60 魔法マエストロ
「魔法マエストロって?」
「魔法使いの先生の称号です」
「やっぱり、俺の勇者と似たようなものか?」
「そうですね。魔法の専門家です」
「じゃぁ、自分の魔力に目覚めたってことかな?」
「さぁ?どうでしょう。だと嬉しいですが」
セフィアは、裕介の魔力がもらえなくなるのは、それはそれでちょっと寂しい、などと思っていた。
「セフィアって、どういう魔法が得意なんだ?」
「どういうと言われても、私は魔法陣を使って新しい魔法を作り出すことと、魔法陣の鑑定が専門で、魔力が無かったので、魔法を使ったこと自体が初めてなんです、しいて言えば、魔法陣を何かに焼き付ける魔法ならば得意ですよ」
そう言いながら、セフィアはコンロの石板に魔力をかけ、作っておいたスープを温めはじめた。石の箱に魔法陣を転写し、オーブンでパンを焼き始める。
「自分で魔法を使えるのって、本当に便利ですね。嬉しくって作りすぎちゃいそうです」
「そうだ、昼から教会の修復を手伝ってあげてよ。重いものを上に揚げるのが大変なんだ。この間のエレベーターがあれば便利だろ?」
「いいですよ。あなたに人前で魔力を頂かなくても出来ると思いますし」
「やっぱり、魔力が無いことは隠しておきたかったんだな」
「いえ、そうではなく、あれは男女の営みっていうニュアンスがあるので、人前ではちょっと」
「あっ、そうかそうだったな。わりい! じゃ、飯食って行こう!」
教会に行くと、みんなもう作業を始めていた。
「おう! 午後からは奥さんを連れて来たのか! いいなぁ、新婚さんは!」
村の男達に屋根の上から、冷やかされ、セフィアと裕介は教会の屋根を見上げる。小さな教会だが、急勾配の屋根も石作りで、滑車を使った籠で煉瓦を持ち上げていた。
「あの穴の開いた場所に、その煉瓦を埋め込めればいいんですか?」
「そうだ。あの高さまで持って上げるのが大変なんだ」
セフィアは、前に出て杖を指揮者のタクトように振った。
煉瓦が次々と浮かび上がり、勝手に屋根の修復部分を埋めていく。
「これは!」
屋根の上の男たちも、まわりで作業をしていた村人も手を止め、まるで意思を持った煉瓦が自分で勝手に積みあがっていくような様子を傍観していた。
「ユウスケ君の、土魔法にも驚いたが、奥さんのも魔法なのか? 凄いな! こんなの見たことねぇや」
「いや、俺も初めてみた!」
あっという間に屋根の修復は終わってしまった。
「じゃぁ、俺が上に上がって土魔法で固めてくるよ」
「あなた、気をつけてくださいね」
「おう!」
裕介は、足場をヒョイヒョイと登っていくと、屋根の補修部分の接合部を固化して固め降りてきた。
「セフィアちゃん、あんた魔法使いだったんだねぇ~!」
「はい、今日から」
セフィアは村のおばさんに嬉しそうに答える。
「今日からって、昨日まではそうじゃ無かったって言い草じゃないか」
「そうなんです。昨日までは魔力のない、魔導士でした」
「突然、魔法使いになったのかい? そんな話し始めて聞いたよ、どうやって?」
「ええと… それは… 秘密です!」
セフィアは、自分が魔法マエストロの文様が現れたときの様子を思い出し、顔を赤らめておばさんから目を離した。
「ははーん! あんたの亭主には、そんな力もあるんだね! 私も魔力を分けて欲しいよ!」
「ダッ! ダメです!」
「アハハハ! 冗談だよ! 取りゃしないさ」
「向こうが相手にしないよ!」
別のおばさんの突っ込みが入る。
「うるさいね! いい人と一緒になれて良かったね。じゃ、この教会で結婚式を挙げな! 私が立ち合い人をしてあげるよ」
「はい!」
セフィアは満面の笑みで頷いた。
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「すごかったなぁ~ セフィア!」
「出来るかどうか分からなかったのですが、やってみたら上手く出来ましたね。やっぱり魔法はいいですね」
今日は良いこと尽くめで、セフィアは頗るご機嫌である。鼻歌交じりで、家事をこなしている。家事一つ一つにも憧れていた魔法が使えるのだから、楽しくて仕方がない。
「この間のエレベーターだと上下運動程度だったんだけど、今日の煉瓦は自由に飛んだものな」
「魔法陣と魔法は違うんです。この世界では魔法陣を書いて魔法を使う人を魔導士、書かずにそのまま魔法を使える人を魔法使いって言うのですよ。ライトやコンロは、魔法陣の書かれた石を使いますが、クリーンナップや治癒は魔法です」
「そうなんだ。俺は一緒かと思っていたよ」
「魔法陣が書かれた道具が魔道具です。決まった動作しか出来ませんが、魔力消費が魔法に比べると格段に少ないんです。だから魔力が少ない一般の人でも使うことが出来ます」
「それでも、セフィアの作る魔道具は一般の人では動かせないんだろ?」
「はぁ~… そうなんです。昔の人は今よりもきっと魔力が強かったんでしょうね。過去の魔道具を作っても、あなたのように魔力が特別強い人でないと、今の人では使えないんです」
「今と昔では、魔素の濃さでも違ったのかな?」
「どうでしょうね? 私が書いた魔法陣で一般の人でも動かせたのは、これくらいです」
そういうと、セフィアはテーブルの上の皿に、魔法陣を焼き付けた。
皿は、クルクルと回転しはじめた。
「でも、こんなもの何の役にも立たないと、みんなに笑われました」
セフィアは残念そうに言う。
確かに、皿回しの魔法など曲芸くらいにしか使えないかも知れないな…
「いや? 待てよ!」
回る皿を見つめていた裕介に閃きが降りてきた。
「セフィア! ひょっとすると、また産業革新の起こる発明かも知れないぞ!」
「えっ?!」




