72 ラブス
場所を事務所に移した。
「これが、セフィアが開発した、魔動モーターだ。魔力で回転する魔法陣が焼き付けてあるんだ。これを使った別の商品が、このファンヒーターなんだけどな。マカロン君、魔力を流してみて」
マカロン君がファンヒーターに魔力を流す。羽根が回り始め、暖かい風が送られる。
「すごい! 暖かい風がきます!」
どれどれ? とそれぞれが、自分で魔力を通して体感してみる。
「魔動モーターは、俺のテストでは人力の四十倍、簡単に言えば馬十頭分の動力を一般の人にでも出すことが出来る。これが、そのテストデータだ」
裕介は、ポンとテーブルに魔動モーターの試験データを記したファイルを置いた。
「但し、一般の魔力量のテストがまだなので、継続時間が分からない。バイクが長時間一般の人でも乗れるようなら、馬が必要なくなるし、四輪の馬車の開発も可能だ。そこを研究してもらいたい、それとバイクの場合は、もう少し頑丈なシャーシとチェーンが必要になるな」
「なるほど、継続時間がネックですね」
「セフィアの作った魔力電池って手もあるが、満タン充電には男十人でも無理らしい」
一同は、黒髪の淫魔女の通り名を思いだした。感の良いものは、そういう事だったのかと、理解した。
「次に、サファイヤ樹脂だ。これが原料のペレット、こっちが成形品のボトルだ」
「おぉ、これは軽くて丈夫で、落としても割れそうにないですね。しかもネジ式のキャップ付き」
「熱を加えると、俺の土魔法みたいに柔らかくなるんだ、それを型取りして冷やして固めたものだ。だから色んなものが作れるぞ、しかも軽くて錆びない」
これには、マカロン君が食い付いた。以前、鋼で機械部品を標準化した時に彼は魔力切れを起こすまで金型作りに精を出した。いうなれば得意分野なのだ。
「魔法はいらないんですか?」
「うん、不要だけれど、サファイヤスライムと言うスライムの飼育が必要になる」
「そのスライムの出す粘液なんですね?」
「そう、接着剤にもなるぞ、だから作った成形品をくっ付けることも可能だ」
「最後に、今、商業ギルドで検討中だけれど、転送箱だ。対になったアイテムボックスだと思ってくれ、片方に品物を入れて蓋を閉め魔力を掛けると、もう一つの箱に転送される仕組みだ。これで、ギルド同士を結んで、ギルドから各村を結び、世界規模の郵便システムを作ろうとしてるんだ」
「世界規模ですか?」
「うん、決まると、世界の村の数だけ注文が来ることになるな」
「話が、画期的で大きすぎて、ついていけませんよ」
「なっ! 大儲けできそうだろ?」
「はい!」
「俺たちは一年、このゲルトにいるから、一緒に研究開発させてくれ」
「喜んで!」
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ゲルトの名物料理がある。
茹でたラブスというエビなのだそうだが、ゲルト周辺の水路にいるそうだ。
これを網で獲って、茹でたものにマヨネーズのようなソースをかけて食べると美味しいらしい。エビならザリガニや手長エビのように釣れるのでは? と思ったので裕介とセフィアは、出かけた。
釣ると言っても、イセエビくらいある大きさなので、ベイトタックルで狙うことにする。
「これは、日本のイセエビというエビを釣る釣り仕掛けなんだけどな。鉤が三つ付いてる上と中の鉤にこのミョミョルを刺すんだ」
フンフンとセフィアは聞いている。研究者だからなのか、特にミョミョルを気持ち悪いとか思わないらしい。
「日本では、味噌団子ってものを使うんだけど、ここには味噌なんてないから、ミョミョルをすり潰した物とパン粉、ふかしたジャガイモを混ぜて団子にしてみた。これでエビが寄ってきてくれればいいんだけどな。こういうのを撒き餌って言うんだ」
「なんだか、美味しそうですね」
「そう思っても食べないでくれ、二度とキスしたくなくなる」
「思っただけです!」
セフィアと裕介は、決めたポイントに撒き餌を投入して三十分ほど、イチャイチャして過ごした。
「そろそろ、寄ってきたかな?」
「あなた! ラブスが沢山集まってきてますよ!」
「よしよし、じゃあ釣るぞ~! グンと引くまで待つんだぞ」
水路際の大きな石の上に、置き竿にして竿先を見る。
竿先がクンクン、クンクンと揺れる。
「あなた、ラブスが食べてます!」
「まだだぞ」
竿先がクンと大きく下がった!
「よし! 今だ!」
「重い! 重いですよ!」
「ゆっくり巻いて!」
「釣れた~! 岸に降ろして!」
「いやぁ~! 立派なエビというか、これは完全にロブスターだな。美味そう! どんどん釣ろう!」
五匹目が釣れたところで、子供たちが見にきた。
「お兄ちゃんたち、何してるの?」
「ラブス釣りだ」
「釣り?」
「そう、こうやって竿に糸を付けてな、その先に鍼をつけてミョミョルを刺すんだ。するとラブスが釣れる! ほら!」
またラブスが釣れた。
「へぇ~、凄いね!」
「この棒でも釣れる?」
別の子が、木の枝を拾って持ってきた。
「うん、そうだな。長くて先も細いし、なんとか延べ竿になるかな? 釣ってみるか?」
「うん」
「じゃぁ、仕掛けを作ってやろう。じゃぁ、ミョミョルを取ってこいよ」
「俺、ミョミョルの宝庫を知ってるんだぜ!」
「そうか、じゃぁ、釣れたら俺にも教えてくれ」
「釣れたらね!」
しばらくして、子供たちは何処かで拾った壺に一杯ミョミョルを取って戻ってきた。
「ほら、仕掛けを付けてやったぞ。俺たちみたいに、ここで竿を置いて待ってみな」
セフィアは一番小さい女の子を膝に乗せて俺たちを見ている。
少しすると、竿先にアタリが出始めた。
「まだだ、待てよ! もうちょっと… 今だ! そーっと竿を立てろ!」
「重い!」
「そーっとだぞ!」
「釣れた~!」
「良かったなぁ~」
「うん、アリサママが喜ぶぞ~!」
「アリサママって? ひょっとして、お前ら、グレッグ孤児院の子なのか?」
「うん、そうだよ!」
「そうかぁ~、兄ちゃんは、アリサママの友達なんだ」
「そうなの? じゃぁ、ママに会いにくる?」
「そうするか。セフィア、いいかな?」
「はい、私も会いたいです」
「じゃぁ、釣ったラブスを持って行こう!」




