2話 入寮
ここで今一度、私が前世で最後に見た"蒼き詩のガングレーヴィア"について説明していこう。
"蒼き詩のガングレーヴィア"、通称蒼グレはその筋では有名なロボアニメであった。
内容はありふれたような作品で、女子高生達が訳あって"戦人機"と呼ばれる人型ロボットに乗って未知の敵と戦うことになる、そんな作品であった。
しかし蒼グレには一つ大きな特徴が存在していた。それは……
あまりにも救いようのない超絶バッドエンドで物語が終わってしまう
蒼グレの終わり方はアニメ史上に残る最悪のバッドエンドと呼ばれ、最終回放送当時はその終わり方のせいで、某掲示板では本スレが一晩で10スレ消費する、そんなレベルのものであった。
その終わり方からアニメの評価は真っ二つに分かれ、賛否両論の嵐であったらしい。
さらに、蒼グレには続編が存在しない。その救いようのない終わり方からファンから続編を求める声があるが私が事故死してしまったあの日まで、最終回後を描いた物語は一切存在しない。
「うぉぉ……」
最終回を見た私の第一声がそんなものであった。
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「大丈夫?何か気持ち悪かったりしない?」
「あ、はい……大丈夫です……」
私はあの後、事故を目撃していた女の人に連れられ病院にやってきた。
「それにしても、名古屋にきて初日に事故に遭いかけるなんて、あなたちょっと心配になるわね……」
目の前の女医さんがそんな事を言った。
この人は霞ヶ関ユイさんと言って、寮の隣にある小さな病院"霞ヶ関医院"で町医者をしつつ私が入る予定の寮の管理人をしている人だ。
あの事故を偶然目にしていたユイさんは、私と女の子が念の為、怪我をしていないか診てくれた、女の子はどこも異常はなく、私も頭に軽いたんこぶを作ったくらいですんだ。
その後、女の子は家に帰り、私達は隣にある寮に向かった。
「……」
道中、私はユイさんを無言で見つめる。
「どうかした?」
「いや! な、なんでも……」
……この人も蒼グレに出てきたな……確か……
「はい、じゃあここが今日から貴方が住むことになる"桜寮"よ」
私の思考はユイさんのそんな言葉に打ち消される、彼女は優しく私に微笑みかけながら"霞ヶ関医院"の隣にあった建物を紹介した。
「ここが……」
寮は少し古めかしい、小さな洋館みたいな建物であった。
まあ、蒼グレに出てくるし知ってたけど……
「……? マイちゃんどうかした?」
「あ、いえなんでも……」
……主人公の娘、もしかしてもう寮にいるのかな
私はそんな事を考える。
そう、蒼グレには当然ながら主人公が存在した、蒼グレはメイン5人の女の子で話が進行する作品であった。私こと綾瀬マイはそのうちの1人、だけどマイは主人公ではない。
"湯島ハルカ"
私と同い年の少女、彼女が蒼グレの主人公であった。
「……あの、この寮ってどれくらい人います?」
「え? あー、あなた合わせて4人かな?」
随分少ない……そんな寮ってある?
「あの……私と同じ一年生の娘って……」
私は遠慮しがちに聞いた。
「1人いるわね、まだ来てないけど」
1人……きっと主人公だろう。
「さ、入って」
気がつくと私は寮の玄関前にいた、うん、改めて見るとやはり小ぶりながら立派な建物だ、庭も広いし。
「お、お邪魔します」
「違うでしょマイちゃん?今日からここはあなたの家になるのよ?」
ユイさんは優しげにそう言った。
「じゃあ……その、ただいま……」
「よくできました、いい子いい子……」
お約束のやりとりであるが、なんだか凄く恥ずかしい。
寮の中もやはり何か立派な作りで、歴史を感じさせる雰囲気が漂っていた。
軽く一階の間取りを案内された後、私は2階の部屋に案内された、部屋は案外現代的な普通の感じだった。
……まあ、アニメで雰囲気は予想できたけど
「……本当にマイちゃんだ」
私はスマホを取り出して内カメラを起動、そこにいたのは紛れもなく綾瀬マイ、地味目なオタク少女ではなく、派手な金髪のギャルの美少女であった。
「なんか不思議な感覚、マイとして今までずっと生きてきたけど……」
前世の記憶を思い出すってここまで不思議なものなのかな……いや、そもそも単純な前世来世の関係なの?ここって蒼グレの世界っぽいけど
私はベッドに倒れ込む。今日はいろいろなことがあって疲れた。既に部屋に運ばれていた私の荷物を整理しなきゃいけないんだけど、とにかく疲れた。
「……ん…………」
そして私は眠りの中に誘われた。