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73 グレッグ孤児院

「ママただいま~!」

 子供たちは、ラブスを紐で縛ってぶら下げて帰ると、孤児院に駆け込んだ。

 声は遠くて聞こえないが、友達が来てるよと伝えているようだ、やがて子供に連れられたアリサが出てきた。アリサは、裕介とセフィアを見ると、驚いたように口を手で覆い、懐かしそうに二人に歩み寄る。

「カワハラ大佐! ご結婚なされたそうですね。おめでとうございます」

 傍まで来ると、アリサは笑顔でそう言いながら裕介とセフィアを代わり替わりに見る。


「ありがとう! やっとゲルトまで出てこれたんだ」

「アミル君がラブスを釣ったんだって、大喜びで戻って来たのでびっくりしたのですが、カワハラ大尉に教えてもらったのですね」

「おいおい、もう退役したから、大尉はやめてくれ、ユウスケでいいよ」

「ユウスケさん… なんだか呼びなれないですね。ささ、どうぞ中へ、セフィアさんもどうぞ」


「土産といっちゃなんだが、これ、さっき釣ったラブスだ」

 裕介は、ラブスが七匹入ったバケツをバケツごと渡す。

「こんなに沢山? いいんですか?」

「うん、俺たちはいつでも釣れるから」

「じゃぁ、子供たちや父と一緒ですが、夕食を食べて行ってください」

「えっ? 悪いよ~」


「えへへ、昔、石橋工事の撤収の時に約束しましたよね。今度、ご馳走するって」

「まだ、覚えてたのか!」

「セフィアさんもどうぞ、ご結婚お祝いパーティーをしましょう」

「いいのですか?」

「三十人も三十二人も同じですから!」


「へっ? そんなに子供たちがいるのか?」

「はい! 父も子供が沢山いると喜んで、最近は少しだけ歩けるようになったんですよ!」

「そうなのか、良かったなぁ~! 親孝行したな!」

「はい!」


 玄関から、もう一人懐かしい人が顔を出した。

「ベッ! ベラトリクスさん!」

「誰かと思ったら、ユースケ大佐じゃないのぉ~! お久しぶりね」

「ベラさんが孤児院を手伝ってくれてるんですよ」

「へぇ~! 意外な人が出てきたなぁ~!」


「あーら、ドリスちゃんもいるわよぉ~」

「ドリスちゃんって? まさか、あの熊殺しのドリス大尉?」

「そうよぉ、彼ね、女も殺すのよ」

「ベラさん…! ベラさんとドリスさん、結婚したんです」

「そうなのか?! そりゃ、おめでとう!」

「さぁさ、中へどうぞ」


 中にでは、あのドリスが小さい赤ん坊のおむつを替えていた。

「おぉ~! カワハラ大佐じゃないか!」

「また、こまめなことを…! 意外すぎますやん!」

「これは、ワシとベラの娘なんじゃ! ほーら、土の勇者さんですよぉ~!」

「イヤイヤイヤ! イクメンパパじゃないですかぁ~」


「そっちの人は、大佐の奥さんか? 綺麗な人だなぁ~ 子供はまだか?」

「まだ、結婚して半年ちょっとですからね。セフィアです」

「初めまして、可愛いお嬢さんですね」

「そうでちゅよ~! ユマちゃんも、お姉ちゃんに負けないくらい美人になるんでちゅよ~」

 裕介は、ちょっと頭が痛くなってきた。勝負しろとか言っていた、あの熊殺しがこんなに子煩悩だったとは、人は分からないものだ。


 車椅子に乗ってニコニコしているのが、アリサの父だそうで、元ミステイクのカワハラですと裕介が挨拶をすると、不自由な足でわざわざ立って、娘がお世話になりありがとうございました、と丁重に挨拶をした。ミステイクの話しは、アリサから良く聞いていたそうだ。


「ご馳走さま!」

 子供たちは、それぞれの食器をクリーンナップして片付け始める。子供でも十分魔法が使えるんだなと裕介は感心した。

「ねぇ、アリサママ、またラブスを釣りに行ってもいい?」

 そう聞いているのは、ラブスを釣ったアミル君だ。

「泳ぎが出来る、大きな子だけならいいけど、今日みたいに、泳げない小さい子と一緒はダメよ。水路に落ちたらアミル君では助けられないでしょ?」

「はーい!」


「いいのか? 釣りを教えておいてなんだが、水辺は危険だぞ」

「大丈夫ですよ。子供達は危険を十分理解して遊んでいますから、田舎みたいに魔物は出ませんしね」

「そういうものかな。じゃぁ、俺が釣り道具をやろう」

「ほんと!」

 アミル君と大きな子が数人駆けよってくる。裕介は、三号のサファイヤラインのスプールを一巻きと、錘、鉤を袋のまま渡した。

「見てろよ、これが打掛結びって釣り針の結び方だ」

 鉤を結んで見せる。子供達は集まって、ワイワイ言いながら鉤結びを始めた。


「大変だろ? またどうして孤児院なんか始めたんだ?」

 大人ばかりになり、お茶を飲みながら裕介がアリサに聞く。

「えぇ、最初は三人だったんです。両親が革命で犠牲になったらしくて、身寄りもなく物乞いをしていたのでウチに連れてきたんです。父も家がにぎやかになったと喜んで。そのうち政府でも正式に孤児の保護施設が出来たのですが、大規模なのでその集団生活に馴染めない子もいて、エクレア国務長官の依頼でそういう子達を受け入れていたら、こうなっちゃいました」


「エクレアさんのお願いだったのか」

「ええ、特別魔力の強い子とか、頭のいい子とか特殊な子がそうなるみたいです」

「それでみんな、魔法が達者なんだな」

「そうです。普通の子はあの年では、まだクリーンナップとか出来ません。ここの子は、子供同士で教えあって魔力も向上しているみたいです」


「育ち盛りというやつなのかな?」

「たぶん、そうです。あの年齢の子供は魔力も使えば使うほど、驚くほど育つんです」

 セフィアがそう教えてくれる。


「でも、これ以上増えると政府の援助はありますが、正直、人手不足で苦しいので、エクレア国務長官に相談しているところです。子供たちの教育も必要でしょうし」

「海野さんは、小学校を作って、義務教育を導入しようとしてるって、チラっと聞いたけど、ここの特殊な子は、きっとそこにも馴染めないんだろうな」

「そうなんです。教師を雇えばいいんでしょうけど、なかなか、その費用を出してもらえません」


「そうだ! 子供たちにスライムを育てさせてみないか?」

「はぁ?」

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