94 スコンベル
未だ開けきらぬ時間、裕介達は宿を出発して漁港に行く。
「おはようごぜえます。こりゃまた、早くのお出ましだぁな」
昨日の漁師、ププルと言うらしいがもう船の上で準備を始めていた。七、八人は乗れる、漁船にしてはしっかりした大きな船だ。帆と艪を漕いで進むらしい。
「おはようございます。船長、今日はよろしくお願いします」
「あいやー! 釣りってのは、一匹づつ魚を獲るんだべか? 気の長い話しだべな」
「それが、面白いんですよ。船長もやったらハマりますよ」
「そんなもんだべかな? まぁ、見せてもらうべ」
急造りのライフジャケットに身を包んだ、裕介達四人が船に乗り込む。
「お兄さんは、泳げるのに何故ライフジャケットを着てるんですか?」
ミリムが質問する。
「泳ぎの達者なものでも、普通の服を着たまま水に落ちると、思う様に泳げずに溺れるんだ」
「そうなのですか?」
「うん、だから服を着たまんまだと、ミリムも俺もあまり変わらないんだぞ」
「お兄さんが溺れたら、私が助けてあげます」
「犬掻きでか?」
「大丈夫よ。私が魔法で引っ張りあげるわ」
「あっ! その手がありましたね! お姉さん」
「その前に、みんなが船に酔わないか心配だ」
「馬車酔いと同じですね。それなら、治癒魔法が効くので大丈夫ですよ」
「魔法って、便利だな!」
そう言っているそばで、ステラが自分に治癒魔法をかけている。早速酔ったのかも知れない。
「ついたべ、この辺りはいつも網に魚が良くかかる場所だぁ」
船長が船を止めて、錨を沈める。
「そうだ、セフィア。魔物レーダーを作ってくれよ。ひょっとしたら、魚の魔力にも反応するかも知れない」
「そうですね」
裕介がこれに焼いてくれと差し出した、小さな鉄板にセフィアが魔方陣を焼き付けた。
鉄板が素早く赤色に点滅する。
「いるな!」
「なんだべ? それは?」
「魚探と言うか、近くに魔物がいると点滅する魔道具だ。そうだ、船長にも一つ差し上げます」
「ありがたいべ。姫様の魔道具なら、我が家の宝にするべ」
「いやいや、使ってね」
「お兄さん、お姉さん。それは商品に出来ますよ!」
ミリムとステラが、呆れた顔で言う。
「あっ! 気付かなかったな、なぁ、セフィア」
「うふふ、そうですね」
「だから、あなた達は私が付いて無いとダメなの!」
また、ステラに怒られてしまった。
「じゃあ、釣ってみよう。これは、メタルジグって言う、鉛の塊のルアーだ。真っ直ぐ落として、シャクリながら巻き上げ、時々、止めたり、引っ張ったり、落としたり、色々やってると釣れる」
「竿は、これだな?」
裕介はアイテムボックスから、太短いグラスロッドを取り出して、リールとメタルジグをセットして、セフィアとミリムに渡した。
「これは、ちょっと硬いですね」
「おっ!セフィアも言う様になったな。そうこれがジギングロッドだ。見てろよ、こうやって扱うんだ」
裕介は、脇にロッドのバットを挟んで、リールを解放した。スルスルとラインが出て行く。実は裕介自身もジギングは初めてだ、高校生だった裕介に船に乗ってジギングに行くような経済力はなく、もっぱらテレビで見た知識だけなのだ。
さも、経験がある様に話してはいるが、裕介自身本当に釣れるかどうか不安だった。
竿を上下させてシャクリながらリールを巻く動作をジギングでは、ジャークと言う。なんとなくジャークらしきものをして、止めた瞬間だった。
カツーン! とした当たり、途端に硬くて太いロッドが弓なりに曲がる。ドラグは少し出て止まった。
ゴンゴンゴン! と竿全体が揺れる。
裕介は、竿を上げては、下げながら巻き、また竿を上げるを繰り返して魚を水面まで引っ張り上げた。
「ほー! もう釣れたべか?」
「そこの網で掬ってもらってもいいですか?」
「ほい、任せるべ」
ププルは裕介が持ち込んだ、アルミ枠、サファイアライン製の大きなタモ網で魚を掬う。
魚が船に揚った。
「マジか? こりゃ、サバじゃないか?! 六十センチのサバって。こんな大きいのは初めて見た!」
「あいやー! でっかい、スコンベルでねぇか! これは大物だべ」
「酢昆布?!」
「いえ、スコンベルって言ってのよ」
「この大きさになると、網を破られるで、なかなか獲れねぇべ」
「こんな感じだ! バンバン釣ってくれ!」
そう言っている間にププルは桶で海水を組み、鯖の首を折り桶に突っ込んで血抜きをしてくれる。流石は漁師だ。
「重っ!!」
ミリムに来たらしい。走り回っている。
「ミリム、竿を立てて、倒しながら巻くんだ」
流石はベイグル最初の釣りガールだ。そのアドバイスで巻き上げ始めた。
続いてセフィアにもヒット!
「おぉぉ!ダブルヒットだ! じゃあ、俺も」
ププルが網を持って、順番に取り込んでくれるので、裕介も調子に乗って、ここぞとばかりにジグを投入する。
「トリプルヒット〜!!」
船の上はお祭り騒ぎだ!
「これがあるから、釣りはやめられないな!」
「たっ、楽しい〜!」
「面白い〜!」
黙って見ていたステラだったが、ソワソワし始める。
「私も釣らせてもらってもいいかな? 釣ってみたいの、釣らせてください!」




