7 オーク
柿沼さんが部屋にやってきた。
「明日でこの訓練所も最後だからな、パーティやろう。裕介明日は魔物を狩りに行くぞ」
パーティと聞いてぱあっと気持ちが明るくなる。俺たちもパーティが出来る身分になったんだ。
「魔物を狩って、どうするんですか?」
「決まってるじゃないか、食うんだよ」
これだから脳筋は困るよ。
チッチッチ、獣イコール食べ物だと思っている。
「お前まさか、『魔物なんてユースケ食べれな〜い』なんて思っているんじゃ無いだろうな?」
「そりゃそうですよ。だって魔物ですよ」
「バカかお前。今まで二年間、この訓練所で食って来た肉は何の肉だと思ってたんだ?」
「まさか…」
「魔物に決まってるだろうが、この訓練所の資金で高けえ肉を毎日食えるかよ。冒険者ギルドに持ち込まれた、カス肉に決まってるじゃねぇか。ジビエだよジビエ」
知りたくなかった事実を知らされた。魔物の肉って大丈夫なのか?いや、二年食って何も問題ないけど…
「裕介、早くこい」
柿沼さんに呼ばれる。うー、足が重い、気が重い。
「俺は何度か、先輩兵士たちと狩りに来てんだ、解体の仕方も教えてやっからよ」
いや、だから気が重い。しかもそのあと、食うんだから。
「なんでだよ、お前も魚釣って裁いて腸取って食ったことあるだろ、何が違うんだ?」
「確かに、柿沼さんの言うことはもっともだけど、豚どころか鳥ですら殺したことがないし、二足で歩いて来るって言うじゃないですか?いきなりハードル高くないっすか?」
「なんでも、怖いのは最初だけだって、慣れっからよ。早く来い」
兵舎からは随分離れた森の近くまでやってきた。
「俺が追い立てるから、お前がバッサリやってくれ」
「へっ?・・・お、俺がやるんですかい?」
「お前、なんだか語尾が江戸の町人みたいになってるぞ。ワハハ、じゃぁ、頼んだぞ」
じゃぁって、そんな乱暴な。剣は兵舎の砥ぎ場で良く砥いではきたけど。
「うーりゃりゃりゃ~!!」
「待ったなしですかい!」
俺は剣を抜いた。身の丈二メートルはある、牙の生えたでっかい豚がこん棒を振りかぶって、二足でこっちに走ってくる。
「こんなの、無理無理!ヒー!」
俺は魔力で、オークの走って来る前の土を液状に変えた。ズボッ!!オークが落とし穴に落ちたところで土を硬化させる。
オークはヘソの上あたりまで土に埋まり、ブヒブヒと怒り狂ってこん棒を振るっている。土からは出てこれない。
俺はオークの手の回らない後ろ側に回り込み、剣を振るった。ゴキッ!剣はオークの首の骨に当たって止まったが、頸動脈を切ったようで、血がブシャーっと噴水のように吹き上がる。
やがてオークは静かになって動かなくなった。
「おー!やったな。血抜きも完璧じゃねぇか。でも何で埋めたんだ?掘り起こすの大変だぞ?」
「無茶言わないでください。あんな凄いのをけしかけて。」
「まぁ、怒るなって、お前の弱点を強化してやろうって思ったんだから。お前相手を殺すのをためらうだろ?これからは、本当の殺し合いになる。一瞬の躊躇いが自分の命取りになるぞ。そこは良く肝に命じとけよ、しかも、これからは人間相手だかんな。もう、ここは日本じゃなんだぞ」
「はい・・・」
「じゃ、掘り起こすか。手伝え。」
「いや、それはたぶん大丈夫ですよ。」
俺の土魔法は、かける範囲と、深さと性状の具合をイメージで行う。
表面だけ性状を変えたい場合はやさしく、フェザータッチで、今回のようにオークを生き埋めにする場合は、大きな手でごっそりと土を掘る感じで、決まった固体のみを変化させる場合はそれを持つイメージで行う。
今のところ個体のみに有効で、元々、液状や気体の物は固体に変えたりすることは難しいが、自分で液体に変えたものは、元のイメージがあるので戻すことが出来る。気体に変えてしまうと、霧散するので元に戻すのは無理だ。
俺は再び魔法で、オークの周りを今度は大きめに液状化する。すると、オークの身体はぐらりと揺れ自然に液体状の土の上に浮いてきた。オークよりも土の方が比重が重いのだから当然と言えば当然だ。土を固体化して、オークが沈んでいる部分の土だけ気化させる。後はクリーンナップ魔法で飛び散った血やオークの死体を綺麗にした。
ちなみに、この世界の魔力を持つ人が使える、小さな火や水、クリーンナップなどの生活魔法は治癒魔法と同様に俺でも使える。だからこの世界には、水道もガスも箒すら普及していない。
「お前、便利な奴だなぁ~」
柿沼さんは、これでも褒めているつもりらしい。
柿沼さんにナイフを渡され、言われる通りにオークを解体して食肉処理をしていく。やることは魚と同じだと思ったが、腸や血の量と匂いに何度か吐きそうになりながらも、なんとか肉の塊に出来た。
じゃぁ、後の残骸はまとめて俺が焼いてしまうからよ。安全な開けた場所にまとめると、柿沼さんの高火力の火魔法で一気に焼いてしまった。肉は大きな葉っぱに包んで、背負ってきた籠に入れて持ち帰る。と言っても全部で重さ五十キロくらいあるので、二人でだけど。