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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第五章 海峡の向こう
198/294

198 進路

四万PVありがとうございます。


五章を始めます。

月水金土土の更新予定ですが、確実に出来るか、ちょっと自信が無いです。

気長にお付き合い下さい。

 アルバスの南方は雨季真っ盛りだが、スレーブル湖サバレスカ諸島あたりでは、連日晴天が続いていた。うだるような暑さと、蒼すぎる雲一つない空。スレーブル湖がなければ、このあたりも東のネプル砂漠のような砂漠になっていたに違いない。

 グィネヴィアの畑を走り回っている少女の姿があった。この島に住む、土の勇者裕介と魔法マエストロ、セフィアの一人娘のリーズだ。この春、七歳を迎えたばかりの彼女は島の中を自由気ままに駆け回っていた。


 母から言語や一般常識やマナー、隣人のビスタルク、グィネヴィア夫妻から魔法、そして家を空けがちになる父の裕介に算数や理科、そして釣りを教わり、既に、ベイグルの義務教育課程はクリアーしていた。八歳になる来年から、どの学校に進学するのかを保護者達は決めかねている。

 セフィアの卒業した、旧ベイグル王都学院、現在はベイグル国立大学と名前が変わっている。そこにするのか、アルバス王立大学若しくは、スレブメスカリ教大学にフリーマンやミケネスの誘いに乗って行くのか、又は、旧グレッグ孤児院、現在はグレッグ研究所付属学院に進学させるのか決めかねていた。どこも魅力なのだが、リーズがどの方面に進みたいのか、まだ七歳になったばかりの彼女では決められなかったからだ。


「工業系なら迷わず、グレッグ研究所付属なんだけどな」

「でもリーズは、生物や自然に興味がありそうです」

「それなら、メスカリ教大かな? 付属の中高等部もあるそうだ」

「どれにしても、来年からリーズは宿舎生活を送ることになります」

「八歳だと、まだ早い気がするんだけどな。可哀そうだし不安だよ」

「でも、この世界では学問で身を立てる人には普通ですよ。私もそうでした」


 家の中では、久しぶりに戻ってきた裕介とセフィアが話し合っている。

 中央山脈横断鉄道は、この夏で開業五年を迎え、連日ベイグルとスレブの間を、沢山の乗客や貨物の往復輸送をしている。既に、モスカからゲルトまでの鉄道が開通し、現在、モスカ~アペリスコ間も工事中だ。ペルテ島からゲルトまで一般人でも一日、二日で旅出来るようになり、三国の貿易も順調で良い関係が続いている。

 ゲルトには、ステラの日本料理店が出来、アルバス各地に、ミリムセイコウアベカン屋の店舗が出来て、ミリムセイコウが主体になって始めた釣り人ギルドも、順調な滑り出しを見せている。この釣り人ギルドの最高顧問に裕介は選ばれてしまい、忙しくベイグルを往復している。


 中央山脈横断鉄道の成功を羨ましがったのは、オスタールだ。オスタールは、裕介が固めたあの湿原を抜ける道路を鉄道にして、金鉱の横からベイグルに抜ける同じようなトンネルが出来ないかとベイグルに持ちかけてきた。青果や茶葉、香辛料が主な輸出品目で、アミザ~ファルセック間の物騒な道を通るよりも、こちらの道路を使う方が安全で大量輸送が出来メリットが大きいと判断したようだ。

 結局こちらのトンネルも裕介が工事をすることになり、裕介はまたもや長く家を空けることになった。その工事も既に終わった。こうして鉄道網が整備されつつあるが、トンネルと違い開けた場所の鉄道は、魔物の出没も多く武装列車というものがその安全確保の為に走っている。


「まぁ、リーズの魔力から言えば、やはりグレッグ研究所付属が妥当なのだと思うな。ゲルトは比較的治安もいいし、元々、特殊な子供ばかりを集めた学校だ。ゲルトのエスパール邸から通うことも可能だし、リーズの進路がはっきりするまで在籍すればいいんじゃないか?」

「そうですね。父母も喜ぶでしょうし」


 裕介もセフィアも、リーズが産まれた時にビスタルクから、悪用されないように気を付けて育てろと言われたことが、ずっと頭から離れずにいた。この島では、大人四人の魔力探知でずっと彼女の安全を守ってきた。幸せなことに、これまでリーズをさらおうというような不届き者が現れたことはない。しかし、それはリーズの魔力が知られていないこともあったからだ。親元を離れリーズが強大な魔力の保有者だということが知れ渡れば、何が起こるか分からない。それが二人が一番気にしていることだった。


 当のリーズは、畑の青い葉についた青虫を集めていた。この青虫が、蛹になり、そして美しい蝶に変ることを彼女は知っていた。しかし、それが不思議でもあったのだ。虫は蛹になって翅が生えて空を飛べるようになるのに、人間はどうしてそうならないのか?


 その疑問を父に問う。父はこう答えた。

「虫たちは弱い生き物だから、子供を残す前に食べられちゃう事が多いんだ。だから、子供が作れる大人になったら、大急ぎで大好きな相手を見つけなくちゃならない。お互いを見つけやすいように翅が生えて飛んで探すんだよ」

 そう言われてみれば、グネお婆さんの呼び出す精霊たちも背中に翅がある。精霊はとても弱いとグィネヴィアは言う。でも空高く回っている鳥はどうなのだろう? あれは、そんなに弱いとは思えない。


 リーズはこんな事を考える子供だった。裕介とセフィアはこれがリーズの長所だとわかっていたために、生物学者ミケネスがいるメスカリ教大学がリーズの進路として、外せないでいたのだ。

 そう迷いながらも、結局、親としてはリーズが安心して学園生活を送れることを第一に考える。リーズの魔法や魔力の特殊性を考えても、グレッグ研究所付属学院でほぼ決まりだった。


「それなら、俺たちも夏はベイグルに住むことにするか?」

「そうですね。そろそろ戻っても良い頃ですし、移動も簡単になりましたし、寒い冬の間だけこちらの家に住むようにするのは悪くないですね」

 急にみんないなくなってしまうと、ビスタルクが寂しがるだろうと思えたし、アルバス王やスレブの付き合いも裕介にはある。二人はそういう結論に達した。

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