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96 魔動船外機

 裕介は午後から魔方陣を描いた魔動モーターと睨めっこしていた。セフィアはまた主人が何かを作ろうとしているんだと気づき、邪魔をしない様にそっとしている。


「なぁセフィア、魔動モーターってどう言う原理で回転するんだろうな?」

「原理ですか?」

「うん、これまでは魔法だからと、あまり考えずにいたけど、魔法って俺のいた世界では説明できないような事が出来るだろ?」

「そうですね。魔法の基本は魔素を身体の中に蓄積して魔力にし、それを思うイメージに変えて放出する事だと言われています。そのイメージがなかなか出来ないので、変換の書式を組み込んだ魔方陣を使って例えばコンロなら熱に変換します」


「魔素は、何にでも変わるって?」

「そうです。あなたの世界で言う、とても変換効率の良いエネルギーと言うものでしょうか?熱に変えたり、物質の性状や、元素まで変える事ができるのですから。でも、その辺りになると私にも何がどうなってそんな魔法が成り立つのかは本当のところわかりません」

「物質が七元素で出来ていると考えている世界だもんな」


「魔素は、その七つの元素『水、風、火、土、木、金、闇』を自由に扱う事ができるエネルギーだと言われます。治癒魔法やクリーンナップは、魔法が使えるようになったら本能的に使える魔法ですが、これらの生活魔法は魔素そのものが持つ、自然の治癒や増殖力を用いているらしいです。放って置いても自然環境は治癒と増殖、清浄化を行いますから」


「この中で取り分け闇が、空間やあなたの仰る引力を扱います。以前にお見せしたエレベーターの魔方陣は、この引力の方向を変える書式なのだと、私はあなたの話しを聞いて思いました。魔動モーターもこれと同じような書式です、引力の方向を魔力が働いている間、回転方向に変えているんです」

「つまり、星が物を引き寄せる力を利用しているって事か」

「そうです。魔法でレンガを浮かせて運ぶのと、原理は同じです」


「なるほどな。反重力って言う奴かな? いや、船を動かす事は出来ないかって考えてたんだ。それには、回転数を上げる必要があるんだが、書式を変えると出来るのだろうか?」

「可能ですが、流す魔力が増える分、強い魔力が必要になります。一般の人でどれだけ流せるか、勿論流す魔力が増える分、多くの魔力量も必要になるので、バイクのように八時間の継続は無理になりますよ」


「せめて、今の五倍の回転数があればと思うんだけどな」

「五人で出来れば問題ないのですが、人には持って生まれた魔力流量のようなものがあります。勇者や魔法使いはその量と蓄積出来る量がとても多いんです。流量を変えずに、回転数を増やすとなると、回転力がその分落ちてしまいますが」

「トルクが落ちるって事なら、回転数と反比例して落ちるのであれば、問題ない。動力は変わらないからな、継続時間も同じ筈だ」


「では、描いてみましょう。後は実験ですね。ウフフ」

 セフィアは裕介と二人篭りっきりで、ルアーを作ったあの冬を思い出していた。

 こうして、裕介とセフィアはその日の夜までに、この世界で初めての小型ボート用船外機の試作機を作り上げた。

 想定スペックは、10馬力、プロペラ回転数600rpm、想定最高速度18km/hと言う代物だ。


 材質には、初めてファインセラミック擬きを採用した、液状化した砂から比重でシリカ分だけ分け、それと同量の液状化したダイヤを入れてかき混ぜる。それを固化すると日本では、二千五百度の高温で焼結させて作るファインセラミックSiC擬きになる。

 実は既に竿のガイドに採用していたが、この製造は裕介とミリムにしか出来ない。他者の土魔法では、ここまでの高温を扱え無いからだ。

 ひょっとすると、マカロンなら出来るようになるかも知れない。

「じゃぁ、明日、ププルさんに実験に付き合ってもらおう」


 その夜、思いがけ無い客がやってくる。

 セフィアの父、エスパールの使者だ。

「義父さんの?」

「裕介さんと、どうしても一緒に釣りをしておきたいと仰っておられまして、今、夏季休暇で戻って来ておられます」


「そうですか! じゃぁ、明日は船外機のテストがあるので、明後日でどうでしょう?」

「明後日ですね。その様にお伝えいたします。道具などは、どうさせて頂けば良いでしょうか?」

「お義父さんに、文字通り大名釣りをプレゼントしますから、身一つでおいで下さいとお伝えください。船は頼んでおきます。従者の方は、一人でお願いします」


「承知致しました。実は釣り釣りと、かなり前から楽しみにしておられます。そのあたりもお含み頂いてよろしくお願いします。それとこの事は、事が大袈裟になりますので、隠密でお願いいたします」

 従者は深々と頭を下げる。

「大丈夫よ、ステファニー。良く分かっているわ」

「お嬢様、急なお願いで申し訳ありません」

「心配しないで、今日も売れるほど大漁だったんだから」


 翌朝、裕介はププルに承諾を得て、船外機を船に取り付けた。

「ほんとに、そんな物で船が動くべか?」

 ププルは、信用しない。

「動くハズなんだけどな。多分、ププルさんが漕ぐよりもずっと速く、楽に進むと思う」

「どうやったらいいべ?」

「舵を持って、魔力を流せば良いだけさ」

「オラ、そんなに魔力は無いべよ」

「多分、大丈夫だ」


 おっかなびっくり、ププルが船外機に魔力を流し始める。船艇に取り付けられた、水中の魔動モーターが静かに回転して、船が動きはじめる。

「ほんと、進み始めたわ」

 ステラが驚いている。

「速度調節があまり出来ないから、魔力を流したり止めたりで調節してね」

「んだ、さっきからやってるべ。まともに走らせるのは、まだおっかないべよ」


 そう言いながらも、ププルは段々慣れて来て、港を出る頃には、全速で直進し始めた。

「こりゃぁ、速くて楽だべ。こんな物付けてる船は初めてだべよ」

「十分使えるみたいだな。船外機って言うんだ。気にいったのなら、このまま使って貰えばいい。今回初めて作った素材、ファインセラミック製だから腐食の心配は無いと思う。でも、牡蠣が付くから、港に戻ったら水から上げて置いてね」


「こんただ物を、もらっても良いだべか?」

「うん、そのかわり明日頼みたい事があるんだけど」

「なんだべ? オラ、なんでも聞くべよ」

「明日、セフィアの親父を乗せて欲しいんだ」

「ひえっ!? 殿をだべか? こんただ、汚ねぇ船に殿を乗せて何をするべか?」

「釣りに決まってるじゃんか」

「殿が釣りをなさるべか?」

「物凄く、楽しみにしてるらしいぞ」

「のぉぉぉぉ〜!」

 ププルは天を仰いで両手を広げ、昔見た戦争映画の一シーンのように、驚いていた。

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