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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第1章 ミステイク
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2 ベイグル軍

 このベイグルという国はこの世界の中央大陸の中央を横断する中央山脈の北面に位置しており、冬になれば海には流氷が押し寄せ港は凍り付く。


 召喚の間で横柄な指示をしていた男は、現ベイグル国王アブサル・フォン・ゲルトという、旧ベイグルのタスクル王の時代の将軍だったが、タスクル王朝に反旗を翻し軍事クーデターによって独裁政権のベイグル国王になった。ベイグルは土地もお世辞にも肥沃とは言えず、その枯れた土地にかろうじて牧草と呼べる草原が広がる元々は遊牧民の土地だった。


 短い夏と凍てつく長い冬、小麦とジャガイモが農作物のほとんどであり、放牧や狩りによる肉食や乳製品、羊毛などがこの国の経済を支えていた。国王アブサルは不凍港や肥沃な土地を求め、狩人たちを主力とした勇猛果敢なベイグル軍の元帥となって、東の隣国フレーブに侵攻しようとした、しかし国境となる大河ラビル川に阻まれ開戦から二十年小康状態を繰り返す。戦争は結果を得られず、疲弊した人民の内乱を恐れて恐怖政治を敷き独裁戦闘国家としてかろうじて政権を維持していた。


 この状況を打破しようと、アブサルは王宮魔導士に黒龍の召喚を命ずる。このような弱体化したベイグルに周辺諸国が侵攻しなかった理由は、このベイグルの召喚技術にあった。

 元々のベイグル国の建国神話には狼の魔物フェンリルが支配していた国を賢者が訪れ召喚魔法により黒龍を呼び出して倒し、遊牧民の国を作ったと語られている。黒龍は一国を滅ぼすだけの力を持つとされ、ベイグルはその召喚技術を持っている可能性のある国と周辺諸国から煙たがられていた。


 この世界の魔法は、治癒魔法と生活魔法程度であり弱い攻撃魔法はあっても、大規模な攻撃魔法などは存在しなかった。召喚魔法は元の世界で言うところの核兵器並みの脅威であったといえよう。

 こういう経緯から、黒龍の召喚に踏み切るのだが何の手違いか裕介たち五人が召喚されてしまい、その召喚魔術師たちは失敗を責められ、家族も含め粛清の対象となったという。


 間違いでも召喚してしまったものは仕方がない、裕介たちは牢から出され、粗末な衣服を与えられてベイグル軍の新兵訓練所に入れられた。

 ここでの二年間は裕介たちにとっては更に過酷な日々であった。間違い召喚者(ミステイク)と蔑まれ、殴られ蹴られ奴隷以下、家畜同然の扱いを受ける。

 機械文明に生まれた時から機械や電気に助けられ、剣など持ったことの無かった日本人がいきなりローマ時代並みの軍隊に放り込まれたのだ。腕の骨が折れても治癒魔法によって立ちどころに治癒できる世界だから、後遺症や致命傷にならない程度のギリギリの暴力は軍隊では当たり前で、殴る側もプロでありその境界をよく見極めて殴っていた。

 何度死んでしまったほうが楽だろうと裕介たちは思い、実際に自分で命を絶とうと考えたり、逃げ出そうとしたことも何度かあった。


 軍隊の中では、裕介たちは五人組として扱われており、仲間の誰かの責任は連帯責任であり、お互いに慰め合う反面、お互いを監視しあっていた。この仲間意識のおかげで二年の間誰も欠けることが無かったのは、不幸中の幸いだったのかも知れない。


 二年を過ぎたころ、実際の軍に配属が決まり戦場に駆り出される頃になって、裕介たちの肩にタトゥーの様な文様が現れた。この頃には、彼らにも連帯責任での自由時間がもらえるようになっており、軍隊から支給されていた給料を持って、五人は街の呪術師の元を訪れて各自の文様について説明を聞く。


 各自のそれは、勇者と賢者の証しだと言われ、召喚されて二年、この世界の食べ物を食べ、飲み物を飲み、空気を吸ったことで、元の世界には存在しなかった、魔力の元である魔素を体内に取り込んだ結果、それぞれの持つ属性に応じた魔法が使えるようになったということらしい。しかも、召喚者全員の持つ魔力は極めて強くそれに応じて、勇者や賢者の証が現れたとのことだった。


 ちなみに、海野は賢者。池宮は風、柿沼は火、亜湖は闇、裕介は土の属性を持つ勇者だった。四人の勇者と一人の賢者は、このベイグルという国を大きく変えていくことになる。

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