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9話 リゲル、大地に立つ③

「いてて……」


 ハルカが頭を押さえながら呻く。私は瞑っていた目を開いてモニターを確認、モニターは明るく外の景色を映し出していた。


「外に飛び出たのか……」


 チラリと横を見る、少し離れた場所に頭突きで吹き飛ばされたと思われるゴーストが横たわっていた。


「取り敢えず助かったの……?」


 と、その時わずかに振動を感じる。


『コックピット内慣性減衰システムに問題なし、自動姿勢制御装置作動、機体に損害なし』


 リゲルの声、そしてギュォォンという音が聞こえモニターの視線が先程より高くなった。


「立った……?」


『そこの戦人機! 大人しくしろ……!』


 そこに、通信が入る。慌てて私は周りを見渡す、直後。鬼を思わせるかのようなゴツく青い機体が私の目の前に現れた。


『なぜ試作機が動いている……? 中に乗っているのは誰だ!』


 手に持っていた大きなライフルを私たちの方向に向ける。


 怖い声でそう問われライフルを突きつけられた私たちは慌てふためく。


「どうしようどうしよう! やっぱり軍隊のロボット勝手に乗ったら怒られるよね?」


 と、アワアワするハルカ。


『メビウスか……! いや……なんかよく分からんことになってる……』


 どこかに通信を入れてる、仲間を呼ぶつもりだろうか。


『はぁ……ちょっと大人しくしてて、私が事情を説明するから』


 リゲルは呆れたような口調でそう言った。


『日本軍機へ、こちらはXA-51搭載の支援AIリゲル、ゴーストに襲われそうだったので機体から出た、私の事は上から聞いていると思うが……』


 彼女の説明に一応納得したのか、目の前の機体はライフルを下ろした。


『噂には聞いてたが……本当にAIが動かしてんのか……』


 驚いたような声。


『……ッ!』


 その時、リゲルの声にならない声を出す、遅れてアラート音がなった。


 ピッピッピッ!


「な、なに!?」


『十時の方向にゴースト!』


 リゲルの警告。十時って……あっちか?


 私はそれらしき方向に視線を動かす、するとそこには何とも形容し難い漆黒の生物がぬらりと立っていた。


「な……に……あ……れ……」


 ハルカが絶句する、当然だろう、その姿はあまりにも“異形”と呼ぶに相応しいものであった。


「人……?」


 にしてはデカい、多分戦人機と同じくらいのサイズか。目算で12メートルほどの大きさであった。


 ……こんな展開蒼グレにあったっけ……?


 どうも心当たりのない展開、記憶や読んだ資料集を見てもあんな敵は覚えがなかった。この時現れるのは大型のアルファ級、つまりタダの雑魚だったはずだ。


『データベースに合致する個体なし、新型ゴーストと推定』


 リゲルの冷静な分析、その時、私達にライフルを突きつけていた機体がその異形のゴーストに砲弾をぶちまける。


 パラララッ……!


 と、乾いた発砲音、だが……


 スッ……


「……は……?」


 消えた、比喩でも誇張でもない、突然その化け物は姿を消した。


『……ッ!?』


 驚きの声を漏らし銃撃を止める青い機体、だが次の瞬間……


 ドガァァァォァン!!!!!!!!!!


 と、大きな音を立てて崩れ去る青い機体、いったい何が起きたというのか。


 キィィィィィイン……


という耳障りな音、そして再び化け物は姿を表した化け物は倒れた青い機体に片足で押し倒し余裕そうな雰囲気で立っていた。


「何、今の……」


 何が起きたのか全く分からなかった、ただその光景を見た私は直感的に「こいつはヤバい」とだけ感じた。


『武装は……何か武装はないの……!? マスターアームオン!』


 と、リゲル。私は手元のモニターを確認する。モニターの情報は簡略化され素人の私でもなんとなくわかる形になっていた。


RDY(レディ) 20mmCIWS

 RDY(レディ) Mk-7combat knife》


 の表示が目に入った。


『ロクなものがない、これは……マズイかも、飛行ユニットもないからガン逃げ出来ないし……』


 リゲルの声。


「逃げるって……あの機体の人は……!」


 ハルカがそう尋ねるとリゲルは、


『軍人ならいつでも覚悟はできてるはずでしょ』


 と、冷たい声で言い放つ。


「で、でも……」


 食い下がるハルカ、この状況であのパイロットの心配を出来るとは、この娘は結構肝が据わっているようだ。


『とにかく今は牽制のために……CIWS!コントロールファイア!』


 ブォォォォォ……


 という連続した発射音、モニターを見ると横二方向から銃弾が発射された、頭に付いている機関砲だろうか。


 スッ……


 ダメだ、また消えた。


『ちっ、分かってはいたけど……』


リゲルのぼやき、だがその時。


 キィィィィィイン…………


 という、先程同様の耳障りな音が鳴り響き私は思わず耳を押さえる。


「なにっ……これ……!」




『詩が……聴こえますか……?』




 頭の中に女性の声が響く、詩?聴こえる?何を言ってるんだろうか。


 その問いかけが終わると異音も鳴り止む、私は耳を押さえるのをやめた。するとモニターの中のリゲルが考え込むようなポーズを見せていた。


『このタイプ、もしかして……後ろのあなた、歌うのは得意?』


 リゲルの問いかけ、私が答えるより先にハルカが、


「……マイちゃんはすっごく上手だよ!歌うの!」


 と、答えた。


「いや上手じゃないし……ってか何で今そんな事聞く?」


『……何でもいいから! 歌って! あなたの声からはステラ因子の存在を感じるの!』


 ステラ因子?一体何の話だ、全く心当たりがない。そんな言葉、設定資料集でも見た事ない……


『お願い! この状況を回避するにはそれしかないの!』


 必死に頼み込んでくるリゲル。


「マイちゃん、よくわからないけど、ここは素直に言う事を聞いた方がいいんじゃない?」


 ハルカがこちらを向きそんなことを言った。


「で、でも……!」


 私の手は震えた、状況の切迫ぶり、そして原作にない展開に私の心は不安で一杯だった。


「……大丈夫、私がついてる!」


 ハルカが身を乗り出し私の右手を両手で優しく包み込んでくれた。


 ……この娘、強いなぁ、やっぱり主人公だ。


 彼女の手から伝わる温もり、そのお陰で震えは止まった。私は彼女の手をしっかりと握り返す。


「……その、あ、ありがとう」


 少し気恥ずかしかったけど、そのおかげで随分と落ち着けた。


 そして私は覚悟を決めた、やってやる!やってやるぞ!


 歌う曲はなにがいいか、そうだ……あれでいいか。



 そして私は蒼グレのオープニング曲を歌い始めた、まさかロボットの中で歌を歌うことになるとは全く想像していなかった。


《GUNGRAVIA system ver0.98 standby……》


 モニターに突然表示される英文。


『やっぱり、貴方の声からは"可能性"を感じたけど……とにかく続けて!』


 リゲルの指示、私は大人しく指示に従う。


「あれ……動きが止まってない……?」


 ハルカが指をさす。確かに、あの化け物は何故か微動だにしなくなっていた。


 ど、どういうこと?


 困惑する私、そしてその化け物は徐々に透明になっていき……


「消えた……」


 一体なにが怒っているのだろうか、困惑する私達、だがその困惑はすぐに打ち消されることになる。


『マイ……? アンタ一体なにをしてるの!」


 突如入る無線通信。聞きなれた声だが、この声は……


「ユウミさん?」


 ハルカが呟く、そして視界外から突如、そこに倒れている日本軍機と同様の機体が飛んできて私たちの目の前に綺麗に着地した。

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