13話 帝国から来た少女
私達は大いに悩んだ。特にハルカ、戦闘に関わる事になるのは恐れていた様だが、せっかく自分にゴーストに立ち向かえる力があるのに腐らせたままにしていいのか、と。
正直私はこの計画を辞退しようかと考えたけど……これがこの世界での役割なのかもしれない、そこから逃げてもいいのか、と悩まされた。
そして……
「いい! 2人は今日から軍人の卵! ビシバシいくからね!!」
気合十分のユウミさん、そんなこんなで正式にステラ計画に参加することになった私達……私は最後まで迷っていたけど、ハルカは早々に決意を固めた。
「私たちの力がみんなの役に立つなら、やるっきゃないでしょ!」
と、いかにも主人公らしい事を言ってきた。私もそれで参加を決めたがなんとなく流された気もしなくもない。
三日後、私たちは放課後また中京基地に足を運んでいた。今日からパイロットとして、そして戦乙女としての訓練の日々が始まる。
「まず最初に、司令からは貴女たちを一ヶ月で使えるようにしろ、と指示されたよ」
教壇に立つユウミさんはそう言った。私達は今、基地内の小さい講義室にいた。私達の手元には戦人機用、さらに音楽に関しての分厚い教本がある。
「あの……質問いいですか?」
私は手を挙げる。
「はい、どうぞマイ」
「この計画の……責任者……? とかいないんですか?」
そう、私にはそれが気になっていた。だってステラ計画の説明をされた時にもそれらしき人はいなかったし。
「責任者は勿論いるよ、千駄木司令、あの人ステラ計画の発案者だから」
え、そうだったのか……
「今から半月後、貴女たちには基地内で戦乙女として戦技……ライブと読みます。これをして貰うから、これが戦乙女としての試験、その更に半月後には戦人機の最終操縦訓練も行います、これはパイロットとしての試験です」
「い、一ヶ月後ですか……!?」
私はたまらず驚きの声を漏らす。一ヶ月そこらで何とかなるものなのか!? 戦乙女試験に至っては半月しかない……それを平行でこなさなければいけないなんて…………
「ここにいる以上、二人の扱いはほぼ軍人と変わらないからね、嫌なら帰って結構!」
いかにも軍隊らしいスパルタ式だ。
「いきなりライブって……私、全くの素人なんですけど……」
ハルカが不安そうに言う。するとユウミさんは。
「歌に関しては……マイちゃん、結構上手いらしいけど、ハルカちゃんに教えられる?」
私に話を振られ若干動揺する、歌……上手いなんて言われてるけどそんな実感全くない。
マイは小さい頃から音楽が好きと言う設定があった。もちろんマイである私も幼い頃からピアノを習ったり歌を歌いまくったりしていた。
ここら辺は前世からの血筋なのかな……私、趣味がアニソン耐久カラオケでよく5、6時間くらいぶっ通しで歌い続けてたし。
ただ、好きなだけでどうにかなる世界でないのは充分承知している。だけどここまできたのなら……やるしかないのか。
「自信はないですけど……やってはみます、でも私ダンスは苦手で……」
そう、ダンスだけはどうしても無理。なんか気恥ずかしくて苦手意識が強い。
「……それに関してはあんまり気にしなくていいよ」
と、ユウミさん。もしかして外部からちゃんとした指導の人を連れてきてくれるのだろうか。
「曲は……どうするんですか?」
私は気になった事を言ってみた。
「? そりゃ二人が作ってよ」
……いやいやいや、この人真顔で何無茶苦茶言ってるんだ!
「マイちゃんのプロフィールは一通り確認してるし、ピアノ習ってたんでしょ? じゃあ作曲くらい余裕でしょ」
「いや……そんな簡単な話じゃないですって!」
簡単に言ってくれる、作曲の大変さを知らないのかこの人は。
「じゃあ私作詞やります!」
元気よく手をあげるハルカ。曰く詩を書くのが趣味らしい。初耳なんだけど蒼グレのハルカにそんな設定あったっけ?
