25 視察
翌朝、またグレッグ中尉に乗せてもらい、七頭の馬で移動する。
丘を越え、昨日作った川の先端まで来ると、そこから先は水浸しだった、しかも水位はまだまだ上がってきている。水攻めだからな、トンネル掘らずとも秋にはパストゥールは陥落するのではないか?と思われたが、あの国王のことだ、命令を無視すれば何をされるかわかったもんじゃない。渇水期になれば、水位も下がるだろうからな。
新湿原になった川の河口を通り、旧湿原と山地の間を通ってトンネル工事予定地についたのは、夕方だった。確かに、建設中のベイグル側の湿原道路が見える。その手前の俺たちの工事予定地は、海野さんの言ったとおり一キロほどだ。
「で、トンネルを掘るのは、この山か… 険しい~!」
中国の山水画のような岩山がそびえ立っている。この山に道路を付ける気だったのか?
「どうやって、工事をするかだよなぁ~」
「ここから、真北だね。トンネルだから方向を間違えると大変なことになる」
「どのくらいの大きさのトンネルにしますか?」
「そうだね、幅五メートルもあれば、湿地帯の道路の材料も含めて十分じゃないかな」
「こんなもんか?」
柿沼さんが火魔法で半円径に岩肌をトンネルの形に焦がす。
「そうだね」
「トンネルの容積が三万二千立法メートルだから、約十万トンの岩を一か月で運ぶとなると、一日三千三百トン」
「途方もない数字っすねぇ~、それを二百人で運ぶんっすか? 無理っしょ?!」
「そうだね、運ぶのは無理だよね。でも液状にして、下水管で繋いだら運ぶ必要はないでしょう?」
「あぁ、なるほど。海野さんも私たちも、それが専門でしたよね…」
池宮さんが苦笑いをする。
「僕の計算では直径四百ミリの土管で繋げれば、一日八時間で、三千五百立方メートルの液状岩石が流れて行くから、十日くらいで排出出来るハズです。」
「なるほど」
「幸いパストゥールはここより二十メートルくらい高台にあるので、トンネルも勾配が必要だから、流れるハズなんだよ。特に土管にする必要もなくて、裕介君にU字溝のような溝を作ってもらって、流れない時は、池宮さんの風魔法で押してもらうと大丈夫なハズだ」
「ええ、良い案だと思います」
「二百人は、流れ込んだ土砂を湿地に拡散しないように、土留めの矢板を設置してもらう人たちだよ。裕介君は先端の液状化と末端の固体化をしてもらわないといけないから、忙しいけどね」
「なんだか、俺が一番暇そうだな~」
柿沼さんが物足りなさそうに言う。
「だから、柿沼さん一人に警備をお願いするんじゃないですか」
「わしらも微力ながら、加勢するぞ!」
エクレア曹長と他の二人が、うんうんと頷く。
「海野少佐に言われると、十年はかかりそうな工事を本当に一か月で出来そうな気がしてきました」
「いや、僕は出来ないことは、出来ないって言うよ」
グレッグ中尉に海野さんが笑って答える。
「裕介君、戻ったらこんな形の矢板を、数千枚作って欲しいんだ、材料は連隊長に用意してもらうから」
「わかりました。忙しいっすね」
俺たちはリンゲに戻る途中水量の減ったラビル川本流に簡易の石橋を作り、馬でリンゲに戻った。
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「なに? 温泉? ヒルトン大尉が入っただと? ぬぉぉ~! 千載一遇のチャンスを! 何故、俺一人ここで、望遠鏡を作っていたぁ~!!」
亜湖さんは、真剣に悔しそうだ。亜湖さんがいないから、勧めたんだけどね。
望遠鏡作りは順調だそうで、もう試作品が幾つか出来たらしい。早いなぁ~。
亜湖さんに矢板について相談する。
「そうだな、一般的には端っこを引っ掛けてこうやって並べて行くんだ、幅四十センチ、長さ二メートル、厚さは十ミリくらいかな、普通は鉄で作るんだが、そんなに鉄がないだろうから、石でいいんじゃないか?」
「両サイドで二千メートルとして五千個ですか?」
「施工しながらだろうから、日数はあるけど、大分頑張れよ」
「他人事ですね…」
「お前にはグレッグ中尉がいるじゃないか!」
「そんなんじゃ、ありません!」
丈夫そうな花崗岩が集められ俺の矢板の製作が始まった。
金型を作り、大きな槽を作って花崗岩を溶かす。セットした金型に借りた兵たちが流しいれ、終わると俺が魔力で固める。金型を外し、兵たちが工事現場に運んで海野さんたちが引いた糸の位置に設置していく。二百人どころか、千人以上集まってくれたのではないだろうか、見たこともない勇者たちの施工法が話題を呼んで、リンゲの非番の兵がこぞって手伝いに来てくれた。
その分、俺は忙しかったが、結局、俺がやるのは、溶かすのと固める作業だけで、後は全部兵たちがやってくれたので、金型を沢山複製し作業は急ピッチで進んだ。
「先生! お願いします」
「うむ」
何処の陶芸家だ? と思うような作業風景だ。
十日を予定していた、土留め枠の設置は五日で完了した。




