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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第五章 海峡の向こう
199/294

199 ワカサギ

「父様、鳥は弱くないのに羽根があって空を飛ぶことが出来るのね。どうして?」

 リーズはベットの中で、父に昼間考えた疑問を聞いてみる。

「うーん、そうだな。弱い鳥もいるけれど、強いのもいるよね」


「見たわけじゃないけど、想像してごらんリーズ。大昔、まだこの星に人がいなかった時代、全部の生き物は海にいたんだ」

「そうなの?」

「そうらしい」

「ある日、一匹の魚が水面から陸地を見た、そこには先に陸地に上がった美味しそうな虫が一杯いたんだ。虫はまだ空を飛べなくて地面を這っている。食べ放題だ」

「でも魚は水の中でしか生きられないでしょ?」

「そうだな。だから魚は、毎日水面から顔をのぞかせて、陸地を見ていた。その子供も、子供の子供も同じように陸地を見ていたんだ。ある日、水の中でなくても呼吸が出来る子供が生まれる」

「空気を吸えるようになったの?」

「そうだな、今でもそういう魚は結構いるぞ」

「すごいのね」


「魚は今度は、陸地に上がろうと頑張る。胸鰭や尻鰭を使って這い上がろうと努力するんだな。そしてまた今度は、鰭が足になった子供が生まれる」

「陸地に上がってくるのね」

「そうだ、虫が食べ放題だ」

「虫が可哀そう」

「虫の方は食べられたくないので、一生懸命に逃げているうちに飛んで逃げることを覚える。丁度、星が寒くなってきたので、蛹や繭になって寒い冬を凌ぐんだ。そして蛹から羽化して空を飛び、子供を作って子孫を残すために結婚相手を探すようになる」

「良かったね、もう虫は食べられないもの」


「ところが、陸に上がってトカゲになった魚の中に、自分も空を飛んで虫を食べてやろうと思うものが出てくるんだ。また、子供もその子供も、空を飛ぼうとする。ある日、前足が羽根になって飛べるようになったヤツが現れる」

「また? でもそれが鳥になったのね?」

「そうだ、鳥の中にも、小さな鳥を食べてもっとお腹いっぱいになろうとするやつが出てくる」

「悪い鳥なのね!」

「それがリーズの言う、弱くない鳥になったんだろうな」

「そういうことなの」


「誰も見た人はいないけど、お父さんが子供のころいた世界でね、ダーウィンって偉いおじさんが考えた話だ。生き物は、生き残るために努力して進化した、努力しなかった者や進化の方向を間違えた者は、結局生き残れなかったっていう、厳しい自然の話しだ」

「リーズも頑張ったら、羽根が生えてくるかしら?」

「ははは、リーズの子供も、またその子供もずーっと頑張ったら、そのうち羽根のある子どもが生まれてくるかも知れないな」

「なーんだ、そんな先の話しなのね」

「じゃぁ、もう遅いから、リーズは寝る努力をしてくれ、お休み」

「お休みぃ」


 目を瞑ったリーズをみて、裕介は、羽根は生えなくても自分の様に、リーズは直ぐに魔法で空を飛ぶようになるだろうなと思った。


----------------


 家族三人で、ミセスセフィアでスレーブル湖に浮かんでワカサギを釣っている。

「父様、釣れたぁ〜!」

「上手いぞリーズ!」

「五匹です。全部でリーズは二十三匹!」

 リーズは、もう足し算や引き算も出来る。


 夏場のワカサギは、サビキで釣る。スレーブル湖では、食物連鎖の魚としての最下位にこのワカサギがいる。海でのイワシのような存在だ。

「じゃあ、みんなで食べると何匹づつ食べられる?」

「みんな五匹づつ食べたいけど、二匹足りないわ。もう二匹釣らないと」

「そうだな。じゃあ、頑張って釣ってくれ」

「はーい」

 いつの間にか、割り算も出来るようになっている。エスパールではないが、うちの子は天才じゃないかと裕介は思う。まったくの親バカだ。裕介に限らず、親というものはそんなものであろう。出来なかった事が出来るようになる度に喜び、うちの子はすごいと思うものだ。


 ワカサギと言えば、氷に穴を開けて釣る冬の魚と思われがちだが、意外に夏の方が良く釣れたりする。旬は卵を持つ春先だが夏場でも美味しいのだ。


 リーズは五匹づつと言ったが、家族みんなでは二百匹近く釣れた。春に生まれた稚魚だから、小さくて可愛いのでフライにして、柑橘系の果汁をかけただけで食の冒険者達はあっさりと食べてしまう。

「ふぉふぉ〜 リーズも釣ったのかの、流石はユースケの娘じゃのう!」

 リーズは、ビスタルクに褒められてご満悦だ。


「すごく、簡単なのよ。沈めてチョンチョンとしたら、ビビビってなるの」

「そうかそうか、それで釣れるのか?」

「そうよ、あとはリールをゆっくり巻くだけ。でもね、鉤が多いからもつれないようにするのが、大変なのよ」

「そうなのか? ワシでも出来るかのう?」

「どうでしょう? でも父様に教えてもらえば、タークお爺さんでもきっと出来るのことよ」


 リーズは、セフィアに貴族の家の言葉使いの特訓を受けている。グィネヴィアはグネお婆さん、ビスタルクはタークお爺さん、エスパール夫妻は、お爺さまとお婆さまと呼んでいるが、慣れないこともあって、時々変な言葉使いになっている。

 ペルテ島では、このように大人たちがリーズに合わせて暮らしている。他に子供がいないので仕方がないが、セフィアは早いうちにリーズを同年代の子供達と触れ合わせたいと思っている。

 それには、学院に入って宿舎生活の中で触れ合うのが一番良いと考えていることもあって、リーズを進学させるつもりでいた。


 裕介は、リーズのこともだが、最近元気が無くなってきたビスタルクを心配している。あの癖の強さも慣れて仕舞えば可愛いもので、段々と色んなことが出来るようになる娘と、段々と色んなことが出来なくなる老人。


「子供を叱るな来た道じゃ、年寄り笑うな行く道じゃ」

 

 夏のワカサギを味わいながら裕介は、日本にいた頃の叔母の口癖だった言葉を思い出していた。

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