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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第四章 湖の家
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197 釣り人ギルド

「ほぉ~! これが王宮のヘラ池かぁ~!」

 カレンが感心する。

 裕介、カレン、ミリムの三人はアペリスコのアルバス王宮のヘラ池にいた。ミリムセイコウとアベカン屋のアルバス各店舗の開設に向けて、ロン王に二人を引き合わせておいたほうが良いと思えたからだ。もっとも、王の方もカレンが戻ってくるのを首を長くして待っていた。カレンが作るカンゾウ竿は全く需要に供給が追い付いておらず、今ではプレミア価値のある超高級品となって、貴族たちの宝物に匹敵するものになってしまっていた。


 もともとのんびりしたアルバスの新たな娯楽として、アペリスコ周辺には、王宮を真似て幾つかのヘラ池が既に出来ており、ヘラ釣り人口は爆発的に増えつつあるらしい。見よう見まねで作られた釣り道具が、既に販売されてはいるのだが、どれも急ごしらえの粗悪品で数度使えば折れてしまったり、節だらけの曲がった竹を切っただけの竿だったりするらしい。

 カンゾウ屋の留守を頼んだ常連の友人の話しでは、カレンが戻ってきたら弟子にして欲しいという者たちが百人近く待っているという。パルージャ商会を通じて、ミリムセイコウのヘラカレンは手に入るものの、それすら手に入りにくい高級品で、アペリスコでは、彼女達の店がオープンすることを切望されているとのことだった。


「これは、素晴らしいな、ユースケ! 雨でも釣れるではないか!」

「だろ! アペリスコは雨が多いからな」

「今では、ヘラ繁殖用の池を王宮の外に作っておりましてね、そちらから補充しております」

 ピクルスが裕介達にそう説明する。

「なるほど、俺はここまで人気が出るとは思って作らなかったから、ここで自然繁殖することを考えていたけど、その方がいいですね」


「別の池で育てた魚を、ここに放して釣るのですか?」

 ミリムが、釣るために魚を育てるというこれまでなかった考え方に驚く。

「うん、養殖というんだ。ベイグルでもこのまま釣り人口が増え続ければ、魚がいなくなってしまう。養殖した魚を放流したり、魚の繁殖期は釣り禁止にするって措置は必要になってくるぞ。しかも急がないと、特に川や湖ついては、あっという間に魚より人の数の方が多くなってしまう」

「そうですね。ベイグルの漁業ギルドは川については無関心ですからね」


「釣り人を管理するギルドのようなものが必要になってくるかもな。今のうちに釣り人のマナー教育や決まりを作っていった方が良いだろうな。それこそ、ミリムの出している雑誌で始めたらどうだ?」

「えへへ、お兄さん、月刊怪魚ハンターのこと知ってたんですか?」

 ミリムは舌を出して笑う。

「漁業ギルドとは違う釣り人のギルドを作って、統括管理したほうがいいかも知れないな」

「釣り人ギルドですか?」


「難しい話しをしておるのう?」

 ロン王が痺れを切らせて話しの腰を折る。

「とにかく、釣ろうではないか。ユースケよ、余の奥義を見て驚くな!」

「奥義って、そんな大層な」

「わはは、秘密の餌をあみ出したのじゃ」

「ニンニクを入れるとか?」

「なっ! 何で知っておるのじゃ?!」

「ははは、日本のヘラ餌にニンニク入りのがありましたからね」

「さすがは、聖地じゃの…」

 ロン王は折角の大発見の先を越された気がして悔しがった。


 四人が並んで釣り座につく。カレンは王が自分の作った道具を大切に使ってくれているのを見て、驚くと共に感動した。長年、カンゾウ屋の当主たちが作り続けてきたヘラ道具がやっと本来の道具として認められ、王に愛用されているのだ。


 使われもせず、売れもしない道具作りを続けることに何か意味はあるのか? カレンにすれば、憧れの日本の工芸だから、すたれさせるのが嫌で、作り続けてきただけに他ならない。何度、投げ出してしまおうと思ったことか。自分が諦めてしまったら、この技術は無くなってしまうからと何度、自分に言い聞かせただろう。それがアペリスコを離れている間に、この国の国王が中心になってその良さを称えてくれている。

 店に戻ってみると、店に入り切れないほどの弟子志願者がたむろっていて、試験で篩いにかける必要があるほどだ。王が握る竿を見て、涙が出るほどうれしかった。


 ミリムは、生まれて初めてのヘラ釣りに戸惑っていた。延べ竿の釣りは、ほとんど初めてで、ウキを使うことも初めてであり、流れのない場所でウキを見つめてその反応で魚を掛けると言うのも初めてだ。

 最初のルアー釣りの時のように裕介に手ほどきを受け、慣れない延べ竿の操作に戸惑いながら立ち上がるウキを見る。


「さっき餌無しでのウキの高さは、白いメモリだったろ? 餌が溶け落ちて、そのメモリまで立ち上がったら、引き上げて餌付けだ」

「どういう動きが、魚のアタリなんですか?」

「そうだな、スーッと沈むのが掛けた時に一番気持ちが良いな。他にもいきなり浮かぶとか」


 そう話しているそばで、ミリムのウキが、スーッと沈む。初めてにもかかわらず、ミリムは見よう見まねでピシッと合わせ水面で魚を寄せて来た。

「なるほど! ドライフライと同じですね!」

「そうだな、魚は見えないが反射的に合わせるのは同じかもな。兎に角、ウキが不自然な動きをしたら合わせだな」

「これは、確かに面白いです。静かな釣りだけど、いつアタリがあるんだって緊張感がありますね」


 湖沼、川、海とフィールドが違い、狙う魚種、釣り方もそれぞれ違うが、魚を掛けるという点においては同じである。裕介は、ミリムの言葉でその原点を思い出した。


「結局、魚釣りってのは、どんなフィールドだろうが、どんな魚だろうが、待ちに待った魚信があって、そのアワセで魚が掛かった瞬間が最高なんだよな」

 そう言いながら、裕介は王宮のヘラ池に並ぶ四つのウキを見る。このアルバスという国は、魚を釣るには最高の国だなと、改めて思っていた。

これで四章は終わりです。

毎日読んでいただいている方々には、申し訳ありませんが、また五章を始めるまで二週間ほどお休みさせていただきます。

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