている。


「……今回は、頼もしい援軍がいるだろう。上はあの娘達の戦果を期待してる」


 と、基地司令が呟く。


 援軍、"第一独立試験小隊"、マイたちの事だ。


「彼女たちを基地に呼び戻してくれ」

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