『悪役令嬢転生系』のヒロインの方に転生したので推しの恋愛を見届けます!
ー私はその日、唐突に思い出した。そうだ、この世界はゲームの中の世界だ、と。そして私は主人公を散々虐めた挙句断罪される悪役令嬢だと。ー
…ってあの子は今頃思っているんだろうなぁ。大丈夫だよ!この世界は"そういう設定"のラノベの世界。つまり、貴女は破滅するまいと頑張っている内に本来なら攻略対象であるキャラクターたちに溺愛されるんだから。
あ、申し遅れました。ミイナ・ドロヴィナです。一応子爵令嬢です。ここは…"乙女ゲームの世界に転生したら私は悪役令嬢だった‼︎"という子が主人公のラノベの世界です。…ちょっとややこしくて、伝わりにくいですよね。そして私は"本来の乙女ゲームならヒロインだった"人です。…いや、うん。これ、ちょっとどころじゃなくて、かなり伝わりにくいな。ごめんなさい!
私、ミイナ・ドロヴィナは物心ついた時には王都の外れにある小さな孤児院にいました。母親も、父親の顔も知らなかった。それでも私は幸せだった。16歳になったら孤児院を出て1人で生活していかなくてはいけなかったので、将来に対して少し不安を抱えながらも、兄姉や弟妹たちと遊んだり、勉強したりして毎日楽しく過ごしていました。…14歳まで。
ちょうど、私が15歳になる直前くらいの頃、私たちが暮らす孤児院にthe.貴族!といった風貌の、少しぽっちゃりしていて整えられた髭を持った男性が訪れてきました。弟妹たちは見知らぬ人に怯え、私の背に隠れるようにしていました。ですが、その男性はずんずんとこちらに近づいてきて…私の前で止まりました。後ろで弟妹たちが泣き出しそうになっているのがわかります。私は彼らを守るように貴族様を睨みます。…が、貴族様はあり得ないことに、私に向かって手を伸ばしたのです。何と、男性、ドロヴィナ子爵は私の父親だと言うのです。どうやら私はドロヴィナ子爵がメイドに産ませた子であることが判明しました。子爵は私に一緒に家に住むようにと言います。
勿論私は、今まで放っておいたくせに今更父親面する人についていく気にはなれませんが、ただの平民、それも孤児に抗う術などありませんでした。ここで私を愛してくれた、ここまで私を育ててくれた家族を守るためにも、私は子爵の手を取るしかなかったのです。
その瞬間!パチパチっと静電気のような衝撃と共に、私の頭の中に別人の記憶のようなものが流れ込んできました。毎日、毎日仕事漬け。休みの日は"らのべ"を読み漁る日々。そして、交通事故で呆気なく死んだ女の記憶が。
そして、気付きました。今、私が生きているこの世界が『悪役令嬢様は諦めない‼︎〜気づけばヒーローたちを攻略してしまった⁉︎』と言うラノベの世界に酷似していることに。
本来なら記憶と記憶がごっちゃになって、混乱してぶっ倒れたらするところかもしれない。けど、私は案外すんなり受け入れることができました。あぁ、そうか…って。だから私は孤児院の前に捨てられていた赤ん坊であるにも関わらず、貴族が持つとされる青色の瞳を持っていた。今だから分かります。でも、今まで誰も、私自身でさえ、何故捨て子である私が青の瞳を持っているかなんて疑問に思わなかった。他にもおかしいところは沢山あった。きっと、物語の強制力でしょう。
この"ラノベの中の乙女ゲーム"は身分差をテーマとしたもので、平民からいきなり令嬢になってしまった子と高位貴族の子息との恋というものでした。主人公は妾の子というわけで家族に辛く当たられて、そんな中で攻略対象たちに出会い恋に落ちる……という物語です。
しかし、この攻略対象はもう既に悪役令嬢の方の子に惚れているはずです。つまり私は、大好きな家族と切り離され、高位貴族方々と恋に落ちることもなければ、孤児院にいた為貴族としての教養もまだまだで、その上義家族から辛く当られるって訳ですよね。…そうですよね、やっぱり皆様そう思いますよね。私も最初思いました。
"……あれっ?私良いところ無くないですか!?"
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私が貴族の庶子だと分かった日から約半年後、今日は学園の入学式です。周りは生まれた時から貴族として育てられた方ばかり。貴族歴半年の私が浮いてしまうことは目に見えています。ですが、私の気持ちはと言うと…意外とウッキウキです!
