31 タルボガン
ハリタ村から要請が来た。タルボガンが大繁殖して困っているらしい。
タルボガンというのは、地リスの魔物だ。地球にはタルバガンというモンゴルマーモセットがいるが、あれの大きいのといったほうが分かりやすいかも知れない。プレーリードッグのような生き物だ。地球のモンゴルマーモセットはペストの感染源として知られ、食べる民族もいるがあまり食べないほうが良い生き物らしい。この世界のタルボガンは血が臭くて食えないのだとか。
但し、タルボガンはでかい。人とほとんど変わらない。なので、ベイグルでは毛皮を丸ごと使い、冬の防寒着と言えば、このタルボガンの着ぐるみみたいなのを着てみんなうろついている。氷点下たぶん四十度にも耐える、高機能な着ぐるみなのだ。
地面に穴を掘って家族で暮らすので、これが繁殖した土地は穴だらけで、下手をすると陥没して落ちるため、近寄りづらくなる。しかも、大きいから熊並みに危険だ。
普通は、こういった依頼は冒険者ギルドが取り扱うのだが、ハリタ村は第二都市ブルケンよりもサーズカルの方が近いので、軍にお願いにくる。
軍の側も、領民を守るという名目上、敵兵も魔物も同じという見解で要望に応えているそうだ。今回は、目下のところ作戦予定のないミステイクに白羽の矢が立った。狩ったタルボガンは自由にして良いそうだ。
全員、馬に乗って出発する。
「防寒着が作れるな!」
亜湖さんが言うと
「この冬に作戦がある予定ですから、丁度良かったですよ。全員分狩りましょう!」
珍しく海野さんが乗り気だ。げっ…、厳冬期に作戦があるのか。こりゃ是非ともタルボガンを狩って着ぐるみ作らなくちゃ。
タルボガンは弓で仕留めるのが普通で、すばしっこくって、状況が悪くなると直ぐに巣穴に潜り込んでしまうので、ホフク前進で近づいて一発で仕留める必要があり、素人には難しい狩りなんだそうだ。
「こっちには、土の勇者がいるからな。穴に潜り込んでも平気だ。楽勝だな」
「確かに、俺向きの依頼ですよね」
「巣穴を液状化して固化したら、窒息して全滅だもんな。もう一度、液状化すれば浮いて来る」
「柿沼さん、先に作戦を言っちゃダメじゃないですか!」
「助かります、あっちの丘に二十頭ほど住みついて困っているんです」
ハリタ村の村長が出迎えてくれた。
「ちゃっちゃと退治して来ますんで、その丘で解体させてもらっていいですかね? 毛皮を取ったら綺麗に焼いておきますので」
柿沼さんが言う。着ぐるみを着る気満々だ。退治は俺がやるんだろうけど。解体は教えてもらわないと出来ない。
丘に近づくと、いるいるでかいのが二本脚で立ってこっちを覗っている。俺たちが丘に取りつくと、大急ぎで巣穴に入ってしまった。
「気をつけろよ、陥没するかも知れないからな。落ちたら襲われるぞ」
「じゃぁ、ここから魔法をかけます」
丘の中腹で俺は丘の頂上全体をすり鉢状に砂化した。
ザー!!
タルボガンの巣ごと砂が崩れて落ちていく。
「キー、キキッ!!」
タルボガンが砂の中でもがいている。さながら蟻地獄だ。蟻地獄の中央にタルボガンが流され集まってもがいている。固化! タルボガンの集まった中央だけ石にまで固化した。周りの砂が流れて、固められたタルボガンを埋め尽くす。これで、しばらく待てば全滅するだろ。
「鮮やかなもんだ」
みんなが、感心する。砂と、固化した部分を液状化すると、討伐したタルボガンが、丘の上に出来た土のカルデラ湖の水面に浮いてきた。二十二頭。固化して土に戻す。
「討伐完了です。みんな自分のサイズに合ったタルボガンを選んで解体してください」
みんな丁度いいサイズが行きわたったようだ。五頭余ったので、村に進呈することにして、解体作業が始まった。
「着ぐるみというからには、ツナギにしたほうがいいのかな?」
「その辺は、砦に持ち帰って専門家に頼むから、とりあえずお腹から開いて、毛皮にして持ち帰るんだ」
柿沼さんが、手本見せる。
「先ず、血抜きからだな、ここを切って」
「うー、臭せぇ!」
「あれ? この匂いどっかで嗅いだことがある匂いだな…」
「そういえば…」「俺も」
「あっ! これ、ゴム長の匂いだ」
「そうだ!」
「裕介、ちょっとプールを作ってくれ、ゴムが出来るかも知れん」
と亜湖さんが思いつく。ゴムって、木の樹液から作るんだよな。動物の血液って、血糊くらいにはなるかも知れないけど。俺は石でプールを作って、みんなは、タルボガンの血をそこに捨てた。
それぞれが、自分のタルボガンの剥ぎ取り作業が終わり、カルデラ湖跡で、柿沼さんの魔法で焼却作業が終わった。
「うー、流石に気持ち悪かった…」
アリサも青い顔をしているが、自分の毛皮が手に入ったようだ。
亜湖ファミリーが集まって、血のプールから沈殿して固まった塊を取り出して、クリーンナップをかけている。ゴムになるのだろうか?




