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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第1章 ミステイク
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20 捕虜交換

 多分、ベイグルには蝉は、ほとんどいない。この世界で三回目の夏だというのに、蝉の声は聞いたことがない。でもカゲロウは沢山いて、かがり火に飛び込んで焼け死んでいることを思うと、このラビル川も豊かな川なんだろう。戦争さえなければ亜湖さんと二人で釣りを楽しんでいただろう。

 今、釣りをしたら何処から弓が飛んでくるかわからない。


 レコンド歴 1660年8月6日、ここの夏至の日は地球よりも遅い、でもこの世界はどこでもお祭りなんだそうで、豚を焼いて食べるそうだ。サーズカルは最前線の砦基地だから、お祭りはないが、食事には豚のポアレだと池宮さんが言った、豚の焼いたものが出てきた。


 フレーブも夏至はお祭りなんだろう。今日は午後から捕虜交換なんだそうだ。密輸組織に拉致されたおねーさん達も、やっとフレーブに帰れるようだ。

 我が事の様に嬉しい。いかんいかん。つい日本の家族のことを思い出してしまう。詮無いことだから、もう、思い出さないって決めたのに。


 春は雪解け水が多くて、ラビル川はかなりの水嵩になる。なので最前線とは言うものの戦闘がある季節は、春先の川の水量が少ない季節と、今の夏から厳冬期までの季節なのらしい。戦争と言っても、もう二十年もやってるから馴れ合いのようなものもあって、この世界の戦争は比較的のんびりしていると言う印象を受ける。


 今日の捕虜交換を済ませてからが、本格的な戦闘期になるそうだ。

 この季節のルルドへは、馬車で十分渡れる。互いにホロを被せていない馬車に捕虜を載せ、川の中央で馬車ごと交換するらしい。双方の兵隊は、ズラリと河岸に並び臨戦体制で交換を見守る。


 こちらは拉致被害者もいるので、馬車三台、フレーブ側は二台だった。数が合わない分は金銭トレードでも行うのだろうか?などと想像する。

 馬車馬を付け替え、引き渡される捕虜の馬車がこちら岸に戻って来た。フレーブ側も無事に着いたようだ。


 戻って来た捕虜の中には、フレーブで悪事を働いて国外追放になった、ベーグル人の盗賊もいた。こう言う輩は、裁判の上、大抵は死刑になるらしい。

 死刑の方法は簡単で、後手に縛り、サーズカルの北壁の上に連れて上がって、首にロープを掛け壁の外に突き落とすらしい。縛り首と言うヤツだ。ある程度、時間を置いたらロープを切り、落ちた死体を北の墓所に埋葬するらしい。北の墓所は、水捌けが悪くジメジメして気持ちの悪いところなんだそうだ。


 反対に戦死者は、南の丘の墓所に埋葬する。南北墓所共サーズカルから連なる護岸防壁の西側にあるので、川が氾濫しても浸かることはないらしい。


 他には、捕虜で戻って来た兵士でドリス大尉と言う人がいた。元は少佐だったが今回の失態で格下げされたらしい。

 ドリス大尉は、陽気な豪傑で、そんな事はおくびにもかけず、食堂で他の将校達を相手にフレーブの土産話しに花が咲いていた。


「ワシは肉を食わせろ! とフレーブの奴らに言ってやったんだ。すると、自分で狩って来いって言うわけだ。だったら、剣を貸せと言ったらよ、捕虜に剣は持たせられない。と言う」

「そりゃ、そうでしょう。剣を持たせたら、捕虜では無くなる」


「仕方なく山に入って、素手で熊を殴り殺して引きずって帰って来たらよ。その日から特別房行きだ。ワシは何もしてないのによ」

「いや、それは破壊力ありすぎでしょ。そりゃ、ビビりますよ」


 素手で熊を殴り殺した、とか凄い話しをしてる。空手かなんかの達人ですか? 俺もビビったので、こっそり部屋に戻ろうとしていたら、見つかった。


「おー!  そこのあんた! 勇者なんだってな。一度、ワシと手合わせしてくれよ!」

「ダメですよ。いくらドリス大尉でも、勇者には敵わないって」

 ドリス大尉を囲んでいた将校達が、口々にそう諌める。


「嫌ですよ。熊を殴り殺すような人と手合わせしたら、命がいくらあっても足りません」

「そんな事を言うなよ。密輸組織三百人を生け捕りにしたそうじゃないか」

「噂に尾ひれがついて、めっちゃ数が増えてるじゃないですか!」

「カッカッカ! 武勇伝と言うのはそう言うものだ」


「なんで、ドリス大尉みたいな豪傑が敵の捕虜になったんですか?」

「恥ずかしい話しだが、ワシは泳げなくての。川の深みにハマって溺れそうになり、何とか這い上がったと思ったら、フレーブの兵隊に囲まれていた」

「殺され無くって良かったですね」

「わしゃ、水には負けたが、フレーブには負けてはおらん」


 そうなのかな? 案外、フレーブの罠だったんじゃ無いのかな?

 川の中の落とし穴、気をつけなければいけない。

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