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55 新婚初夜

 セフィアとその夜から俺の家で一緒に住むことになった。結婚式はいつでも良いらしい。つまり、今夜は実質上の新婚初夜だ。

 二人で俺の釣って来たブルーバックを分け合って食べる。


「セフィア」

「はい」

「本当に俺で良いのか?」

「はい」

「あなたは、私で良いのですか?」

「正直なところ、今日の今日でまだ戸惑っている。陥れられた感は否めない。でも、白状すると、第一印象でキミは俺の好みにピッタリだったんだ」


 それを聞いて、セフィアの顔がパァッと明るくなる。

 笑顔は、ドキドキして直視出来なくなるほど可愛い。しかも、二人になると随分としおらしい。ひょっとして、ツンデレと言うヤツなのか?

「でも、いきなり過ぎてまだ気持ちが追いついて来ない。お互いを知り合う事から始めないか?」

「そうですね。じゃあ、私から」


「うふふ、本当はね、あなたが知らずに私に魔力を通したことは分かってました」

「じゃぁ、なぜ?」

「そう言わないと、相手にしてくれないでしょう? 普通は魔力を通そうとしても、嫌なら女は跳ねのけるんです。肉親以外に魔力は受け渡しするものではないのですよ」

「でも、あの時は革命に負けるわけにはいかなかったんです。負けたら私たちエスパール家はホフマンに粛清されてしまっていたでしょう。だから、私はあの時覚悟を決めたのです。あなたならいいと」


「でも、あの後、祝賀会であってもキミは何も言わなかった」

「あなたには、グレッグ中佐がいたじゃないですか。二人がそういう仲なら、私はこのまま一生独身で通そうと思っていました。でも、あなた方は、離れ離れに暮らし始めました」

「アリサとは、妹以上、恋人未満って関係だから、結局、彼女はたった一人残った肉親のお父さんと暮らすことを選んだし、俺は、やりたいことがあるから、一緒には暮らせない」

「ですから、私は父を説得して、あなたの元へ行こうと、あなたを探し始めました。ステラさんに教えてもらって、やっと見つけたのです」

「そうか、意外に一途なんだな」


「意外は余計です。私が黒髪の淫魔女と呼ばれている事は知っていますか?」

「すまん。イヤ、初耳だ」

 俺は、セフィアとアリサの為に嘘をついた。

「私は、生まれつき魔力が無いのです。この世界では、魔力が無いと同情や差別の対象になります」

「みんなが出来る事が出来ないのですから、飲水を作る事さえ人に頼らなくてはなりません」

「そうなんだ? 確かにそう言う世界だもんな」


「なので、私は、必死に勉強しました。幸い私には魔力が無い代わりに、瞬間記憶というのでしょうか、見たものをそのまま記憶出来る能力がありました」

「すごいな」

 将棋の棋士みたいに、空を飛ぶ鳥を見て記憶した映像で数が数えれるような、一種の天才なんだ。


「それで、私は、片っ端から読んだ本を記憶しました。私の頭の中には、ベイグル一千年の歴史の中で生み出された魔法陣が全部入っています」

「千年分がか!」


 へにゃぁっとセフィアが笑う。

「それが認められて王宮魔導士になったのですが、私の魔方陣や魔道具には魔力が沢山必要なんです。あの通信装置ですら、普通の人の魔力では使えない道具なのですから。でも、魔力の無い王宮魔導士などいませんから、魔力の無い事を隠す必要がありました」

「それで、夜に魔力の余っていそうな男達を呼んで、魔方陣に魔力を貯めていたのです」

 そりゃ、十七、八歳のセフィアに頼まれて、嫌という男はいないだろう。きっと十人必要だと言われれば十人をかき集めて行ったんだろうな。


「男達には、新しい魔方陣のテストだと言っておいたので、自分達の魔力が枯渇して魔方陣が起動出来なかったなどと、彼らは恥ずかしくて言えません」

「彼らは適当に嘘を交えて説明したのでしょう。それが黒髪の淫魔女の言われです」

「結局、あなたが召喚された時には、私は、もうクビになっていました。なので、私に魔力を通した男性はあなたが初めてですし、その… 肉体関係も… 未だ経験がありません…」

 最後は、恥ずかしそうに下を向いて顔を赤らめモジモジしながら、そう言った。


 誰だ? 俺の嫁を黒髪の淫魔女なんて言った奴は! 俺の心は、キュンキュンしまくりだぜ!

「そんな事情や思いがあったのか。じゃ、今度は俺の話しを聞いてくれ」


「俺は、別の世界の日本と言う国で十七歳まで生まれ育った。今のベイグルよりも、もっともっと自由で便利な世界だ。フレーブの首都とゲルトを六時間もあれば行き来できるし、空を飛ぶ乗り物を使えばもっと早い」

「二カ月の距離を六時間ですか?!」

「うん、そんな便利な世界から、突然、家族と引き離されこの世界に来た」

「ええ、聞いてます」

「もう日本には二度と戻れないだろう。最初は恨んだし、死のうかとも思ったよ」


「そんな俺を支えてくれたのが、死んだ亜湖さんを含むミステイクの仲間だった」

「まっ、俺はあんまり頭は良くないから、海野さんに付いて行っただけだけど、亜湖さんが死んで、戦争が終わって、なんだか何もかもが嫌になってしまったんだ」

「それで、また気力が湧いてくるまで、静かにゆっくりと過ごしたいと思って、ここに来た」


「そうだったのですね」

「ここに来て、気持ちの整理も着き、ようやく次の一歩が踏み出せそうなところまでは、回復したんだ」

「俺は、この世界を釣り歩くって、亜湖さんと約束したんだ。彼の夢でもあった」

「もし、キミがそれに付いて来てくれるのなら、俺のやった事の責任を取らせて欲しい」


「付いて… 来い… と言ってくれませんか?」

「いいのか? では、付いて来い!」

「はい」


 俺はセフィアを抱きしめた。そっと彼女の薄い唇に自分の唇を重ねる。舌先が触れ合った瞬間、まるで熱いものに触れた時の様に互いの舌が離れ、やがて長い間探し求め合っていたお互いを、認識し合う様に絡み合う。


 その夜、俺たちは夫婦になった。

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