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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第1章 ミステイク
44/325

44 釣り

 そうだ、せっかくここにいるんだから釣りをしよう! そう思い立ったら、居ても立っても居られなくなった。

「アリサ、このあたりにもガイゴっているかな?」

「それなら、ルルドの南の山に一杯いましたよ。どうなさるんです?」

「釣り糸を作ろうと思ってね」

「釣り糸ですか?」


 いるいる、ガイゴの幼虫が沢山いた。大きいな。その数匹を捕まえた。

「お腹を開いて、絹糸線を取り出し、薄い酢に漬ける。って亜湖さんが言ってたな」

 開いてピンで板に止め、針でそーっとその内臓を取り出す。これだな。

「酢に漬けるのは、長くても十分程度って… こんなものかな?」

 線を引き延ばすと、三メートルくらいの透明な糸ができた。

「おぉ~! 釣り糸らしい! まるでナイロン糸じゃないか!」

 ガイゴが大きいので結構長い。引っ張ってみると、強度は十分で伸びもある。


「よく、そんな気持ちの悪いことが出来ますね」

 アリサがゲンナリとした顔で、喜んでいる俺の顔と解剖されて貼り付けになった幼虫を見比べている。

「あっちの世界では、こんなに苦労しなくても釣り具屋で買えたんだけどね。テグスって言うんだ」

 釣り鉤作りはお手のもので、焼き入れの入ったカン付きマス鉤を十本ほど作った。

 ガイゴを探して山に入った時に、釣り竿になりそうな真っ直ぐな竹のような伸び方をした木を取って来ていたので、それを釣り竿にすることにする。アリサの分と二セット作った。


 後は、ミミズだ。

「アリサ、ミミズってわかる? 畑の土を耕す、細長い生き物」

「それは、たぶんミョミョルですね。気持ち悪いですよ。噛みますし」

「えっ? この世界のミミズは噛むのか? ひょっとして毒とかある?」

「いえ、噛んでも歯もないですし、毒もないですが、なんだか、ゾッゾ~! ってなります」

「じゃぁ、大丈夫だ」

 二人でミョミョルを獲って、厳冬期作戦で作った橋のたもとに行った。


「見ててよ、こうやって釣るんだ」

 竿の先に、テグスを結び、途中に小さな鳥の羽根を絹糸で縛る。鉤を結び、ミョミョルを通して、川の流れを上流から下流に向けて流す。

「……」

 二人で並んで釣り始める。

「なかなか釣れませんね」

「うん」


 そりゃそうだ、川の流れを変え、滝を崩し、湖だった場所を浅瀬に変えて橋まで作ったのだ。

 戦争だとは言え、俺は川に対してなんてひどいことをしたんだろう? これじゃ、いくら魚が芳醇な川だと言っても釣れなくて当たり前じゃないか…

 俺は、贖罪の思いも含め、無言で、そのまま釣り続けた。


 突然、釣り糸が不自然な動きをする。

「えっ?!」

 ギューン! っと竿が引き込まれる。魚だ、間違いなく魚だ! 魚は戻って来ていたんだ!

「つっ、釣れたんですか?!」

「うん、釣れた! 魚がいたな!」

 アリサに聞かれ、俺は緊張を隠せずに答える。

 急づくりの竿とテグスの弾性を生かして、水を切って魚を寄せてくる。手でそっと掴み取り込んだ。

「綺麗~!」


 なんと言う魚だろうか? 二十五センチくらいだが、マスの様な魚体、頭は丸く、黒縁の朱色の点が体中に散りばめられ、側線よりも上はオレンジで腹は白い。尾びれもオレンジだ。

 艶やかな光を煌めかせ、生命が漲るようにパクパクと口で息をして、時々鰓を膨らませる。


 俺はしばらく、言葉を失い、その魚に見とれていた。

「カワハラ大佐、どうして泣いているんですか?」

 アリサに聞かれ、自分が泣いていたことに気づく。

 涙を流すことは、この世界に来てずっと忘れていた。そうだ、もう五年になる。

 俺は五年も泣くことを忘れていたのか…

 殺されそうになっても、人を殺しても、俺は泣かなかった。そういう感情を押し殺していたんだと、今更、気づく。


「なんでだろうな?」

 涙を拭うが、次々出てきて止まらない。

「仕方ありません! 私の膝を貸してあげます。誰もいませんから、思いっきり泣いてください」

「えっ?」

「ほら!」

 アリサの膝に顔を強引に押し付けられる。魚は手を離れ飛び跳ねて水に戻っていった。


 俺はアリサの膝で、髪をなでられながら、春の光を受けて優しく煌めき、とめどなく流れる川の流れを見ていた。

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