86 開店
ミリムの店、ミリムセイコウの開店日、開店前から人が並んでいる。裕介とセフィアは、手伝いの為に裏口から、店に入った。
「ミリム、手伝いに来たぞ!」
「あっ、兄さん、姉さん。ありがとうございます」
「コレ、開店祝いの花束だ」
春先の花束。もちろんベイグルでは、輸入品だ。それも飛びっきり大きな花束を、裕介夫妻は用意した。
「す、すごく綺麗〜!」
「お祝いだからな。大きければ大きいほど、多ければ多いほどって奴だな」
ニカっと裕介が笑う。
「それにしても、えらいお客さんが並んで待ってるぞ」
「ですよね。僕もびっくりしました」
ミリムの店は、メガネ売り場よりも釣り具売り場の方が広い。魔法で作った大理石とガラスをふんだんに使った、高級感たっぷりのメガネ売り場と対照的に、ステンレスとサファイア樹脂で作られた、清潔で機能的な釣り具売り場。
広過ぎて未だ、並ぶ商品は充実していないが、それでも、木製竿、アルミ製の金属竿、グラスロッドの三種類の材質で、ワンピースと二本継、テンカラ、フライ、ルアー、延べ竿。そして、フライリールとベイトリールの数種類の番手が並んでいた。
ルアー、釣針、仕掛け、鉛の重り、ウキ、フライ各種、サファイアライン、シルクライン、テグス。タイイング道具、取り込み網、ウエダーまで、裕介と亜湖がこの世界に来て作り出した各種釣り具はひととおり取り揃えていた。
但し、釣鍼などの消耗品以外は、ディスプレイだけで未だ受注生産だ。
そんな中で、簡単なサファイア樹脂製ロッドに、同じ樹脂製の糸巻きの様なリールをセットして、既にラインを巻き仕掛けも付いた、ラブス釣りセットだけは、即売可能で百セットほど用意してある。
値段も比較的安価で銀貨三枚の目玉商品だが、今日は開店セールで銀貨一枚でご奉仕商品だ。
実は、既に仕掛けをかけてあり、グレッグ孤児院の年長の子供達にこのセットとミリムレンズを配って、二週間ほど前からラブスを釣りまくってもらっている。
お陰で、アリサは売るほどラブスがあると、本当に業者に引き取ってもらっているそうだ。
店が開店した。
客が雪崩れ混んで来る。
「ラブス釣りの道具を五セットくれ!」
「お客様、申し訳ありません、今日はセールの為、お一人様一セット限りとなっております」
「え〜! なんだよ!」
「コレは、何をする道具なんじゃ?」
「アレを釣る道具です」
壁には裕介が釣って来た、シルバーサーモンの剥製やら、パイクの剥製が飾ってある。冒険者ギルドでお願いして剥製にしてもらったのだ。
「ひょえぇ〜! あんなのが、釣れるのか?」
釣り具売り場の方は、ラブスのセット以外は、ほとんどが冷やかしである。未だ、誰も釣りをした事が無いから当然だろう。
ラブスセット百は、あっと言う間に完売した。
ルアーや竿、リールを珍しそうに客たちは、ワイワイ言いながら見ている。
メガネ売り場の方は大変だ。一月前にアコセイサクショから売り出された、バイクに乗っている人たちがみんなミリムレンズを掛けて走っているのだ。
若い世代を中心にミリムレンズに人が殺到していた。ミリムレンズは、割と高い。銀貨十枚で、ステンレスフレーム。銀貨五十枚で銀製フレーム。金貨十枚の金製フレームもある。
こちらは、二百セットと、金銀の特注が五セット売れた。
なんと、ミリムセイコウは開店初日で金貨三十五枚の売り上げを記録した。
翌日からは、政府の要人が続々と花束を持って現れ、セフィアの父のエスパールは、最高級ルアーロッドとリール、ルアー各種を五セットづつ注文した。
「そりゃぁ、セフィアと裕介君達が世界に釣りの旅に出ようと言うのだ、私も釣りって言う物を経験してみたいじゃないか!」
「義父さん、ありがとうございます! 近いうちに是非一緒に行きましょう!」
「おう!楽しみにしているぞ。この娘が、セフィアの義妹になった、ミリムさんだね。セフィアの父エスパールだ。何か困る事があったら、いつでも相談に来てくれ」
「エッ、エスパール様? ミリムです。是非よろしくお願いします!」
ミリムは、バッタの様に頭を下げた。
「うむ!」
そして開店五日目、なんと初代大統領の海野さんが、店にやって来た。
「久しぶりだね裕介君。忙しくて、結婚祝いも出来ずすまなかった。おめでとう!」
そう言って、海野は裕介とセフィアに結婚祝いを、ミリムに開店祝いを手渡し、金縁のミリムグラスを二セット注文した。
「ありがとうございます。海野さんこそ忙し過ぎて身体を壊さないよう気をつけてくださいよ」
「そうだ!やっと出来た釣竿とリールです。釣る間も無いかも知れませんが、暇が出来たら使って下さい」
「ありがとう! 大統領府に池があるから、時間がある時に使ってみるよ」
「えっ、海野さんも釣りするんですか?」
「うん、僕はもっぱら海だったけどね」
「今度は、海釣りの道具も作っておきますよ!」
「楽しみにしておくよ。じゃあ、また!」
海野は秘書に急かされて、帰って行った。
大統領、政府要人御用達の店。釣りは、セレブ達の嗜み。こう言うイメージが、ベイグルに広まったのは、このしばらく後からであるが、今はミリムの店の開店直後。ミリムセイコウは開店一週間で金貨二百枚を売り上げた。
「開始上々だな、ミリム。じゃあ、乾杯〜!」
ミリムが裕介の家に来て、セフィアの手料理で酒杯を上げる。
「お兄さん、お姉さんのお陰です。ありがとうございます」
「ミリムも良く頑張ったよ。道具作りは、もうバッチリだしな! ミステイクのみんなや、セフィアの親父さんが来てくれたことで、グッとブランド力が増したよな」
「ブランド力って?」
セフィアが訪ねる。
「高級品とか、一流品とかのイメージって感じかな」
「なるほど、持ってるだけでも幸せって品物ですね」
「えぇ! 僕は使って欲しいです!」
「そうだよね。釣り具は、使ってこそのモノだもんな。飾っていても意味がないよな」
玄関のドアを叩く音がする。
「アリサが来たかな?」
「こんばんは! ほら、ちゃんとご挨拶して」
アミル君と孤児院の同年代の子二人も一緒だ。
「アミル君達、今回はラブス釣りを流行らせてくれてありがとうね」
ミリムが、子供達にお礼を言う。
「ほら、ちゃんと自分でお願いして」
アリサに言われ、三人がミリムと裕介に頭を下げる。
「お願いします。僕達をミリムセイコウで雇って下さい!」




