10話 尋問、そして帰宅
「本当ですって! リゲルが乗れって……」
ハルカがアワアワとそう言った。
「はぁ……」
私はため息をつきながら、振り返り、後ろに立つ機体を見つめた。
"XA-51"、直線を多用したトゲトゲした攻撃的な機体デザインであった、近くに駐機している日本軍機とは随分と印象が違った。
白を基調としたカラーリングは軍用機とは思えないほどの派手さを醸し出しており、夕日に照らされたその姿はどこかノスタルジックな雰囲気を醸し出していた。
私たちはあの後、機体ごとここ、中京基地に連行された。そして今機体から下ろされ、こうして尋問という名の説教をユウミさんに受けている。
「AIが乗れ……ねぇ……」
ユウミさんは呆れがちにそう言った。
「で、あの時何があった……?」
彼女は隣にいる、同僚と思われる男性にそう問いかける。彼は先程化け物に押し倒された機体のパイロットらしい、どうやら無事だったようだ。
「はい、あの時見た事もないタイプのゴーストが……」
ユウミさんは彼とあの時の状況の情報を共有していた。
「ねぇ……今日帰れるかな?」
呑気にそんなことを私に耳打ちするハルカ。
「さぁ……このまま逮捕されて刑務所行きだったりして?」
私は意地悪してそんな事を言ってみた。すると彼女は「ふぇ〜……」と言葉にならない声をあげて落胆した様子で俯いてしまう。
(まあ、蒼グレ通りならすぐ帰れる筈だけど……)
と、その時。遠くから大人の女性がこちらに向かってくるのが目に入った。
「まーちーやーしょーうーいー!」
彼女はユウミさんの苗字を呼び、ブンブンと手を振りながらこちらに来た。
「基地司令……」
ユウミさんがそう言った、きっと偉い人なのだろう。
「ん〜……君達二人がXA-51に勝手に乗っちゃったいけない娘達かな?」
女性は私たちを舐め回すように見る。
(どっかで見たことあるなぁ……この人)
私は記憶を辿り情報を引き出す。たしか……
「えっと、お姉さんは?」
ハルカが質問する、するとお姉さんは「ウォッホン!」というわざとらしく大袈裟な咳払いをし、腰に手を当てて自分の名前を名乗り始めた。
「私は千駄木ユカリ、ここの基地司令さ、まあ楽しにて」
あぁ、この人も蒼グレいたなあ。と頭の中で合点がいく。でもそんなに出番なかったし、資料集でもあんまり情報がなかったから忘れていた。
しかし随分と若く見える、三十代くらいであろうか、落ち着いた大人な女性という感じだ。
「ふぅん……」
と、彼女は私たちを品定めするような視線で見つめた後、後ろのXA-51に視線を向ける。
「司令、一通り報告は行ってると思いますが……」
ユウミさんが千駄木司令に真面目な口調でそんな事を言う。
「ヤマさーん! そのAIの娘こっちに連れて来れる!?」
司令は大声で、リゲルの近くで先程から何やら作業をしていた男性たちに声をかけた。
するとおそらくヤマさんであろうお爺さんが手にタブレット型の端末を持ってこちらに向かってきた。
「ほれ、お望みのものじゃ」
お爺さんは端末を司令に手渡す。彼はその画面が私達にも見えるような持ち方をした。
「あー、君がリゲルくんかな?」
司令は端末に向けてそう問いかけた、すると端末の画面にリゲルの姿が写った。
「はい千駄木司令、私はXA-51搭載AI、リゲルです」
彼女はそう自己紹介する。
「一応一通りの報告は受けています、あの状況下じゃ民間人を助ける為にあの行動は仕方なかった、と言えるけど…………」
そして、私達の方向をチラリと見る司令。
「特級の軍事機密を知ってしまった以上、貴女達をこのまま返すわけにもいかないのよね……」
彼女は困った様に頭をポリポリかきながらそんな事を言った。特級の軍事機密……あの試作実験機とAIリゲルの事であろうか。
「その事ですが千駄木司令、報告に上げた通りこの二人……特に右の金髪の彼女は高純度のステラ因子の存在が認められます」
出た、ステラ因子、だからそれなんなの……?
「ふぅん……じゃあ……」
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「大変な一日だったなぁ……」
私はため息をつきながら自室の窓から街を眺める、少し遠くには派手に崩れて瓦礫とかした家々が見えた。
「輸送機が落ちたのあそこらへんか……」
私とハルカは今日、あそこでXA-51に乗り、AIリゲルと出会い、初めての戦闘を経験した。
そして、基地への連行。私は司令の言葉を思い出す。
「ならこの二人をステラ計画のメンバーとして正式に軍で雇う事にしよう」
なんて事を言った。いやいやいや……解決方法が大胆すぎる。
ステラ計画……どうやらXA-51とAIリゲルが関わるものらしいが、結局あの場では詳細は教えてもらえなかった。
その後、紆余曲折あり、ユウミさんが監視役に就くということで、取り敢えず基地からは解放、寮に返してもらえた。
私は、ぼんやりと遠くに見える名古屋城を眺める。城は綺麗にライトアップされていた。
「なんか……所々蒼グレと違ったな……」
今日の流れは大体は蒼グレ通りであったが、幾つかの相違が見られた、まず輸送機の落ちる場所、そして謎の敵の出現、最後に……
「何で私歌わされたんだろう……」
私の頭の中は疑問で一杯になってしまった。
と、その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「はい?」
「マイちゃん? 私ハルカ、入っていい?」
ハルカか……どうしようかな、まあいいか……
私は「どうぞ」と声をかける。
「お邪魔します……」
ハルカがドアを開けて私の部屋に入ってくる。こんな遅い時間にどうしたんだろう。
「……名古屋城、綺麗だね」
私の隣に立ったハルカは遠くを見つめながらそんな事を言った。
「何……?」
私は要件を聞く、まさか名古屋城が綺麗だとこれだけ言いにきた訳ではないだろう。
ハルカは少し躊躇った表情を見せた後、そっと私の手を握った。
「今日はありがとう、マイちゃん」
「え?」
どういう風の吹き回しなのか。私は少し驚きつつハルカの次の言葉を待つ。
「あの時マイちゃんが引っ張ってくれなかったら、私動けなかったかも……」
あの時、XA-51のコックピットに走っていった時のことであろうか。正直あの時のことは無我夢中過ぎてあんまり覚えてないし、それに……
「感謝しなきゃいけないのは私の方よ、あの時あなたが手を握ってくれなきゃ、私は多分歌えなかった」
私はハルカの手をギュッと握り返した。すると彼女はこちら側に寄りかかってきた。なんだか少し気恥ずかしい……
「えへへ……」
ハルカが人懐っこい笑みを浮かべる。
私は再び遠くの名古屋城を見つめる、城は様々な事があり、混乱と疲れを見せる私を元気つけるかの様に爛々と輝いていた。