「まあ、私は音楽詳しくないからそこら辺は二人に任せるよ。一応使えそうな教本とか集めといたし。それで私が専門に教えるのは……」
ユウミさんはホワイトボードに何やら書き出した、そしてその文字を書き終えてバンッ! と勢いよくボードを叩く。
「これについて!」
そこには綺麗な文字で"戦人機"と書かれていた。
戦人機、人類のゴーストへの反抗の剣にして戦乙女の鎧……
一応アニメは資料集で把握してはいるつもりだけど、流石にそれだけだと限界がある。やはり専門的な人から教えてもらうのが一番というわけだ。
「じゃあまず……」
そうして戦人機についての解説が始まった。
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「うへぇ〜頭が痛い……」
芝生の上に横たわるハルカ、私も隣に座り込む。
「流石にあんな小難しい話を一時間半も聞かされてたら……限界……」
私達はあの後、戦人機についての構造や基礎知識、歴史、運用方法などを一時間半聞かされた。
驚いたのは今日の分でも十分密度の高い内容なのに、かなり簡単に省略して話してるらしい……
「うぅ……マイちゃ〜ん!!」
ハルカが私の膝に頭を乗せて、膝枕を要求してきた。無理にどかすわけにもいかないのでそのままにしてあげた。
「えへへ……癒される……」
何故かハルカは満足そうだった。
時刻は夕方の六時、日も落ちかけできた。私は後ろをチラリと見た。少し離れたところに、明らかに突貫で建てられたと思われるプレハブ小屋があった。
入り口には「飛行実験団 第一独立試験音楽小隊」の看板。滑走路の横隅にポツンと建てられた私達専用の隊舎らしい。
隊舎といってもここに住むわけではなく、ここで歌やダンスの練習、戦人機についての勉強をしろとのこと。
「走り込みでもする……?」
私がポツリと呟いた。やはりアイドルは体力が資本であろう。先程ユウミさんから基地内を走るランニングコースを教えてもらった。
「だね」
ハルカがそう返す。私たちは立ち上がりランニングを始めたのだが……
ふと遠くから排気音が聞こえた、戦人機のものであろうか、しかし日本軍機のモノと比べて随分と甲高い音の様な……
キィィィィィン……
その音は徐々に大きくなっていく、そうして空からグレーの戦人機が2機現れた。
「XA-51に似てる……」
私は直感でそう思った。何処となく雰囲気が似ている気がする。その戦人機は滑走路に着陸しようとしていた。
その時、ふと戦人機の頭部がこちらを向いたような気がした。
「ねぇ……あれ、こっちに向かってきてない!?」
そう、そのうちの1機は明らかにこちらの方に向かってきていた。徐々に近づいてくる戦人機。
「……! あの国籍マーク」
私は十メートル程遠くに立膝をつくような体勢で着陸した戦人機の肩を見る、そこにはアメリカ帝国のマークがペイントされていた。反対側の肩には蜂を模したと思われるパーソナルマーク。
そうして、胸部のコックピットが開かれる、中から白人の少女が現れた。ピョンとジャンプし地面に着地、そうしてその少女はこちらに向かってきた。
「アナタたちが試験小隊に参加する人たち!?」
私達の前に仁王立ちし、若干カタコトの日本語でそう叫ぶ彼女。そのカタコトの日本語や綺麗なカールのかかったブラウンの髪、スタイルはモデルかと見間違うほど整っている。そして顔立ち、明らかに外国の人であった。
そして……かなり際どいパイロットスーツ、ぱっつんぱっつんなんですけど……胸とかすごいんですけど……パイロットってこんなの着なきゃいけないの!?
「ワタシはエンパイア・オブ・アメリカ!! 連邦帝国空軍所属、ジェイミー・メジャーシティ!」
そうして一旦言葉を切り、彼女は勿体ぶった様子で自己紹介を続けた。
「今日からワタシがアナタ達の……リーダーよ!!!」