家族とは言っても母と姉は義理だし辛く当られても別に何ともないでしょーとか思ってたあの頃の私をぶん殴ってやりたいですよ。えぇ、本当に。暴力を振るわれることは無かったけど中々キツかったです。何となーく居心地の悪い感じというかなんというか…。あ、私邪魔なんだろうな…みたいな。
事あるごとに孤児院にいる家族のことも思い出しました。今頃年少の子たちは泣いているんじゃないかな、年長の子たちはしっかり勉強しているかな、先生は元気かな、出て行った兄姉たちは何処にいるのだろう。思い出すたびに泣いてしまったのはここだけの秘密です。
そんなことを考えながら学園の中庭を歩いていましたが、…まぁ、迷ったわけですよ。これどう考えても主人公補正発動してますよね。いや、私だって迷おうと思って迷ったわけじゃないんですよ。寧ろなんで迷うんだろうとか思っていたんですよ。入学式の会場行くのに、中庭って!とかね。いや、別に私は悪くないですよ!ここの学園広すぎるんですよっ!!
……とりあえず落ち着いて、入学式の会場目指すか。と思い、辺りを見回してみます。すると何処からか聞き覚えのあるセリフが…。
「ミ、ミイナ・ドロヴィナ…」
「はい?」
ぱっと後ろを振り返ると如何にも悪役令嬢です!と言うような縦ロールの金髪の綺麗な方がいます。そう、この方がこのラノベの主人公でありゲームでは悪役令嬢だった方、リアン・キーマス公爵令嬢。
っあぁぁあぁあぁ!やっぱりリアン様すっごい可愛いぃぃい‼︎え、何、何なの、その肌!透明感が半端じゃない。髪も綺麗な金髪でっっ‼︎やばいやばいやばい!ラノベの挿絵でも美しかったけど3次元にっ、同じ次元にリアン様がいるなんてっ…!失礼。少し取り乱してしまいました。実は私、この原作ラノベのリアン様の大ファンだったんですよね。いやもう、破滅するまいと健気に頑張る姿が可愛くて可愛くて。…確か今はラノベで言うとあのシーンかな…。
(これがあの、主人公のミイナ・ドロヴィナ!あぁ、どうしよう‼︎遂にゲームが始まったんだわ!このままいけば、私は破滅してしまう!」
…やっぱり。後半声出てますよって教えてあげた方が良いのかな、とか思いましたが、これラノベの世界ですもんね。そういうのは禁句かもしれないし、言わないでおきましょう。まぁ、そんなところも可愛いんですけどね。はい、私の推しが天使すぎる。とりあえず、ここは原作通りに…。
「あの…何かごようですか…?」
〜必殺・上目遣いを添えて〜
流石(元)主人公なだけあって、私、顔はそこそこ良い方なんですよね。確かラノベでは、リアン様はこのミイナの顔に惚れて(?)友達になりたいって思ったんでしたっけ。ゲームの中の私はこんなに可愛い子をいじめてたって言うの⁉︎みたいな。手垢でベッタベタの展開ですよ。友達になりたいって思ってくれるのはすっごく嬉しいんですけどね。えぇ、もう、この上ないほどに。
「あ、いいえ、何でもないわ。それより貴女、もう入学式だけど行かなくて大丈夫なの?」
「実は、道に迷ってしまって…。よければご一緒させていただけませんか…?」
「え、えぇ!もちろんよ!一緒いきましょう!」
「ありがとうございます…‼︎」
本当に心の底からありがとうございます、神様、リアン様。
いやぁ、助かりました。向こうが原作のまま言ってくれるので、こっちも原作通りに話しておけば友達になれるんですもんね!すっっごくラッキー!…なのですが、天下の公爵令嬢様にただの子爵家の庶子が頼み事をするなんて、この世界の身分制度的に大丈夫なのでしょうか。とか色々考えているとこれまた聞き覚えのあるセリフが聞こえてきました。
「あれ、リアン?どうしたの?」
「あら、ゲオルク様。ごきげんよう」
きたぁあ‼︎遂にきました、この方!王太子殿下ゲオルク・フォン・ダーリア様。リアン様の婚約者でありゲームでは攻略対象だった方。ラノベではメインヒーロー‼︎ちょ、やばいやばい。勿論この世で一番美しいのは私の推しであるリアン様なのですが、ゲオルク殿下の破壊力も中々のもので…。もう、私を殺しにかかっているとしか思えません。
