20話 最終試験②
用意された演習場は市街戦用の物、今回は重力子雲の発生を想定して高度は100フィート、大体30m程までしか上がれない。
演習は10分間、短い……
『マスター、マップ情報をスキャンしました。最適な狙撃ポイントを算出しそこに誘導します』
シリウスの声、私はそれに静かに頷く。
「ジェイミー! マイ! 作戦通り撹乱をよろしく!」
私は2人に通信を入れる。その言葉に呼応するかの様に2人の機体は進撃を開始いていった。
私はチラリと遠くの空を見てみる観測用の無人機が演習域に滞空し演習の状況を監視している。
『お二方の機体は最新型、レーダーはこちらの方が優れていますのでおそらく私達の方が先に町屋機を発見できると思います』
そう、ユウミさんが使用しているのは"晴嵐"、あの青い機体だ。"晴嵐"は2世代機、対してマイとジェイミーの機体は2.5世代機。レーダーを始めとするアビオニクス(電子機器類)においてはこちらが優っている。でも……
「晴嵐は格闘戦に特化した機体、懐に入られたら厳しいかも……」
座学で習った知識が頭から出てくる。"晴嵐"は日本の国土を考慮して狭い場所での近接格闘に特化している。
『マスター、狙撃に最適な位置を算出しました、誘導します』
私はシリウスの誘導通りに機体を動かす、そのうち小高い丘の様な場所にたどり着いた。
「ここなら市街地を見渡せる……」
私は位置につき狙撃砲を展開、カモフラージュネットを装着、私の機体は周囲の緑に溶け込む。その時、遠くで爆発音が聞こえた。
勿論この爆発はコンピューターが擬似的に再現しているもの、演習上においてはコックピット内ではリアルなフェイク映像が流れてまるで本物の戦場にいるかのように感じる。
『エリア2-1にて交戦が始まりました』
マップ情報を確認、ここからの位置は遠い。遮蔽物も多くて狙い辛い位置だ。
「ハルカ! 状況は!」
私はハルカに通信を入れる、接敵したのはどうやら彼女の様だ。
『ひぃぃ〜! ユウミさんマジやばいって!』
ハルカの悲鳴、彼女の機体から戦術データリンクにより転送されてくる戦闘情報を確認。
前世代機というのにユウミさんの動きはそのハンデを感じさせない。やはり彼女は化け物だ……
『ハルカ! 今向かうわ!!』
ジェイミーの通信。ユウミさんの機体は全く上に上がってこない、私の狙撃を警戒しているのだろう。
「ハルカ! ジェイミー! もう少し東に誘導して!! そこ遮蔽物多い!」
私は2人に要請する。なんとか射線を確保しなければ……
『マスター、町屋機が飛び出します!』
モニターの中のシリウスの報告。私はFCS(火器管制システム)を頼りに狙撃砲で射撃体制に入る。狙撃において考慮しなければならないコリオリの力などは全てコンピューター制御によって行われ、ある程度の誤差までは修正がかかる。
私が行うのは単純にタイミングよく操縦桿のトリガーを押すことだけだ。砲弾の射速は毎秒800メートル程度。ここからの距離なら若干気持ち早めに……
「…………ッ!」
ユウミさんの機体が空に飛び出す、私はそれと同時にトリガーを引いた……!
ドゴォォン……
という短い砲撃音、"Mk-2狙撃砲"から砲弾の薬莢が排莢され大きな音を立てて地面に転がる、同時に……
「外れた…………ッ!!!」
砲弾は虚しくそばのビルを穿つ。衝撃で半壊するビルのフェイク映像が入る。ユウミさんはまるで砲弾が降ってくるのを予測して以下の如く交わしてみせた。
「なんなのあれ……射線が読めるとでも言いたいの……?」
私は愚痴をこぼす。
『マスター、射線から位置が予測される可能性があります、狙撃ポイントを変更、誘導します』
「うん…………2人ともゴメン! 外した!」
私は2人に通信を入れながら位置を移動する。ジェイミーからは『1発目から当たるとは思ってないから大丈夫!』と通信、地味に酷い。
私は気持ちを切り替え砲撃陣地転換を行う。その間にもマイ、ジェイミーとユウミさんの格闘戦は続いていた。
『なんなの……! 遊ばれてる!』
『攻撃当たらないよ〜!』
ワイプで表示される彼女達の表情は厳しいものになっている。
「撃墜数日本トップクラスは伊達じゃないね……!」
私はそう呟きながら次の狙撃可能ポイントまで移動。
『っ……あ!』
と、ジェイミーの声にならない声が聞こえた。もしかして堕とされた……!?
『メジャー機被弾、頭部及び右腕部に深刻な損害、損害率中破程度と認定』
シリウスの冷静な報告。
『……ッ! まだよ! ただがメインカメラをッ!!!』
演習開始からまだ5分足らずなのに……! 私たちの中で一番ベテランのジェイミーが中破状態まで……
ダメだ……ここからだと戦闘の状況が分かり辛い。
『ジェイミーまだ動ける!?』
『ええ……町屋少尉の剣術裁きは半端じゃないわね……』
スモークグレネードと電子撹乱弾を使用して、一度安全圏まで退避した2人の通信が入る。
『3vs1なら余裕と思ってたのに……』
「こっちは素人2人いるし、数なんて意味ないでしょ」
私は狙撃可能位置にたどり着く。そうして再度狙撃砲を構えタイミングを図る。
『私が町屋少尉を引きつけるわ』
ジェイミーの無線。そうして彼女はユウミさんがいると思われる方向に飛び出る。
『ハルカは後ろから援護! 私が町屋少尉の動きを止めるからそのタイミングで狙撃して!!』
『わかったよ!』「了解!」
そうして、再び格闘戦が再開される。ユウミさんの格闘機動は本当に凄い、踊っているみたいだ。
『町屋機、10秒後に開けた場所に出ます、狙撃のチャンスです』
シリウスは冷静な声で報告をする。私は再び狙撃の体勢に入る。
『…………今です!』
モニターに"晴嵐"、私はすかさずトリガーを引く、砲撃音とともに"晴嵐"に向かい飛んでいく127mm砲から放たれる徹甲弾。そうして砲弾は……綺麗に外れた。
『マイ!!』『マイちゃーん!』




