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82 ミリムレンズ

 裕介は雪の中をセフィアとミリムを伴って、アコセイサクショを訪れていた。

「やっぱり、外は寒いな」

 外は一面氷の世界だ。ミリムの作ったくれた偏光サングラスを掛けていないと、こんな晴れの日は目を焼かれそうだ。

「本当にこのサングラスは凄いですねぇ」

「だろ? 文明の利器だな」


 新しくなった事務棟のロビーには、亜湖さんの胸像が設置してある。まぁ、創業者だからな。と裕介は思う。ガラスの製造元だけあって、まだ高価なガラスがこれでもかと使ってあり、アコセイサクショは大企業の風体を出し始めていた。

 ミリムは腰が引けているが、裕介は顔パスで飛びっきりの美女揃いの受付の前を通り抜け中に入った。


「あれ? 裕介さん! 今日はどうしたんですか?」

「マカロン君にちょっと頼みがあってな。どんな調子?」

 事務所では、テクノ君自らが応対してくれる。

「お陰様で、従業員も五百人に増えまして、今までのラインを止めずに、バイク、サファイア樹脂、転送箱の三工場も順調です」

「そうか、転送箱が決まって良かったな」


「一気に五千セット注文が来ましたからね。バイクも既に三百台出荷待ちで、春が来たら売り出そうと思ってます。でも、千五百の注文が来てますので、全く注文に追いついてはいないんですけどね」

「ちょっと待って下さい。マカロンが来ると思いますから」

 秘書の女性が呼びに行ってくれてるようだ。あのテクノ君が、今や秘書持ちのベイグル一の企業の社長だものな。亜湖さんに見せてやりたい。


「ミリム君、店を出すらしいな」

 テクノ社長は、ミリムともサーズカルでの顔見知りだ。

「はい! 師匠ご夫妻のご采配で釣具とメガネの店を持たせていただく事になりました。今後共、ご指導ご鞭撻をよろしくお願いします」

 ミリムは、深々と頭を下げた。

「良く出来ました!」

 裕介はセフィアと笑いながら、ミリムの頭をガシガシと撫でた。


「ユースケさんが来てるって?」

 やって来たのは、レア君、チーズ君、マカロン君、ショコラ君のアコセイサクショの重役陣だ。

「えぇ~! ミリム君? 君って女の子だったの?」

 マカロン君がミリムを紹介されて驚く。ジト目で睨むミリム。

「ほーら、俺だけじゃなかったろう!」

 裕介が、ここぞとばかりにマカロンとタッグを組む。

「いや、おどろいた、あのミリム君がこんな綺麗な女性だったなんて」

 そうおだてられ満更でもないミリム。先ほど、テクノ社長に挨拶した挨拶と寸分違わず、四人に言って頭を下げた。昨夜、裕介とセフィアの指導で何度も練習していたが、それ以上のことはまだ無理だ。


「そういう事で、マカロン君にミリムセイコウの技術顧問をお願いしたいと思って、連れてきたんだ」

「えぇ~! 俺もやりますよ!」

「いや、俺の方が!」

「いやいやいや、そこはやっぱり俺でしょう!」

 他の三人も技術顧問を名乗り出て、ミリムはモテモテだ。ミリムが生まれて初めての体験でかなり困っている様子に、セフィアがクスッと笑う。


「ミリムは亜湖さんの釣りの伝承者でもあるから、そういうことなら、みんなでよろしく頼む。新素材を使った釣具の開発、製作、販売がミリムセイコウの主目的なんだが、それだけではまだまだベイグルでは受け入れ難いと思う、そこで池宮さんがずっと掛けている、眼鏡も営業品目に入れて当面は二本立てでやって行こうとしているんだ」

「そうですか。ユースケさんが、ミリムセイコウって店の全面バックアップをしてるって噂は聞いてましたけど、なるほど、そういう事でしたか!」


「これは、当面うちの主力商品になると思います、偏光サングラスです。どうぞ、お好きな型のものをお受け取りください」

「えっ?! くれるの? でも俺たち目は悪くないぞ」

 そう聞いて、社長のテクノ君まで興味津々で分け入ってきた。

「掛けて、外を見ていただければ違いが分かります」


「おぉ!」

 窓から外を見たショコラ君が最初に気づいた。他の四人に説明している。

「おぉ!」

 気づいた五人は、裕介達をほったらかしで表に出て行った。

 裕介は、彼らはサーズカルの頃から変わらないなぁ~と、懐かしんでいた。


「すげぇ~! これはセフィアさんの魔法なのか?」

「全然、眩しくないじゃん!」

 わいのわいの言いながら、五人が戻ってきた。

「これは、師匠が発見した偏光サングラスです。釣りの水面の照り返し、雪面の輝き、夏場のギラつきを軽減して目を守ります」

「これは、バイクの運転にいいわぁ~! セットで売れないかな?」

「セット販売ですか?!」


「それ、いいなぁ~! アコセイサクショとミリムセイコウのコラボか!」

「コラボって?」

 セフィアが質問する。

「コラボレーションの略でな、共同事業とかいう意味だ。最初からバイクとセット販売なら、これからバイクに乗る人達はみんなこのサングラスを掛けることになる。すごい宣伝効果だぞ。しかも今のバイクの注文を受けている千五百は、もう売れたようなもんだ」

「ひょぇ~!」

 それを聞いたミリムが驚く。


「偏光サングラスって長いですから、いいネーミングを考えませんか?」

 マカロン君がそう提案する。

「そうだな… ミリムレンズなんてどうだ?」

「いいんじゃないか? 可愛くて、不思議な感じがする。それで行こう!」

 五人に勝手に、商品の名前まで決められてしまった。

「じゃぁ、ミリムレンズで商標登録しとくよ。いいかなミリム?」

「はひ」


 これ以降、この世界の偏光サングラスの全てが『ミリムレンズ』と呼ばれ親しまれるようになった。

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