1話 転生(はじまり)
記憶が再開した時、目の前には1人の美少女がいた、彼女が言うには自分は神様で、私はあの後小学生を庇いトラックに轢かれ事故死してしまったらしい。
そして次に、その神様は私に異世界転生をさせてやると言った。私は小躍りした。
きっと転生先は中世的な世界、剣と魔法で戦うそんな世界。私はチートな能力を与えられて周りの人達にチヤホヤされながら異世界生活を満喫するんだ……
そんな私の甘い考えは一瞬で打ち砕かれることになる。
「お前を最後に見たアニメの世界に転生させてやろう」
……は?今なんて言ったコイツ。
「……えっと、その…………マジですか?」
私は思わずそう聞き返した。
「うん、マジ」
私の目の前に現れた、美少女の姿をした自称神様は間を入れずそう返した。
私は考えた、最後に見たアニメって……あ、あれだ。
"蒼き詩のガングレーヴィア"
通称"蒼グレ"と呼ばれるそのアニメは、その筋では知らない人はいないレベルで「ある事」で有名なアニメであった。
私が事故にあった日の前日から徹夜で見ていたそのアニメ。
「ほれ、最後に見たアニメを言ってみよ」
「えっと……その……"ファンタジー異世界に転生してチート能力で大活躍〜女の子にモテモテすぎて辛すぎな件"です」
「……嘘をつくな!」
ひぃ!なんで嘘ってわかるのだこの人!
「一応聞いたけど、私はお前が最後に何を見たかなんてわかっとるんじゃ!」
プリプリ怒りながらそう叫ぶ神様。
「……はい、嘘つきましたすみません、本当は"蒼き詩のガングレーヴィア"です」
「よろしい! では早速転生させてやろう……」
いやいや、ちょっと待ってそれはとても嫌だ。だってこのアニメは……
"蒼グレ"ある事で有名なアニメ、そのある事とは……
「じゃあ、舞衣よ、精々楽しむんじゃぞ!」
私の気も知らず呑気にそう言う神様。
「ちょっ……待って……」
私の意識は再び途切れた。
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–星暦2022年 4月2日 日本皇国 中京都 名古屋-
ゴォォォォォォ……
「随分と低く飛んでるわね……あれ」
私の頭上を日の丸を付けた日本皇国統合自衛軍の"機体"が編隊を組み、アフターバーナーを焚きながら、大きな排気音を鳴らして通過していった。
春の陽気が身に染みるこの季節、私は空を飛ぶそれを見つめながらそう呟いた。
私の名は綾瀬マイ、この春から高校生になる。ここ中京都、名古屋の女子高に通う予定で今日、田舎からこちらに出てきたばかりだ。
「えっと……この先か」
私は今、名古屋で生活を送る上で住む場所となる学園の寮に向かっていた。
「にゃあ」
道を歩いていると、道路を我が物顔で闊歩する猫が目に入った。
「……」
私はその光景を見つめる、何かデジャヴを感じ立ち止まる。
「猫さんだー!」
近くにいた小学生らしき女の子が猫に寄る。
「……!」
瞬間、私の身に電流が流れたかのような衝撃が流れる。
ブォォォォォォォ……
交通量の少ない道路に現れる軽トラック、角から曲がってきたそれを見つめる私。
そうだ、その運転手は多分……
「危ない……!」
思考より先に身体が動く。いち早く気配を察知し逃げ出す猫。それに驚く女の子は恐怖と驚きからか、身体を動かさずにいた。
「つっ……!」
私は女の子を抱えて勢いよくトラックの進行方向横に跳ぶ。
ズザザァと地面を擦る音、それから頭にゴンッ!という衝撃が走った。
「いったぁ…………!」
どうやらそばにあった電柱に軽く頭をぶつけてしまったらしい。
ブォォォォン……
トラックはしばらく走った後停車、窓から焦った顔をした運転手がこちらを伺っていたが直ぐに逃げ出してしまった。
「あいつ……逃げた……」
「……お、お姉ちゃん……大丈夫?」
抱き抱えていた女の子がそう聞いてきた。
「うん……あなたこそ無事?」
ズキズキ痛む頭を押さえながら私はそう返した。
「あ……いったぁ……!!!」
その時、頭を打った痛みとは何か違う鈍い痛みが私の頭を襲う。
……これは……記憶?
私の頭の中に見覚えのない記憶たちが溢れ出す。
「あ……あ……これって……」
……思い……出した……!
私の頭の中にその記憶が蘇る。そう、私は転生者、この世界はアニメの世界!
やっば……ちょっと混乱してきた……一つづつ整理していこう
私の名前は綾瀬マイ、もとい綾瀬舞衣。今の年齢は前世で死んだ時より1才下の15才。
そう、私は転生者なんだ。
「頭いったぁ……」
私は頭をさすりながら状況を整理する。綾瀬マイ、それがこの世界での私。
"綾瀬マイ"は蒼グレのメインキャラクターの一人であった。
前世の私の名は"綾瀬舞衣"、同姓同名だったので、何となく視聴しているときはマイに感情移入していた。
まあマイはクールめなギャルといったオタク女子とはまるで真逆のキャラだったんだけど。
……私の頭の中にはマイとして生きてきた記憶がある。記憶というか経験?とにかく私はマイとしてこの世界に生まれ、確かに生きてきた……はずである。
「お姉ちゃん……?」
女の子が心配そうな顔をして私を見る。いけない、難しい顔をして考え事をしすぎて女の子を心配させてしまったみたいだ。
と、その時。再び先程と同じ大きな排気音が頭上を掠める、私は空を見上げる。
「本当に蒼グレの世界なんだ……」
肩に日の丸をつけた"人型"の"機体"は、悠々自適と空を飛び彼方に消えていった。
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