6 亜湖ノート
亜湖さんに新しい剣を見せると驚いていた。
「亜鉛溶融メッキかぁ〜考えたな」
「高校で習いましたからね。そう言えば亜湖さんも工業系の大学だったですよね」
「そうなんだ。まぁ、機械部品の基礎から送風機やら、ポンプやら工場で使われている産業機械の原理や設計を習ってたな」
「そうだったんですね。俺は出来たら釣具メーカーに就職して竿やらリールを作ってみたいって思ってたんですよ」
「おや、そうだったのか。奇遇だな、俺もこの世界に来てからいつかは釣り歩いてやろうと、ノートに釣具のアイデアを書いてたんだ」
亜湖さんは、ベッドの下から大事そうに紙束を糸で綴ったノートを出して来た。この世界では、不思議な紙が普及している。先の硬い動物のツノや骨で作ったペンで書くと書いた部分が黒く変色する。消したい部分には魔力をかけて擦れば消えるそうだ。
なんでも魔素を吸って育つ豆があるそうで、それを茹でるとお湯の表面に湯葉のように紙状のものが出来るらしい。それを乾燥させたものがこの紙らしいが、カーボン紙のように重ねて書くと複写が出来るのだが、ノートの様には下敷きを挟まないと使えないので、基本は一枚づつ売ってるらしい。量産出来るのか結構安い。
亜湖さんの出してきたノートには、リールや竿の設計図状のもの。それに元の世界でのセメントやガラス、ゴム、石鹸などの作り方まで書いてあった。
亜湖さんはスケベだけど、博識だったんだ。ただのスケベじゃなかったんだ。
俺は亜湖さんを見直してずっと捲っていったら、最後の方は女の子の裸の漫画だった。
「わっわっわ、そこは俺の袋綴じページだから見ちゃダメだ。」
亜湖さんに慌てて取り上げられた。せっかく見直したのに、俺はジト目で亜湖さんを見る。やっぱりただのスケベだった、見直して損したよ。
「まぁ、そのあれだ。俺たちの魔力でサッサと戦争を終わらせて、釣りでこの世界を放浪しようぜ」
少し前までは果たせない夢物語だと笑っていたが、勇者の文様が現れて、柿沼さんの火魔法、池宮さんの風魔法みたいな派手な攻撃魔法と亜湖さんの隠密魔法、そして俺の裏方魔法があれば本当に戦争を終わらせることが出来そうな気がしてきた。
異世界で流離の怪魚ハンターか、憧れるなぁ〜
絶望の世界だったが、文様のお陰でいつの間にか俺も再び夢が見れるようになっていた。
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ミルト親方にもらったお金で皮の鎧と帽子を買ってきた。バイトの時に、鋼のインゴッドと銅と亜鉛も少し分けてもらってきている。
さて、今日は何を作るかというと、鎧とヘルメットだ。
先ず魔法を使って、作業台の小さな定盤を作った。鋼粘土で五センチくらいの長さで角を丸くし穴を両端に開けた長方形の鉄板を作る。これを硬化させ石を粘土化して押し付け型を作った。
この型で次々と同じ鉄板を量産する。
次に銅で鋲を作って、同じ要領で鉄板の倍の数だけ作った。
余った鋼を粘土化してハンマーと千枚通しを作る。
皮の鎧に千枚通しで穴を開け鉄板を内側に鋲で取り付け、定盤の上でハンマーで叩いてカシメる。ジーンズのリベットの要領で皮の鎧の内側に、小さな鉄板をずらりと並べた。
海野さんに見せると、それは、古くからあるブリガンディンという鎧だと感心された。思い付きで作ったので実際にあったものだと知って嬉しい。
後は似たようなリベット止めの要領でエビの殻のように、肩当と手首から肘の間のアームサポーターようなものを作り、最後にヘルメットに取り掛かる。
街で籠工房を見つけたので、藤の蔦のようなもので注文して編んでもらった。特注品だけど銅貨五枚だったので安い。因みにベイグルは鉄貨百枚で銅貨、銅貨十枚で銀貨、銀貨百枚で金貨なんだそうで、ミルト親方はたった五日で金貨一枚分の銀貨をくれたってことになる。
親方の打った剣は銀貨五十から八十枚で売れるそうだから、百本作れば金貨五十枚にはなる。
親方とヨハンなら半月もあれば俺が元を作った百本の剣を仕上げてしまうだろうから、材料費を除いても儲けは随分あるのだろう。顔色を変えて俺に有無を言わせずバイトに来いと言ったはずだ。
話を戻そう、籠の部分的にリング状の補強のように付けてもらった部分で固定するように、籠の外側を定盤とハンマーにした鋼を粘土にリサイクルして鉄板で覆っていく。目の部分は四角い穴を開け縦格子を取り付けた。縁の部分は皮を巻きこんで硬化。
フルフェイスのヘルメットだ。
なんとなく、世紀末拳豪伝説のショットガンを持った悪者みたいだけど、棘が付いてないから。
籠の内側に皮の帽子を縫い付け、亜鉛を液状化させて刷毛で表側を塗装し硬化させたら、亜鉛メッキ製の眩しいくらいピカピカの鉄兜の完成だ。
みんなに、やりすぎだと笑われたが目くらましでいいと思ったんだけどなぁ~