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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第1章 ミステイク
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4 鍛冶屋

 「二ヶ月後から貴様らも実戦に配属される、先輩兵士に臆することなく、勇猛に戦ってこい」

 新兵訓練所の教官が最後の訓示を述べた。これで、訓練終了ということらしい。準備金を与えられ、後は配属になる各連隊にそれぞれで二か月以内に移動すれば良いことになっている。このあたりは割といい加減なようだが、何があっても期日までに到着しないと敵前逃亡とみなされて死刑になるから行かないわけにはいかない。とは言うものの、召喚者五人にとってはこの世界に来て初めて自由に過ごせる期間が与えられた。配属になる第一連隊の駐屯地は、首都ゲルトから東へ第二都市のブルケンを経由して最前線のラビル川河畔のサーズカルにあり、徒歩で一月ばかりの場所だということだ。


「裕介、兎に角、街に行ってみようぜ」

 亜湖さんが、そう言う。

「ですね。俺も新しい武器や防具を作りたいので、鍛冶屋で鋼の塊を手に入れたいし、どんな武器があるのか見てみたい」


「先にみんなに言っておきたい。出発はこれより半月後の四月十五日としたい。それまでは、思い思いに過ごしてくれていい」

 海野さんが、出発の期日を告げる。それまでは、今まで通りこの兵舎で寝泊まり出来るので宿の心配は無い。兵舎は、この機会に一度里帰りする者もいるので、閑散としていた。

 門の守衛に階級章を見せて外出の旨を伝え、亜湖さんと二人で街に向かう。この二年で、軍隊用語中心だが、この世界の言語でなんとか会話は出来るようにはなった。


 兵舎は王都の予備兵を兼ねて街の外だがそれほど離れていない場所にある。だから街までは徒歩でも三十分ほどだ。街の門番にも同じ階級章を見せて城壁の中に入った。

 王都だから流石に大きな街で、店や露店も多く賑わっている。長く禁欲生活だったので、亜湖さんも俺も道行く女性を見れば誰もが綺麗に見える。


 店を構えた武器屋に入ってみる。綺麗な剣や槍が並んでいるが、どれもびっくりするほど高い。

「これは俺たちの準備金では手が出ないな。まぁ、見るだけならタダだ」

 隣の防具屋も似たようなものだった。武器や防具は自分で作るつもりなので、元々まともに買う気はないのだが良い参考にはなった。


 亜湖さんは、ムフフな店に行くという。誘われたが断って俺は一人で鍛冶屋に行ってみる。

 ドアーフというのか、髭もじゃの背の低い気難しそうな親方が弟子らしき人と鋼を打っていた。

「すみません、鋼が欲しいんですけど」

「なんだ、同業者か?」

 その親父が怖い目でジロリと睨む。

「いや、ただの兵士ですけど、自分で細工してみたくって」

「どうやってやるつもりか知らねぇが、そりゃ出来ねぇ相談だな」

「どうしてですか?」

「鉄は素人が扱えるようなものじゃねぇんだ、帰った帰った」

「どうしてもですか?」

「俺は、しつこいのは嫌いだ。とっとと帰れ!」


「じゃ、仕方ない。一度これを見てくれませんか。ただし見たものは軍事機密なので内緒でお願いします」

 本当は、個人的な秘密なのだが、そういうことにしておいた。

 俺は、そばに置いてあった耐火煉瓦を拾って魔力を注ぎ、粘土状にして自分の剣を抜いて押し当て型を取った。

「お前、それ魔法なのか?」

 親方は驚いている。

「そうです。ちょっとそこの鋼の塊をお借りしてもいいですか?元通りにして返しますので」

 親方は、驚きながらも俺の魔法と強い調子に負けて、弟子に「貸してやれ」と目で合図している。

 俺は鋼のインゴッドを受け取り、先ほどの煉瓦にまた魔力をかけて元通りに硬化させた後、次は鋼を粘土化して煉瓦の型に押し当て剣を作り出してみせた。


「こうやって作ろうと思ってます」

「こりゃぁ、驚いた。面白いが、残念だがそれではだめだ。貸してみろ」

 親方は俺の作った剣を受け取って、鋼を打っていた土台に思いっきり叩きつけた。あろうことか、剣はポッキリと折れてしまった。

「な、脆いだろう。鋼だけで剣を作っても堅いが脆いんだ。しかも打ちつけて鍛えていないから、弱いんだ」

「本当だ。知りませんでした」

「俺はもう七十年、こうして毎日、鉄を叩いているからな。しかしお前のその魔法は面白い。実に興味深い。次は俺の言う通りにやってみろ」


 職人の探求心に火が付いたのか、親方は材料の中から別の鉄を持ってきた。

「これは炭の量の少ない柔らかい鉄だ。これを芯にしてさっきのをもう一度作ってみろ」

 俺は、その鉄を薄く定規のような細長い板にして硬化させ、さっきの型に折れた剣を粘土状にして型はめして芯をのせ、その上からまた鋼を被せて型でサンドイッチにした。たい焼きを作るのと同じ要領だ。硬化させて親方に渡す。

「よし、俺が打ってる間にこれと同じものを五つ作れ」

 親方はそういうと、たい焼き剣を受け取り火に入れて弟子と二人で打ち始めた。


 カンカンカン……

 終始無言でのその作業の中、一時間ほどかかったろうか俺は言われた五本を作り終えた。

「ふん!見てろ!」

 親方は打ち終わった剣を先ほどと同じ様に土台に叩きつけた。キーン……

「ほら、折れなかっただろう。よし、明日からお前はうちに来い。」

「いや、俺は半月後にはサーズカルに向けて出発しなきゃいけないんです」

「五日後には開放してやる。剣が欲しいんだろ?」

「……わかりました。」

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