1−1)新学期〜その1
貴司は、ひどく緊張していた。
立昭第二中学校で社会科教諭として働き始めて今年で3年目。初めて自分のクラスが持てるのだから、緊張するのも当然である。
しかし、それは隣に座っている体育科教師の野宮憲人も同じであった。
貴司と憲人は中学の頃の同級生。高校・大学は別だったが、現在同じ学校で勤務している。
そんな二人のもとに、一人の男性教諭がやって来た。
彼は、二人の肩に手をかけ
「大丈夫。慣れれば平気だからな。」
と、優しく声をかけた。
彼の名前は、吉村貞章。貴司と同じ社会科教諭。
実は、貴司と憲人は11年前、吉村先生のクラスの生徒だったのだ。
かつての生徒と恩師が長い年月を経て同じ職場で勤務する…素晴らしい偶然である。
だがこの学校には、11年前貴司らが指導を受けていた人物がもう一人いる。
国語科の高山法子である。
この貴司・憲人・吉村先生・高山先生の担任4人と他に副担任2人を合わせた計6人で第1学年の職員を担当する。
キーンコーン、カーンコーン
8時20分、朝休みの終わりを告げるチャイムが響き渡った。
今日の予定は8時25分から簡単な学活と入学式の説明を行い、2・3年生は45分に式場(体育館)へ移動を開始する。
そして、9時に新1年生の入場とともに入学式がスタートする。
「さぁ、教室へ行こうか。」
吉村先生がそう言うと、貴司と憲人は静かに立ち上がった。
職員室を出てゆっくりゆっくり階段を上っていく。
1年生の教室は3階。
一番手前の教室は1年A組。吉村先生のクラスだ。
吉村先生は
「じゃあ頑張れよ」
と言って教室へ入って行った。
その隣が1年B組。
「じゃあ、それじゃ。」
と言ったあと、軽く微笑み高山先生は教室へ入って行った。
そして、次がいよいよ1年C組。
貴司のクラスだ。
憲人は一番奥の1年D組の教室へ向かって行く。
その姿を見届けたあと、貴司は大きく深呼吸をした。
『1年C組 担任・安藤貴司』
貴司は左手で扉を開いた。