43 自転車
翌年の春まで、俺たちは壊されたルルドの復興に携わっていた。たった千五百人で何が出来るのかと当初は思われたが、そこはミステイク建設だ。あの橋を架けたメンバーに加え、リンゲの工事に携わった二百人も応援にきてくれ、同じ直すのなら、街ごと作りかえちまえとばかりに、要塞都市としての面影もないほど綺麗な街になった。
ルルドとサーズカルで一万三千人は収容できるので、千五百人では閑古鳥が鳴くような有様だが。
こうしている間に、俺は亜湖ファミリーと一緒に自転車を作っていた。彼らが、ネジやギア、ベアリング、バネまで考えてくれたので、何か簡単な機械を作ってみようということになったのだ。
それぞれに、設計担当を決め、レア君はペダル部分、チーズ君がリムとハンドル、マカロン君がチェーンとスプロケット、俺は、後輪の中心にあるハブの図面を描いている。亜湖さんにチューブとタイヤをお願いした。なんだかグループ研究みたいで楽しい。ママチャリなのだが、それでも、後輪のハブにラチェットやブレーキを組み込むのには苦労した。
ベアリングの玉や、チェーンのリンク、スプロケットなどは、焼き入れをしといた方がいいとのことで、兵隊の中から鍛冶屋の経験のある人を見つけてきて教わった。ショコラ君というのだが、当人も面白いと思ったらしく、そのまま亜湖ファミリーに入ってしまった。
ハブが出来たので、早速リムとスポークで繋げ、空回ししてみる。チーっという、懐かしいリールのドラグ音みたいなのが鳴り響いて軽快に回転した。ブレーキのカムを押すと、キュッと止まる。
「いいんじゃない!」
よくある三角形を二つ組み合わせたようなシャーシを、河原に生えていた葦に巻き付けて作った鉄パイプで作り、チーズ君のハンドルと前後輪のリムに亜湖さんのチューブとタイヤをはめ込み取り付ける。
少し手直ししながらも、レア君のペダルとマカロン君のスプロケットとチェーンも取り付けた。
あとは荷台、ワイヤーは細く押し出した針金を撚って作り、亜湖さんが作ってくれたゴムのチューブに通してブレーキにつなぐ。俺の作ったサドルベースに亜湖さんがゴムカバーを付けてくれ自転車の一号機が完成。
空気入れを忘れていたので、みんなで手押しポンプとゴムチューブを作り、タイヤのチューブに空気を入れる。亜湖さんは凄い、ちゃんとムシゴムも付けてるもんな。これで本当の完成!
「これで完成ですか? こんな二輪で走れるんですかね?」
と、作った亜湖ファミリーは懸念している。
「馬と一緒でちょっと練習は必要だよ。じゃ、俺が乗ってみるね」
なにやら面白そうなものが出来たと、兵たちも集まってくる。
「ちょっと、その先は開けてくれ」
取り囲まれたら、自転車を発進出来ない。
道が開いたので、俺は自転車をこぎ始めた。久しぶりだけど、ちゃんと乗れた。
ルルドの真新しい石畳の上を、颯爽と自転車で進む。
「ひゃっほー!」
何人かの兵が、子供のように俺の自転車に並走して走る。
Uターンして戻って来て、みんなの前で止まる。
「快適ですよ! 亜湖さんも乗ってみて!」
「いや、俺はいいよ。 レア、乗ってみな」
「えぇ~! 何でです? もしかして、自転車に乗れないとか?!」
「うるさい!」
まさかの図星だったらしい。へぇ~、亜湖さんって自転車に乗れない人だったんだ。
レア君が乗ってみるが、なかなか上手くできない。
「なんだか、面白そうなことをしてますね」
アリサがやって来た。
「アリサも乗ってみろよ!」
「いやだ、怖いですよ!」
「大丈夫だよ、ダメだと思ったら、ここを握って足を付けばいいから」
兵たちも、「グレッグ中佐! グレッグ中佐!」と囃し立てる。
「じゃ、怖いから絶対離さないでくださいよ」
と荷台を押す俺に念を押して、自転車に跨った。
「きゃー! 怖い怖い怖い!」
などと、騒ぎながら、一発で乗りこなした。どういう運動神経してるんだ?
先まで行ったと思ったら曲がり方が分からなかったのか、ブレーキをかけ、器用に前輪を持ち上げて後輪だけでUターンして戻ってきた。
「グレッグ中佐、かっこいい~!!」
アリサファンが黄色い声を上げる。
「あー、怖かった。でも、面白~い!」
とアリサは笑っている。
「アリサ~! お前、絶対バカにしてるだろ!」
亜湖さんが、おどろおどろした顔でアリサに言う。
後日、ステラに自転車を作ったことがバレてまた怒られた。なんで、そう直ぐに怒るんだか。
自転車は、カワハラギケン、アコセイサクショの共同で登録されることになった。
ステラは、量産して馬を持てない人の為に、世界中に売りまくると息巻いている。




