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21話 夕日と思惑

『状況終了、各機演習を停止してください』


 管制からの通信が入る、もう10分経ってしまったのか。やはり10分なんてあっという間だ。


「はぁぁ〜〜っ…………」


 終わってしまった、結局ユウミさんに擦り傷一つすらつけられなかったんじゃないか……?


『終わっちゃった〜』


 ハルカの残念そうな声が聞こえる。


『…………後は上がどう判断するかね』


 ジェイミーの冷静な呟き、私は空を見る、先ほどまで滞空し状況を観察していた無人観測機が基地の方に戻っていくのが見えた。


「一発くらいは入れたかったんだけどなぁ……」


『マイちゃん狙撃下手すぎ』


 うぐ…………うるさいなぁ、相手があんな規格外だとは思わなかったし。決して私が下手くそだった訳ではない。決してそんな事はない!!


『マスターの狙撃精度は一般のパイロットと比べ30%程劣っています、もう少し精進すべきです』


 しょうがないじゃん……まだ砲をとって二週間だよ……?


 遠くから"XA-51"が飛んできて、私のすぐそばに着地した。


 私はコックピットハッチを開き外に出る。"紫雲・丙型"の頭部の下、胴体丁度コックピットブロックの上のあたりには少し平らになっている部分が存在する、私はそこに登り座り込む。お尻からは"紫雲・丙型"の動力であるガスタービンエンジンの振動が伝わってくる。



 なんだかとても疲れた。こんなに神経を使ったのは初めてかもしれない。


「…………ふぅ」


「マイちゃんおつかれ〜」


 同じ様にコックピットから出てきたハルカ。


 ……今更だけど、彼女が着ているパイロットスーツ、やはりかなり際どい、まあそれは私も同じなんだけど。私は自分の身体を見る、うん、これは出来ればあんまり人に見せたくない。


「強かったね」


 トン、トン、とうまく機体を伝って私のいる場所に来る彼女。中々のバランス感覚である。そうして私の隣に座り夕日を見つめる。


「……マイちゃん、ありがとうね」


 何故だか突然お礼を言ってくる彼女。


「別にお礼を言われる様なことは、2回も外したし…………」


 すると彼女は私に寄りかかってきた。


「それじゃなくて、この街に来てから色々、この1ヶ月間も……なんかあっという間だったけど、マイちゃんと一緒に入れて楽しかった……」


「…………急に改まってどうしたの?」


 あ、わかった。もしかしてこの娘……試験落ちたと思ってる?


「ハルカ、あなた出撃前の説明聞いてなかった?」


 私の言葉に「え?」となる彼女、やっぱりこの様子だと……


「今日の演習、別に勝つ必要はないのよ?」


 そう、今日の演習。ユウミさんを倒して合格! というわけではない。この10分間私達、特に私とハルカがどれだけ機体を動かせるか。また3人の連携を実戦形式で測るテストなのである。私はハルカに改めてそれを説明した。


 私はゴロンと寝転び夕日に染まる空を見上げる、綺麗な空だ。


「…………」


「ハルカ?」


 どうしたんだろう。ここは安堵すべきところであるのだが……


「ハルカちゃんのバカ〜!!!」


 何故か怒り出し、私に覆い被さってくるハルカ、そして……え、ちょ……この娘何しようとして…………


「ん……んぁ! ちょ……やめてってば……!!!」


 やばい、このピチピチのパイロットスーツで擽られるのはやばいって!!


『2人ともなにイチャイチャしてるの? 私も混ぜなさいよ!』


 空から降りてくる"ピーコック"から聞こえるジェイミーの声、いや! 洒落にならないって!!


「た、たすけて〜〜〜〜!!!」


 私の情け無い悲鳴が演習場にこだましたのであった…………



〜〜〜〜〜〜〜〜


中京基地



「失礼します千駄木司令、演習の報告にあがりました」


「どうだったの? あの3人は?」


 演習後、基地に帰還し司令室を訪ねたユウミに基地司令、千駄木が問いかける。試験の大まかな結果は既に報告に上がっていたが、最終的な確認も必要である。


「まあ、良いんじゃないでしょうか。一ヶ月であれなら上出来かと、私には一発も入れられてませんでしたけど」


 ユウミの返答に苦笑する千駄木、彼女は「そりゃ、あなたが相手ではね」と返して手元の書類に目を通す。


「…………少し気が早くないですか?」


 ユウミはその書類に心当たりがあった。第一独立試験音楽小隊の新メンバー、その策定計画書だ。


「やはり3人だと、実戦の際に心許ないから……それにアイドルユニットって、5人がちょうどいいと思わない?」


 軽い口調でそう言う千駄木、ユウミはその返答に苦笑いする。


「私は6人がいいと思いますけど」


 と、適当に返すユウミ。


「いっそのこと9人でもいいわね…………三ヶ月前に電撃解散した超人気アイドルユニット、そのセンター、そしてもう1人はあの赤坂重工の御令嬢」


 先ほどとは打って変わって真剣な様子で計画書を眺める千駄木。その表情はどこか険しい、普段の彼女からは想像できない雰囲気だ。


「どっちも中々の経歴の持ち主ね……」


「あの……私はこれで失礼します」


 司令室を去ろうとするユウミ。


「あの子たちには試験は合格って伝えておいてね」


 その言葉に「はい」と短く返答をして彼女は司令室をさった。千駄木は椅子をクルリと回し窓から外の夕日を眺める。



「これから忙しくなりそうね…………」

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