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61 魔動モーター

「えっ?!」

 セフィアは役立たずの皿回しの皿から祐介に視線を移した。

「まぁ、どのくらいのトルクが出るかが問題だがな」

「トルクって?」

「物を回転させる力のことさ。トルクが大きければ、例えば、これを馬車の車輪に付けたら馬なしで馬車を動かすことが出来るだろ?」

「あっ?! あー、そうですね!! あなたはやっぱり凄いです!!」


「前の世界には、そういう機械が一杯あったんだ。自動車も電車も、船もみんな電気やガソリンで動くモーターやエンジンで動いた」

「自動車? エンジン? 初めて聞きます」

「そうだな、エンジンはガソリンっていう燃える水があってな、それを容器の中で爆発させるんだ、その力で物を回転させる力を得るんだ。そのエンジンで動く馬車が自動車だ」

「電車は、電気と言う魔力みたいなエネルギーで、この皿みたいに車輪を回転させて、レールの上を走るんだ。以前話したフレーブまで六時間で行ける乗り物のことだ。電気で回転する機械がモーターだ」

「すごい! そんなものが作れるかも知れないのですか?」


「ああ、ひょっとすると、魔動モーターが作れるかも知れないぞ!」

「魔動モーターですか?」

 裕介はワクワクしていた。ひょっとすると、バイクや車も作れるかも知れないのだ。

 しかも、燃料要らずの無公害だ。成功すれば、絹以上にステラが飛びついてくるだろう。

「あぁ、明日から簡単な装置を作って実験してトルクを測定してみよう」

「先ずは、自転車がバイクになるかからだな」

「自転車って?」

「待てよ、今、出すからな」


 アイテムボックスから、裕介は自転車を取り出した。以前にサーズカルで作ったものではなく、アコセイサクショがゲルト郊外で立ち上がった時に、残された亜湖ファミリーが市販品の一号機を作って、裕介にプレゼントしてくれたものだった。

「これは! 最近ゲルトで人気のサイクルですね! あれでしたか!」

「そうだ、俺も製作に携わったんだ。その一号機をもらったんだ」

「そうだったのですか? あなたは、本当に凄いです! 尊敬します!」

「いや、前の世界のコピーだから、俺が考えたわけじゃないぞ」


 裕介は、そのペダルを外し前側のスプロケットを取り外す。床にスプロケットを置いた。

「セフィア、これにさっきの魔法陣を焼き付けてくれ!」

「はい!」

 セフィアは嬉しそうに、杖を使って魔法陣を書いた。

「これを、元通りに取りつけるだろ。ペダルは外して」

 裕介は、自転車のスタンドを立て、スプロケットに魔力を注ぐ。

 スプロケットが回転しチェーンが回転を伝え自転車の後輪が回転し始めた。


「これは、結構いけそうだぞ! 乗ってみよう!」

 回転を止め、家の外に、自転車(バイク)を持ち出す。

 セフィアはトキメキが止まらなかった。自分が初めてモノ作りに参加しているのだ。自分の書いた魔法陣がみんなに使われるかも知れないのだ。

 研究だけで、これまで何も実績を出せなかった彼女がこの夫により、一日のうちで魔法マイスターとなり、今度は用を成さなかった研究成果が、画期的な新技術に生まれ変わろうとしている。これは、夢をかなえてもらった上に、彼女の研究成果を生かすことの出来る、研究者冥利に尽きるパートナーを得たということだった。元々メロメロの夫に彼女は益々、魅了されるのだった。


 裕介が、バイクに跨り、スプロケットに魔力を通す。

 ブン!

 後輪が地面を蹴り、土ぼこりを上げて走り始めた。結構なスピードが出ている。回転数にすれば一秒間に二回転程度で自分でペダルをこぐのと大差はないのだが、乗っているだけなのでスピード感がある。それでも裕介は、足を乗せるステップがないので不安定ではあるが、器用にブレーキと魔力を操作してバイクを操った。

 裕介は、畑の端まで走って行くとUターンして戻ってきた。

「いいんじゃないか! うん、すごくいいぞ!」

 裕介は、バイクに跨ったまま、セフィアに興奮して話しかける。


「セフィアも乗ってみろ!」

「私は無理ですよ。サイクルにも乗ったことがありませんから」

「そうか、じゃぁ、ちょっと待ってて」

 裕介はアイテムボックスから、鋼のインゴッドを取り出すと、その場で器用に加工して、前と後ろにステップを付けた。後ろの荷台を補強して丈夫にする。家から座布団を持って来て、荷台に乗せるとセフィアに言った。

「俺が運転するから、セフィアはここに座って」

「大丈夫でしょうか?」

「大丈夫さ」


 セフィアは、おっかなびっくり、荷台に座り裕介に後ろから抱き付いた。

「振り落ちないよう、しっかり抱き付いていろよ! じゃ、いくぞ!」

 かなり振動は激しい。元々自転車として作られたものだから、シャーシも華奢でギシギシと音がする。魔道モーターはエンジン音なんかしないので、静かに回転し動力を伝えるスプロケットとチェーンの音だけが、シャーっと聞こえてくる。

 

 セフィアは大好きな夫の背中に抱き付き、バイクの走る風で黒髪を靡かせていた。

 畑で農作業をする村人たちが珍しい乗り物に乗る、若夫婦を見て笑いながら手を振る。

 セフィアも嬉しそうに手を振り返すのだった。

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