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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第四章 湖の家
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195 ピラルク

「ミリム、カレンさん、ステファニー、じゃあ久しぶりに釣るか!」

 今日は行った事が無かった、スレーブル湖の西岸に来ていた。こちらは、東岸と違い陸はジャングルの様になり魔物も多い。オスタールとアルバス、スレブを隔てている南北に連なる千から二千メートルほどの山脈は、常に常緑樹で覆われている。

 スレーブル湖岸は、葦の様な草でハードカバーになり、水草や浮き草も多い。


 水色もかなりマッディで、スレーブル湖には東西の水の色の違いがぶつかり合い、ハッキリと分かる場所もある。東はマス系の魚が多いが、西は水色からしてナマズや雷魚のような魚が住んでいそうだ。


 カレンはともかく、ミリムとステファニーはこれほどのハードカバーの釣りは初めてだ。どう攻めたものかあぐねている。

「何か分からないけどデカイのがいるぞ。無理にカバーを攻める必要もないぞ。さっき渡したルアーでただ巻きしてみて」

 裕介はみんなにそう言う。実は、魔力探知には大物の魚影も探知しているのだ。底はそれほど深く無くフローティングタイプのルアーでも問題ない。カバーさえ攻め無ければ、根がかりの心配もないのだ。


「でも、このルアーをキャストするのは、調子狂いますね」

「本当だ、こんな大きなルアーを食って来るのか?」

「魔王様のおっしゃる事に間違いはないでしょう。でも投げにくいですね」

 三人はそれぞれに文句を言いながら、裕介が渡したジョイントがある、ビッグベイトと言うらしい、二十センチを超える大きなルアーをキャストした。


「なに、これ? ただ巻きでウネウネと左右に動くわ!」

「なかなか艶めかしい動きだな」

「お兄さん、なんてルアーを作るんですか?!」

「ははは、面白いだろ! ビッグベイトって言うんだ。大物の出やすいルアーだぞ。これで釣ったら病みつきになるぞ! いきなりデカイのが出るから、気を抜くなよ」


「ストップさせたり、竿で煽る様に引っ張るジャークでも、効果はあるぞ。もちろんトゥイッチでもいいけど」

 そう言われて、ミリムは一度巻く手を止めて、また巻き始める。ストップアンドゴーだ。


 バン!!!


 途端に派手な水飛沫が上がり、リールのドラグが滑り出す!

「なななな! なにこれ?! フィ! フィッシュ オン!!」

「ミリム、デカそうだな! じゃあ、他の二人は一度回収してやって!」

「よし! 分かった!」

 カレンとステファニーはルアーを回収する。


「でぇぇ、ドラグが止まらない! 重い! 畝る!」

「なんだろうな?!」

 ミリムはあまり経験の無い魚のファイトに、驚いていた。力強く走りながらも時々頭を振っているのか、ゴンゴンと竿に振動が来る。更に畝る様に回転する。そして兎に角重い!

 初めの十分ほど、その訳の分からない引きに耐えた。体感的には凄く長く感じた。やっと、魚がゆっくりと寄って来るようになる。


 それでも、またドラグが出され始め、魚がジャンプする。


 ドパーン!!


「デカッ!! 何アレ?」

「ピラルク?!」

 まさか、そんな熱帯の魚が? とは言うものこの山の裏側は熱帯雨林だし、ここも一応ジャングルだからな。でもそんな気温では無いし、そんなに水温は高く無いだろ?

 裕介は、そんな疑問を持ちながら、水に手を入れてみる。暖かい。温泉か?! どう言うわけかスレーブル湖の西岸は熱帯並みに水温が暖かい様だ。

 きっと、この浅くマッディな場所は水が暖かく、浅いために、水温で表面と底の水が入れ替わる、湖全体のターンオーバーの影響も受けにくいのだろう。それでも、生息するための水中の溶存酸素を保有しているのか?


 となると、このあたりは山の裏側のオスタールの湿原と同じような生態系が成り立っているのかもしれない。

 そう思うとピラルクがいてもおかしくない。

 すごいなスレーブル湖、寒冷地の魚と熱帯の魚が同居しているのか? ひょっとすると、こう言う流れを親潮のように淡水鰹が回遊しているのかも知れない。湖のくせに海流のような流れがあるのかなどと、裕介は思った。


 兎に角、ミリムのピラルクっぽい魚だ。

 だいぶ近くまで、寄って来た。

「ピラルクなら、ジャンプに気をつけろ。船をひっくり返したり、硬い鱗で引っ叩かれると骨が砕けるぞ!」

「ぴぇぇ! 魚に骨を砕かれるんですか?!」

 魚が船の側で畝る。白銀の魚体、長い口、尾鰭近くの鱗の端が赤くなっている。やはりピラルクだ。


「さて、どうやって取り込んだものかな?」

 多分、比較的小型だが二メートルはある。八十から百キロくらいはあるだろう。網だと耐えられ無いかも知れないし、そもそも入らない。

「やっぱり銛を打ち込むのが、正解だろうな」

 裕介は、ピストーク釣りで買った銛をアイテムボックスから出して構える。


「よーし、ミリム、こっちにゆっくり寄せて来い!」

「ぴや? 銛を使うのですか?!」

「そりゃぁ、百キロ近くありそうだからな」

「百キロ?! 私の倍以上?!」

 それでも、だいぶ弱ったピラルクをミリムは慎重に船際まで寄せて来た。


 ガスっと裕介は、ピラルクの鰓そばに銛を打ち込み暴れるピラルクに押し込む。銛を打ち込んだ辺りの水が血に染まり、ピラルクは大人しくなった。

 ほとんど魔物退治だ。

 裕介は、空間魔法でピラルクを持ち上げ船に乗せる。

「デカイなぁ〜! ニメルは超えているぞ!」

 カレンが、興奮して叫ぶ。

「おめでとうございます。ミリムさん!」

 ステファニーにそう祝福され、ヘニャヘニャとへたり込むミリム。

「すげぇな、あのビッグベイトを丸呑みしてるよ」


「ピラルクは俺のいた世界では、世界最大の淡水魚だと言われててな、五メルを超えるのもいるらしい」

「五メル?!」

 三人が口を揃えて驚く。

「俺も食べた事は無いのだけど、凄く美味しいらしい」

「美味しい?! では、もっと釣らないとな」

「イヤイヤ、百キロもあったら十分だろ?」

 先ほどまでは、ビビリまくっていたのに、女達は欲に駆られたハンターの顔になっている。


「じゃあ、次釣ってみようか」

 裕介はそう言いながら、ピラルクをアイテムボックスに入れた。

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