9 賢者の計画
俺たち五人はサーズカルに向けて、徒歩で訓練所を出発した。
五日ほど過ぎた頃、柿沼さんが海野さんに問いかける。
「海野さん、そういえば俺たち賢者の力ってのをまだ見せてもらってないんだけど、どんなことが出来るんすかねぇ~」
「そうだね。まだ全く話していなかったよね。じゃぁ、あの飛んでいる鳥を見ていて」
五人は足を止め、海野さんが指す指の方向に天高く一羽の鷹のような鳥が飛んでいるのを見た。
しばらく鷹はクルクル回っていたかと思うと、急降下をはじめウサギのような魔物を爪で掴み、こちらに運んできて俺たちの前で落とした。
「これが賢者の力?」
「そうだね、動物や魔物を意のままに操ることが出来る。一部の人間もね」
「人間もって⁈」
「うん、欲求不満や欲で思考力の衰えた人間ならね。既に準備は始めているんだ」
「準備って何を?」
「革命さ」
この人、かなりヤバいことをあっさりと言った。俺たちは黙り込む。
「人間の場合はね、言葉で誘導してやる必要はあるけど、この国の人たちって黙っているけど、かなり国に不満を持っているでしょ」
「でも、革命って誰がやるんですか?」
「僕たちがやるわけじゃないよ。うーん、例えば今から行く第一師団の師団長とか?」
「マジ?」
「みんなもこの国の国王は憎いでしょ?まぁ、その辺の誘導は僕に任せておいてよ」
「じゃぁ、俺たちは何をしに前線へ行くだ?」
柿沼さんが聞く。
「戦争を終わらせにだよ。革命を起こすには、兎に角、戦争を終わらせる必要があるからね」
「俺たちで?」
「うん、たぶんやれるとは思うんだけど、一度みんなの最大の力でどこまでできるか見せてよ。柿沼さんからいいかな?」
「いいぞ、思いっきりぶっ放していいんだな?」
海野さんは頷き、柿沼さんは広い荒野に向かって立つ。
柿沼さんが魔力を使うと、燃えるものもほとんどない荒野に長さ八百メートルほど、幅と高さが五メートルほどの炎の壁が出来た。
「すっげぇ~」
「こんなもんだ」
「次は裕介君やってみて」
柿沼さんが魔力を解いて炎を消すと、次は俺だった。
「いろいろ出来そうだけど、さっきの火の辺りを砂に変えることは出来そうかな?」
「どうだろう?そんな大規模にはやってみたことがないから」
そのイメージで、荒野を砂丘に変えてみる。出来た。
「やるなぁ~裕介。鳥取砂丘みたいになったじゃないか!」
亜湖さんがびっくりする。
「じゃぁ、池宮さん、この砂を吹き飛ばすことが出来ますか?」
「どうだろう?」
池宮さんが風魔法で風を送る。かなりの強風で竜巻じみている。みるみる砂丘は砂嵐になった。これもすごい。
「いいですよ。魔法を解いてもらって」
池宮さんが魔法を解くと、目の前の砂があった荒野は幅五十メートル長さ五百メートルくらいの窪地になり、その先に砂の小山ができていた。
「二人で地形を変えたよ。天災級だな」
柿沼さんがつぶやく。
「じゃ、最後に亜湖さん。四人同時に消えることは出来ますか?」
俺とつながっていれば大丈夫だと思う。
亜湖さんと四人が並んで手を繋ぐ。
消えたかどうか、これは俺には視覚的にはわからない。亜湖さんと手を繋いで俺たちが消えても、俺からは消えては見えないからだ。でも少し、世界が黒くシャドーがかって見える。
「いいですよ、消えましたね」
海野さんの言葉で元通りの世界に戻る。
「闇魔法というのは、闇も生み出せるのですかね?」
「ええ、出来ますよ」
亜湖さんが魔法を使うと辺りは真っ暗になった。本当に真っ暗で星一つ見えない真の暗闇だ。
「これはどのくらいの範囲をカバーできますか?」
「さっき出来た小山くらいまでは可能ですよ」
「わかりました」
みんな流石、勇者の能力だなぁ~と初めてみんなの本気を見せてもらって感心してしまった。
「ありがとうございました。おかげで勝ちパターンが見えてきました。そうだ、裕介君、作った小山を液状化できますか?」
「魔法が届く距離まで行ってみないと分からないけど、砂にした範囲よりも狭いから出来るんじゃないかなぁ~」
俺は、小山の近くまで歩いて行って、魔力を注いだ。小山は液状化して作った窪地に流れ込み、再び硬化させ土に返すと元の平地に戻った」
「ありがとう。疲れや魔力の感じはどうですか?」
「ここまで走ったほうが疲れたかな?」
「現地に行って見てみないとわかりませんが、四人でフレーブの砦を落としてきてもらいたいと思います」
「フレーブのルルド砦をですか?あれは、この二十年難攻不落の砦では?」
「なぁに、四人の力があれば、一日で落とせますよ」
海野さんって、ソフトだけど実はかなりヤバい人なんじゃないかと思えてきた。