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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第1章 ミステイク
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5 職人ミルト

 二年ぶりの休みなのに、何故か鍛冶屋で働くことになってしまった。まぁ、自分の魔法の使い方に興味もあったし、試したいこともあるので行くことにする。

「おはようございます。」

「おう!来たか。昨日は名乗らなかったが、俺はミルト、こいつはヨハンだ」

「俺のほうもすみません。ユウスケ・カワハラと言います」

「ユースケだな。そこに古道具屋で買ってきた錆びちゃいない鋼の剣と、昨日の柔らかい鉄が置いてある。それを昨日と同じ方法でどんどん作れ」

「芯の柔らかい鉄が一緒になっちゃいませんか?」

「大丈夫だ、フレーブの戦利品の剣は全部が鋼だから心配ない」


 そうだったんだ。じゃぁ、ベイグルの武器の方が優秀じゃないか。と俺は思ったが、折れにくい剣はミルトだけが作っているものだったらしい。簡単に教えてくれたけどな、お互いの秘密の駆け引きのようなものらしい。後になって知ったが、このミルトは秘密を聞いたら相当の自分の秘密を教え、それで相手との信頼関係を量っているらしい。面倒くさい性格のようだ。

 昨日の要領で、どんどん作っていく。午前中だけで二十本の剣の型抜きが終わった。


 昼飯は親方のおごりで、親方は昼飯から酒を飲んでいる。

「ユースケ、お前も飲むか?」

「いや、俺はまだ未成年だし、昼間からはいいですよ」

「ガハハハ、兵士の癖に頼りないやつだな」

「それより、隅にあった木箱に入っていたのは亜鉛ですかね?」

 実は昨日見つけて、海野さんに亜鉛という単語を教えてもらってきた。


「そうだ、あまり使い道がないから置いたまんまだ」

「じゃ、試しに少し貰ってもいいですか?」

「いいぞ、何に使うんだ?」

「剣の鞘をメッキしてみようと思います」

「メッキって、なんだ?まぁ、やってみろ」


 鍛冶屋に戻って、俺は軟鉄を使って剣の鞘を作っている。薄くパイ生地のように伸ばした鉄の粘土を切って、昨日の剣を皮屋で買った皮でゆったりと包みそれごと粘土の鉄に挟み鞘の形に包んだ。皮が鞘の中に残るよう所々を鞘で皮を挟む。表周りだから角を丸くし紐をかける穴や少しデザインを、木切れでレリーフして剣を抜いて鞘を硬化した後、もう一度剣を収めてみると思った通りぴったりだった。鞘自体も薄いので、それほど重くはない。皮を挟んであるので、中で剣が錆びる心配もないだろう。

 さてメッキ。表で花崗岩を拾ってきて魔法を使い、木切れで鞘の収まる程度の溝を掘って硬化させ。そこに亜鉛を半分ほど入れ鞘に蓋をして、魔力で亜鉛を液体化させて鞘を沈める。

 親方とヨハンは、手を止めてみている。

「なんてこった、液状化も出来るのか。こりゃほんとに面白い能力だな」

 鞘を引っ張り上げ、余分な液を流し落として亜鉛を硬化させる。

 銀ピカの剣の鞘が出来上がった。溶融亜鉛メッキという方法だが、トタン板を作る方法だ。


「これは驚いた。こんな方法があったとは」

「塗装よりも長持ちして鉄が錆びにくく表面は硬くなるそうですよ。比較的低い温度で溶けるのでたぶん、親方でも鍋で溶かして可能だと思いますよ」

「よく知ってるな。使ってもいいのか?」

「もちろん。俺も学校で習いましたから。」

「軍隊でか?」

「いや、前の世界の学校ですよ」

「そうか、異世界の技か。二年前、間違って召喚された連中がいたと聞いたが、お前さんのことだったのか」

「そうです。ひどい話ですよ。勝手に召喚して汚物扱いですからね」


 親方は体を近づけて声を小さくして

「本当に、気の毒だったな。今の王は狂っているからな。どうしようもない」

 俺は、この世界に来て初めて、俺たちの境遇に同情してくれている人に出会って、涙が出そうになった。

「いや、すごいことを教えてもらった。これからは俺のことはミルトと呼んでくれ」

--------------

こうして俺は、五日で百本の剣の素を作り、ミルトは続けて打ち続けるそうで、最後に最初に作った剣と鞘、給料だと銀貨百枚をくれた。銀貨百枚と言えば金貨一枚相当で、この世界では、一年は暮らせる額だから驚いた。

 それよりも俺は、この世界で初めて俺たちの境遇の理解者と知り合えたことがうれしかった。

誤字報告をありがとうございます。

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