90 海水浴
朝早く海岸に着いた。確かに海岸はアザラシまみれ。魔物と聞いていたので、裕介は体重四トン近いアザラシをイメージしていたが、それとはかけ離れていた。大きなもので三十キロ程度、白いモフモフのゴマアザラシ?
そういうのが、いっぱいいるのだ。
「きゃー! 可愛い!」
当然、女子達は全力で可愛いを連発する。果敢に駆け寄って行くが、そうは言っても相手は野生動物、犬猫のように簡単に触れるわけでもなく、一定の距離以内に入ると逃げられている。
裕介は、女子達は自由にさせて置き、自分は燻製小屋の製作に取り掛かる。完成して小屋の中に昨日下ごしらえした鮭をぶら下げ、持っているチップで燻し始める。完全に乾燥させる気はないので、数時間燻せば出来上がるだろう。
アザラシを諦めたセフィアも手伝い、今夜の宿泊ロッジを燻製小屋の傍に作る。
ベイグルでも流石に七月中を過ぎると暑く、海水浴をするとすればこの時期しかないだろう。
「じゃあ、泳ぐか」
「実は、泳げないんです」
セフィアが恥ずかしそうに言う。
「僕も」「私も」
「えっ? みんなか?」
「やれやれ、じゃあ、浮き輪を作っておくから、その間に着替えてきて」
裕介はアイテムボックスから、バイクのタイヤの予備のチューブを三つ取り出すと、空気を入れ始めた。考えてみれば、夏が短いベイグルで泳ぐ機会はあまりない。この三人や、ドリスのように泳げない連中がほとんどじゃ無いだろうか?
これは、釣り具を売るにあたって、ライフジャケットも広めておく必要があるなと裕介は思う。
三人はロッジで着替えて出てきた。
「…ステラ… そりゃぁ、なんだ?!」
「なんだって、作ってもらった水着じゃない」
裕介は、鼻血が出そうになった。マイクロビキニと言うわけではない、他の二人と布地面積は多分同じなんだろう。おっぱいの表面積がデカ過ぎるのだ。スイカに載せた蜜柑の皮のようで、それが、裕介の目からは、辛うじて乳首が隠れている程度に見えた。
「巨乳にも、程があるだろう…」
普段の衣服で圧縮して仕舞われていたそれは、もはや地上から離れてぶら下がっている事が不自然なほど、タガを外して開放された魔法のように裕介の目を釘付けにした。
「あなた!」「お兄さん!」
固まった裕介を、この世界に引き戻すようにセフィアとミリムが声をかけ、ジト目で睨む。
「あぁ、すまん! 魔王に取り込まれてしまうところだった」
「私達も絶句しちゃいましたけどね」
「あら、部屋を作ってもらった、ほんのお礼みたいなものよ。ホッホッホ」
上から目線のステラ。セフィアとミリムは、なぜか悔しそうな顔をする。
「浮き輪を作ってやったから、これでこうやって、海に入るといい」
裕介は、浮き輪の中に入るジャスチャーで三人に教えた。三人は浮き輪に入って海に入っていった。
「きゃー、気持ちいい!」
初めての海水浴は、気に入ったらしい。
海に入ると、逃げていたアザラシが仲間だと思うのか傍に寄ってくる。白いモフモフを触らせてくれる。触っていると猫のようにひっくり返って、お腹も触らせてくれた。女子達は、心ゆくまでモフモフを堪能したらしい。
裕介は、と言うと、水着に着替えて海に入ろうとしたところで、砂の中の何かが足に当たった。何かと思って掘り出してみると、それは大きなハマグリだった。しかも、そこら中から出て来る。せっせと潮干狩りをしていた。
ふと気がつくと、ステラがかなり沖合まで流されていた。
「しまった! 離岸流か!」
裕介は、海に飛び込みセフィアとミリムに海から上がるように言って、そのまま真っ直ぐにステラに向かって泳いで行った。
「ステラ! 大丈夫か?」
「えっ?」
ステラはアザラシと遊ぶのに夢中で自分が流されていた事にも気付いていなかったらしい。
「えっ! なんで、こんな遠くに?!」
「戻るぞ!」
「はい!」
とは言ったものの、裕介は戸惑った。浮き輪の前半分は、ステラの大きなおっぱいが鎮座して掴む場所がないのだ。後ろから押して行こうとすると、お尻に身体が触れまくり抱きついているようになる。
「えーい、ステラ、少しの間辛抱してくれよ!」
裕介は、浮き輪とおっぱいの間に手を入れ、ステラを引いて岸と並行に泳ぎ始めた。
「あふーん!」
「変な声出すなよ!」
ステラは散々おっぱいを商売道具として、見せびらかせていたものの、異性に触れられるのは、初めての体験だった。非常事態だと言うことは分かっているが、裕介の手がおっぱいの谷間で擦れるたびにドキドキする。分かっているけど、どうしようもない。身体中の全神経が裕介の手と触れている部分に集中しているようだった。
「そっ、そこはダメぇ〜」
並走して泳ぐアザラシが、どうしたの? と言うような顔をして自分を見ているようにステラは感じた。
「お、大人の事情よ」
顔を赤らめて、ステラはアザラシに言う。
ある程度まで岸と並行に泳ぐと裕介は、今度は向岸流に乗って岸に向かって泳ぎ始め、無事に岸にたどり着いた。
はぁはぁと、力を出し切って仰向けに寝転がる裕介を見ながら、ステラは違う意味で上気した自分を諫めようとしている。セフィアとミリムが駆け寄って来た。
「危なかったですね、あんなに遠くまで流されるなんて!」
「離岸流って言うんだ。海にはところどころに、打ち寄せた流れを反対に運ぶ流れの部分があるんだ」
はぁはぁと息を落ち着かせながら裕介が話す。
「そんな場所があるんですか?!」
「ほとんどの場所は、岸に向かって流れてくるんだけどな。やっぱり、ライフジャケットは必要だな」
「ライフジャケットって?」ミリムが聞く。
「こう言う浮き輪みたいなものだ。釣りの途中で誤って水に落ちても、溺れる心配がないだろ? 釣り人は、魚を釣り始めると夢中になって結構無茶をするからな」
「具体的には、どう言うものですか?」
「落ちてから、自動で膨らむタイプのものと、初めから浮かぶ素材で出来ているものがある。ミリムがいる間に紙に書いてまとめとくよ」




