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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第四章 湖の家
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194 ミリムお姉ちゃん

 カレンとミリムを乗せて、宙に浮んだミセスセフィアは、スレーブル湖を一気に南下する。

 とは言え、スレブ最南の宿からペルテ島の我が家までは、六百キロを超える距離なので、裕介は朝早くに出発して真っ直ぐにペルテ島に向かった。


 ミリムはゲルトからトンネルまで飛んだのに続いて、二度目の空の旅だ。この高度から見ても水平線が見えるほどの果てしない湖。スレブでは凍てつく一歩手前だったが、ベイグル育ちのミリムにとっては暖かく感じるほどの、山脈の南の気候。

 湾になった岸辺には、沢山の水鳥が浮かんでいて裕介が指差す水面には、イルカの群れがジャンプしている。カモメのような鳥が船と並行して飛び、ミリムは生まれて初めて自分の横を鳥が飛ぶのを見た。

 時折ある小さな島の塊には冬でも常緑樹が生茂り、まだアルバスは水しか見ていないにも関わらず、聞いた通り豊かな土地だなぁ〜と思う。


「もうアルバスだなんて、信じられないな」

 カレンは約三年前、ゲルトに行くのに三ヶ月かかった。女一人の旅であるから、傭兵団に守られた乗り合い馬車を乗り継いでやっとゲルトに着いた。


 修行に行った価値はお釣りが来るほどあった。新素材を生み出し、その特性を活かした新しい釣り具作り。これまでこの世界に無かった強くて、大物にも負けない釣り具が次々と誕生した。

 それにベイグルの釣り人の多さだ。常時、閑古鳥が鳴いていたアベカン屋と比較して、客の途絶えないミリムセイコウ、次々と売れて行く釣り具、客の質問と要望、それに応える教育された店員。何もかもの次元が違うのだ。カレンはミリムセイコウで未来の釣りと釣り具屋のあり方を衝撃的な思いで経験してきたのだ。


 ようやく、ペルテ島が見えて来た。母になって、少しだけふっくらしたセフィアと抱かれた小さな女の子が、手を振って家の前で待っている。

「なんで分かったのだ?」

「だから、念話で会話してるって何度も言っただろ?」

「本当だったのか?!」

「ずっと、信じなかっただろ?」

「あぁ、トンネル生活で気の毒なことになってるんだと思っていた」

「なんでだよ。確かにトンネルの中は、念話が通じないから寂しかったけどね」

 カレンは、てへっと言う顔をしてセフィアに手を振り返している。


「じゃぁ、リーズちゃんが魔法を使えるってのも?」

 ミリムが目を丸くして聞く。

「あぁ、本当だぞ。ミリムも信じて無かったのか?!」

「ごめんなさい、生まれて三か月で魔法を使うなんて聞いたことも無かったので」

「リーズは、生まれて目がまだ見えない時から魔力探査を使っていたんだ。隣人の大魔法使いのビスタルク夫妻に、歩き始める前に魔法を使いだすって太鼓判を押されてたんだよ」

「ぴえぇぇ~!」


 船が家の前に降り立ち、セフィアとリーズが出迎える。

「ただいま~!」

「パパ、おかーり!」

「リーズ、ただいま! いい子にしてたかぁ~?」

「あい!」

「そうか、そうか。リーズに会えなくて、パパ寂しかったぞ~!」

 裕介は、ミリムと同じようにガシガシとリーズの頭を撫でる。

 リーズの目が、ミリムとカレンに移る。ミリムとカレンが「おっ!」と言う顔をする。

「ミ・リ・ム、カ・レ…」

「きゃー! リーズちゃん、分かるの? そう、ミリムお姉ちゃんよ~!」

「カレンだ! 私がカレンだぞ~! う~! たまらん!!」


「だろ~! どうだ、可愛いだろ~!」

「おいで、リーズちゃん」

 ミリムは、リーズに手を差し伸べる。

「リーズ、ミリムおばちゃんに抱っこしてもらうか?」

「いや、お兄さん、そこはミリムお姉ちゃんでお願いします!」

「おばちゃんだよな、リーズ」

 ミリムが差し出した手に、リーズは素直に抱かれミリムは嬉しそうだ。


「えへへ、お姉さん、お久しぶりです」

「セフィア、おめでとう。セフィアにそっくりな女の子だな」

「ミリムちゃん、カレンさんお久しぶりです。二人とも元気そうで良かった」

「あぁ、私たちは元気だぞ! なっ、ミリム!」

「はい、やりたいことが一杯ありますから!」

「うふふ、カレンさんと、ミリムちゃんがこうして仲良くしているのって、不思議な感じです。さぁ~、中に入ってください。ここが我が家です」


「いい家だな。木で立てたんだな?」

「うん、ビスタルク夫妻に教わって、俺は土魔法と闇魔法を、セフィアは木魔法を習ったんだ」

「へぇ~、セフィアも木魔法を使えるようになったのか?」

「えぇ、私は元々魔法マエストロですから全属性を使えますけど、カレンさんほどは使えませんでしたからね。教わったんです」

「良い土地、良い釣り場、良き隣人に恵まれて本当に幸せそうですね」

 ミリムがニコニコして、リーズの頭を撫でている。


「あら、誰かと思ったらミリムちゃんじゃないの。という事はユースケさん、もう、トンネルが開通しちゃったの?」

 エスパール夫人がステファニーとソファーから立ち上がる。

「あっ、お義母さん。留守の間、すみませんでした。一応、仮開通ですが開通しました」

「そうなの残念、もう少しリーズと一緒にいたかったのに」

「まぁ、正式開通は春以降ですから、何も冬のベイグルに戻らなくても、ゆっくりしていってください。こちらは、カレンさん。カレンさん、セフィアのお母さんです」


「まぁ、アルバスでは、ユースケさんとセフィアがお世話になりました」

「エスパール伯夫人?! 初めまして、いやいや、お世話になったのはこちらのほうです。ベイグルでもミリムにとても良くしてもらいました」

「いえいえ、セフィアから話は聞いています。アルバス南の釣りがとても楽しかったのだと。この者は従者のステファニーです」

「存じています。ステファニーさんはミリムセイコウのお得意様ですから」

「あらあら、そうだったの?」

「エスパール釣友会の会長ですものね。僕もとてもお世話になってますよ」

 ミリムが、昔のまんまのボーイッシュな笑顔で白い歯を見せて笑う。


「じゃぁ、俺はビスタルク夫妻を呼んでくるよ。今夜は歓迎パーティーだ」

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