98 エノスデルト
裕介達がエルベ村に来て、早、二週間が過ぎた。ミリムの休みも後僅かだ。そろそろ、セフィアの実家のある元エスパール領の中心地、エノスデルトに移動し義兄夫妻に挨拶してミリムとお別れする頃だ。
キリッシュやププルにお礼を言い、エルベ村を後にした一向はエノスデルトに到着した。
ゲルトにも引けを取らない大きな街だ。街に入る前から、まだ珍しいバイクで移動していると、子供達が走って付いて来る。セフィアは笑いながらサイドカーから手を振っていた。
「セフィア姫が、バイクで戻って来られた」
エノスデルトの市民達の間には、瞬く間にその噂が広がり、裕介達は街の入り口で仰々しい騎馬兵の一団に出迎えられる。
「ピヤっ! 何でしょう?」
ミリムが一団を見てびびっている。
一団は馬から降りて勢揃いすると、止まった裕介達の前に跪き傅いて声を揃えて言った。
「お帰りなさいませ、セフィア様、カワハラ大佐!」
「皆、ご苦労です。ただいま帰りました」
あまりの仰々しさと、セフィアの普段とは違う姫様としての態度は裕介には芝居がかって見え、なんだか可笑しくなった。裕介は、この地を訪れたのは初めてであり、お帰りなさいと言われるのもおかしな話である。自分がエスパールの一族の一人になったこと、セフィアがこれらを捨てて自分の元へ来たことを、改めて認識する。
当主であるエスパール本人から、よく連絡が行っていたようで、ミリムも一族の者として扱われた。兵士一団にエノスデルトの中心エスパール城に案内される。ステラは、エノスデルトのパルージャ商会に行くと言って、ここでは別行動になった。
「じゃぁ、ミリムちゃん、ここでお別れになると思うけど、商売の方、頑張ってね」
そうステラはミリムに言って、裕介達と離れていった。
「よく来てくれました、ユースケさん、ミリムさん。セフィア、お帰り」
そう言って迎えてくれたのは、セフィアの兄クリスとその妻メリルだ。
「兄さん、姉さん、ただいま」
「初めまして、ユウスケ・カワハラです。それと義理の兄弟として迎えましたミリムです」
裕介とクリスが握手を交わす。
「あのパストゥールとルルドを落とした英雄として、父や兵士達からお話しは良く聞いています。それに、ベイグルの経済を牽引するカワハラギケンの代表としても。我が一族と繋がりが持てたことはまことに喜ばしいことで、セフィア良くやったと褒めてやりたいです」
「お兄さん、それじゃまるで私が政略結婚したみたいじゃないですか!」
「あっ! すまん、そういう意味では無かったんだがな。すまないユースケさん、そんなつもりで言ったんじゃないんだ、あくまでも歓迎の意を伝えたかっただけなんだ」
「大丈夫ですよ。セフィアにそんなつもりがないことは良くわかっていますから」
「ミリムさんも、緊張せず、親戚の家だと思って自由に寛いでください」
「はひ! 家と言ってもお城ですから、何をどう寛いでいいのやら… 広すぎます」
「ハハハそうだね。住んでいる我々も、今となっては広すぎて不便極まりない」
「ミリムセイコウのミリムレンズというのを父からもらってね。これは凄いな。狩りの時、いつも使わせてもらっている」
「ありがとうございます」
夕食の後、セフィアが裕介に頼んでアイテムボックスから取り出した物があった。ピルブ村にいた時に裕介が作ってくれたセフィアが初めて釣ったアメマスの魚拓だ。
「お兄さん、これは私が初めて釣った魚の魚拓です。これをこの家の何処かに飾って置いて欲しいの」
「おぉ、これは立派な魚じゃないか! 本当にセフィアが釣ったのか?」
「そうよ。初めて釣った記念なの」
「いいぞ、父さんも剥製を作らせているらしいから、広間に並べて飾って置こう。父さん、喜んでいたからな。セフィアが次に戻って来る時には、この城は魚の剥製だらけになってるかも知れないぞ」
「それほど釣りが出来る時間はお父様には、無いでしょう?」
「いや、さっさと引退して釣り三昧で暮らすって言ってた」
翌朝、軍人達が裕介に会いたがっていると聞いて、軍の駐屯地を訪ねる。
「ミステイクのカワハラ大佐?!」
あっと言う間に人だかりができて、握手をもとめられ、汗臭い軍人達に身体を触られ、闘魂注入の為に殴って欲しいと言う物まで現れる。
兵士の中には、サーズカルやリンゲから来た連中も混ざっていて、パストゥールやルルド攻略の話しに尾鰭が付きまくっていた。
またとない機会なので、是非、講演をお願いしたいと言う司令官からの願いで、嫌がりながらも裕介が急遽、講演を行うことになった。
パストゥールの水責め、トンネル掘りと湿地の道路建設、そして夜襲。ルルドの厳冬期作戦、陥落。そしてミレザ革命、セフィアの活躍と亜湖の戦死まで。
一喜一憂しながら聴いていた兵士達は、亜湖の戦死の話しになると、皆が涙した。聴いていた、ミリムやセフィアまでもが泣いていた。
最後がこれでは、士気に関わると思った裕介は、広場で土魔法の実演をする事にした。体験者二十名に二百人の希望があり、じゃんけんの様なもので最終的に決まったようだ。
「じゃぁ、行きますよ」
大規模な液状化からの固化。兵士二十名の下半身が土に埋まった。会場は大盛り上がりだ。
固化を解かれ這い出した兵士達は、一躍特別な体験をしたヒーローになり、他の兵士達の羨望の的になる。
この様子を見ながら、裕介は「平和って良いな」と思っていた。同じ魔法で何人かの命を殺めて来た裕介としては、この平和が末長く続く事を切に願った。