先程、私、良いところないとか言いましたが訂正します。そう、これですよ、これ!鈍感リアン様とラブをアピールしてるゲオルク殿下の恋愛劇!これが間近で見れるなら他に何もいらないです。
ラノベも勿論何百回と読みましたが、それが、まさか、映像として観れるなんて‼︎前世の私が、どれだけこのラノベのアニメ化を待ち望んでいたことか…!…まぁ、こんな形で夢が叶うとは思ってもいませんでしたが。
「あれ、リアン。そちらの方は?」
「あぁ、この方は少々道に迷ってしまったようでして。お名前はミイ……じゃなくて、そういえば私もまだ伺っていませんでしたわ」
そう言ってリアン様とゲオルク殿下がこちらを見ます。おおおおお!美女×イケメン=最強‼︎バックに薔薇が見えます。…いやあれ、ゲオルク殿下、私の方見てないな。見てるのリアン様だ。リアン様の延長線上に私が居るだけみたいです。
「ミイナ・ドロヴィナと申します」
「ミイナって言うのね!可愛い名前だわ」
「そうだね、リアン。ところで、そろそろ入学式始まってしまうけど行かなくて良いのかい?」
おお、ゲオルク殿下。話題転換早すぎです。そんなに私に興味なかったですか。ラノベで読んだときは、そりゃあゲオルクはリアン一筋だから!とか思ってましたが、今も思ってますが、それでこそゲオルク殿下ですが、流石に早すぎて驚きました。
「あら、いけない、本当ですわ‼︎急ぎましょう、ミイナちゃ…じゃなくて、ドロヴィナさん!」
「はい!あ、あの…それから、その…えっと…」
「どうしたの?ドロヴィナさん」
「いえ!あの、良ければミイナと呼んでいただけないかな、と。それからお名前をお伺いしたくて…。あっ!ごめんなさい!身の程知らずなことを…!」
私は割と深めに頭を下げます。…そういえば、ここまで原作に書いてあったことしか言ってないんですよね、私。ここら辺までは覚えてるけど、これからどうしようかな。まぁ、ラノベの読了回数3桁いっていますし、その場その場で頑張って思い出して行こうかな。
「頭を上げて!そう言ってくれて、とっても嬉しいわ。私はリアン・キーマス。よろしくね、ミイナ」
「っはい!よろしくお願いしまー」
「リアン!そろそろ入学式に急ごう」
ゲオルク殿下、私が言い終わるまで待てませんでしたか?あと10秒、せめて5秒。
「そうですわね。じゃあ、今度こそ行きましょうか、ミイナ!」
「はい、キーマス様」
「あら、リアンで良いのよ。私たち、もうお友達でしょう?」
「は、はい!リアン様‼︎」
遠く…とも言えない中途半端な距離からリアン様を呼ぶ声がします。きっとゲオルク殿下でしょう。
ゲオルク殿下の元にリアン様が駆け寄っていきます。後ろから見ても絵になる2人です。リアン様、可愛い。
っとここで!ここでだったっけ⁉︎リアン様が躓いてしまいまし…たがゲオルク殿下が華麗にキャッチ。図らずともハグしたような感じになってしまいました。ゲオルク殿下は満足気だし、リアン様は顔が真っ赤。あぁー推しが可愛い、尊い、まじ天使。
原作のこのシーンもキュンキュンしましたよ。もう、キュンッキュンですよ。ここからリアン様はゲオルク殿下を意識しだすんですよねぇ。あぁ、2人が(特にリアン様が)が幸せになってるところ、早く見たいなぁ!
いやぁ、それにしても、いや、いいわぁ。リアン様とゲオルク殿下、お似合いです。問題点があるとすれば….強いて言えば、ゲオルク殿下がリアン様以外に興味がなさすぎることですね。
別にゲオルク殿下はリアン様一筋だからこそ良いキャラだからそれは良いんですけど、良いんですけども!わたしだって推しであるリアン様とお友達になりたいんですから、もう少し我慢していただきたいです!
でも、これからあと5人元攻略対象であり、リアン様が無意識中に攻略済みのキャラが出てくるんですよね。そして深まるゲオルク殿下とリアン様の愛!あのシーンを生で見れるなんて‼︎良いところない、なんてことぜんっぜん無い!再びありがとうございます、神様、リアン様‼︎
「ミイナー早くー!」
「はい、リアンさー」
「リアンも早く!」
だから、あと5秒‼︎‼︎