19話 最終試験①
そんなこんなで、私とマイはユウミさんやジェイミーのアドバイスを受けながら、座学、操縦訓練を重ねていった。勿論この間も戦乙女の訓練も欠かさずにこなし忙しい日々を送っていた。
ハルカはメキメキと腕を伸ばしていった。私もなんとか形にはなってきたと思う。
そうして時間は流れ、ついに最終試験を明日に控えたこの日。私とマイ、ジェイミーで3人集まることにした、場所は寮の自室。よく考えてみるとこうしてプライベートで3人集まるのは初めてかもしれない。
「いよいよ明日だね〜」
ハルカはお菓子を食べながら呑気にそう言った。
「呑気だなぁ、私は緊張で震えが……」
愚痴をこぼす私。するとジェイミーが私の震える手に自分の手を重ねる。
「ほら、こうすれば大丈夫よ」
「……ん、ありがとう」
恥ずかしいけど、こういうのってやっぱり心が落ち着く。すると、ハルカもその上に手を重ねてきた。
「明日頑張ろうね!」
ハルカの前向きな声援。
「ええ!」「うん……!」
それに答えるジェイミーと私。そうして私たちは窓辺に行く。遠くには名古屋城、思えばこの街に来てからあのお城には随分と勇気つけられた。
「私、明日の試験合格したら名古屋城観に行くんだ」
思えばこの街に来てからあそこに一度も行ったことがない、それどころか名古屋をゆっくり観光したことがほぼない。
「マイちゃんそれフラグ」
いつかの言葉を返される私。
「でもいいわね、今度の休日名古屋巡りなんてどう?」
ジェイミーの提案に私達は喜んで賛成、そうして3人で夜の名古屋の街を眺めた。
こうして、明日の試験を前に私達の心は一つになったのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふぅ……」
ゆっくりと息を吐く私。コックピット内は静けさに包まれていた。
『マスター、時間です』
シリウスの声、私はゆっくりと目を開ける。
「よし……」
私は機体を動かす。試験は中京都郊外の演習場で行われる。まずはそこまで機体を持っていかなければならない。私達は機体を格納庫の外まで動かした。
『いい、ハルカ、マイ、相手はあのリボン付き。気合い入れていくわよ』
ジェイミーからの通信が入る。そう、この最終試験の相手を担当するのはあのユウミさん。彼女のTACネームはメビウス。リボンのエンブレムを持つ自衛軍トップクラスのエリートである。
「あの人……本当にとんでもないパイロットなんだなぁ……」
彼女の撃墜数は日本でも上位。今日はそんな人を相手にしなければならない。
『えっと……私とジェイミーが前衛、マイちゃんは後ろで援護……』
ハルカは繰り返すように呟く、作戦を頭の中で繰り返し思い浮かべているのだろう。
私はコックピット手元のコンソールで自機の武装を確認する。
10式20mmCIWS
92式30mm携行用短機関砲
Mk-2 127mm長距離狙撃砲
Mk-7 近接用短刀
AAM 多用途空対空ミサイル
遠距離支援用の武装、私の役割はマイとジェイミーがユウミさんを引きつけている間に狙撃砲で一撃で仕留める事だ。つまり勝敗は私の狙撃にかかっている。うぅ……荷が重い……
"Mk-2 127mm長距離狙撃砲"は艦砲を転用した強力な狙撃砲だ。大抵のゴーストや、戦人機の複合装甲は破壊可能である。勿論訓練なので全てに実弾は装備されていない、ミサイルも訓練用。コンピューターによって当たり判定を行う。
『ミュージック1、発進してください』
管制からの指示、ミュージックというのは私達小隊に与えられたコールサインである。コールサインはTACネームとは違い管制とのやり取りで使用する正式なコードネームだ。
『ふぅ……』
発進前の全てのチェックを終えたジェイミーのピーコックが滑走路に立つ。戦人機は飛行機と同じような離着陸方法を取る、離着陸時には脚部からランディングギアが飛び出す。
『ジェイミー・メジャーシティ、A-50ピーコック、発進するわ!』
そうして勢いよく離陸。そうして次はハルカの番。彼女が離陸態勢に入る。
『えっと、湯島ハルカ! XA-51! いきます!!』
離陸、次は私の番である。
「動翼のチェックはオッケー……10番から230番までのチェック項目はクリア済み」
離陸前の最終確認、実際のチェックはほぼシリウスが担当しているので、私がする事は最後にサラッと異常がないか確認するだけだ。
そうして滑走路に立つ、ランディングギアを出し、機体を少し屈める。
「紫雲・丙型、綾瀬マイ! 離陸します……!」
そうして加速、私の身体にグッとGがかかる。戦人機は慣性減衰システムという機構を備えている為、パイロットにかかるGが70〜80%カットされる。しかしゼロにはならない為にこうしてGを感じるらしい。
「……ッ」
そうして、地面から離れる……! 離陸は成功だ!
後はこのまま機体を演習場まで飛ばせばいい。
『重力子雲の発生は認められず、高度制限を解除します』
管制からの指示、私は徐々に高度を上げる。戦人機は大抵100フィート以下の空を飛ぶ。
『頑張ろうねマイちゃん!』
少し先をいく"XA-51"からの通信。その言葉に私は静かに頷いた。今日の試験、絶対に受かってみせなければ……
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『最終試験前にもう一度、試験の内容を説明します』
管制からの通信が入る、試験の内容は私、マイ、ジェイミーの3機編成vsユウミさん単機での模擬戦となる。その事をもう一度復唱してくれた。
演習場は擬似的な市街地になっている。偽物の街なのでいくら破壊しても気後れはしない。ちなみにユウミさんは既に配置についている、私たちは彼女が何処にいるか知らない。
『演習開始時刻は一八〇〇、開始まであと3分です、待機していてください』
3分後……試験は始まる。私の操縦桿を握る手が汗ばむ。緊張してきた……
『リラックス、リラックス』
隣のピーコックから通信。ジェイミーの声だ、私は彼女の機体を眺める。
装備は米帝の最新型携行用機関砲4丁をパイロンに下げ、背面には日本皇国の長刀を1本。そして隣のXA-51、こちらは携行用機関砲2丁に長刀2本……
2機とも明らかな攻撃的装備、前に出てガンガン攻めるタイプ。
『時間になりました、状況を開始してください』
そうして、私達の運命を決める最終試験が始まった。