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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第四章 湖の家
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192 発光ダイオード

「ミリム、美人になったなぁ~」

 裕介は久しぶりに、ミリムの触り心地のよい頭を、ガシガシと撫でる。ミリムは懐かしそうに眼を細めて喜んでいる。店は、ほったらかして奥の接客室で三で人お茶を飲んでいる。


「言ってくれれば、迎えにいったのに」

「昨日はピルブ村に泊まってな。今朝出発して、これでも一直線に来たんだぞ」

「ぴえぇ~! ピルブ村からこの時間に来れるのですか?!」

「ミセスセフィアなら、そのくらいだろうな」

 カレンがうんうんと頷いている。

「乗せてくださいね」

「もちろんだ。なんなら二人とも一緒にアルバスに帰るか?」


「うっ、行きたい~! 大急ぎで調整します。お兄さんは、いつまでベイグルにいるんですか?」

「トンネル開通の時期をベイグル政府に聞きに来ただけだからな。長くても一週間くらいかな? 十二月になると動きにくくなるからな」

「一週間ですか?! 幸い厳冬期で店が暇になる時期ですから、なんとかなるかも知れません」

「うん、春には鉄道が開通するだろうから、アルバスの俺の家までは四日もあれば来れるようになるぞ」

「どこに家を持ったのだ?」

「スレーブル湖のペルテ島って島だよ。いい魚が釣れるんだ」


「私も行ってみたいな」

「いつでも来ればいいさ。でもカレンさんは、アルバスに戻ると、きっと釣りにも行けなくなるほど忙しくなるぞ」

「そんなに?」

「あぁ、王は打倒柿沼を目指して頑張って王宮でヘラ釣りしているからな」

「カキヌマさんは、そんなに凄いのか?」

「あぁ、凄かったぞ。芸術の域だ」

「一度見てみたいものだ」


「まぁ、ロン王がリベンジに燃えてる以上、また王宮で釣り大会を催して、柿沼さんが呼ばれる機会がありそうに思うな」

「ヘラ釣り大会かぁ〜!」

 うーっとカレンは嬉しさに震えている。


「それにしてもミリム、すごく頑張ったじゃ無いか! 品揃えも日本の釣り具屋に負けて無いし、お客さんもよく勉強してる。まさか自作ルアーコーナーがあるとは思わなかったよ」

「えへへ、自分でルアーを作る人が増えて、材料だけ売って欲しいって要望が増えたので、作ったルアーを店の中で売るコーナーを設けたんです。好評で、ルアービルダーの卵が増え始めています」

「いいなぁそれ! 多様性が出来て良い案だよ。ロッドビルダーも増えると楽しくなるぞ!」


「綺麗なルアーを作る人がいるんですよ」

「へぇ〜、俺がベイグルを出た時は、誰もまだ釣りなんてやって無かったのにな」

「リーズちゃんは、可愛いですか?」

「そりゃぁ、もう可愛いなんてモンじゃ無いぞ!」

 裕介はリーズの話しになると、情け無いほどだらしない顔になった。

「ブハハハ! そりゃぁ、親バカ過ぎるだろ?」

 カレンが手を叩いて大笑いする。


「カレンさんは、リーズの可愛さを知らないから笑っていられるんだ。リーズにパパ大好きって言われてみろ、中央山脈をブチ抜いてでも帰りたくなるぞ!」

 カレンは足をばたつかせて笑っている。

「ひー! バカだバカだ! 親バカ勇者だ!」

「リーズはもう魔法も使えるし、ここにいても念話でお話し出来るんだぞ!」


「ひー! お話し?! ブハハハ! そんな赤ちゃんが魔法?!」

「嘘じゃ無いって! 生まれて三ヶ月で、セフィアの木魔法と俺の空間魔法を手伝って、念話を送って来たんだから」

「マジで言ってるのか?!」

 カレンは、まだ笑っている。どうあっても信じないらしい。


 ミリムも裕介の言うことだから、信じたい反面、そんな二歳にも満たない赤子が、魔法と念話を使うなんて、いくら裕介とセフィアの子供だとしてもありえないと思っていた。兎に角、裕介とセフィアが幸せな事は痛いほど伝わって来た。


「そうだ、次の手紙で送ろうと思ってたんですけど、お兄さんが先に来ちゃったので、これアミル君の新作です」

「おっ! ミリム、アミルと気が合うみたいだな」

「えぇぇ! そんなんじゃ、そんなんじゃ無いです! バカアミルですから!」

「はいはい」


 裕介は、笑いながら既に梱包された包みを開けた。

「これは? 照明か?」

 どう見ても、発光ダイオードの照明だ。

「お兄さんが送ってくれた、オパールスライムの樹脂と、灯りに使うライタイトの粉を混ぜたそうです。一瞬の魔力で一ペクト先を照らすのを三十分持続します」

「それほど明るいのか?!」

「ええ、直視すると目がしばらく見えなくなりますよ。アコセイサクショでは、これでバイクを夜間も走らせる事が出来ると、また好評です」


「こりゃ、それどころか、トンネルの鉄道にも使えるし、信号機にもなる。街中の治安維持の為の街灯にもなるし、夜間の漁も行えるようになる。夜釣りの電気浮きや光るルアーも作れるようになるぞ」

「そっかぁ、釣り具にも使えるんですね」

「魚集灯と言ってな、魚は夜に灯りで海を照らすと集まる習性があるんだ。網で掬うほど集まるぞ」

「じゃあ、漁師も喜びますね」

「そうだな」


 ミリムセイコウは、工場も順調に稼働しており、注文にも対応できているらしい。鉄道が春に開通したら、カレンはアルバスに戻りミリムも一緒に付いていって、ミリムセイコウアルバス店を立ち上げるつもりだったとの事。キレトもアミザの支部長にいずれなる予定らしい。

 アルバスに何店舗かと工場を構えたら、オスタールのファルセックにも進出する構想なのだとか。

 いつの間にか、ミリムは実業家に成長していた。


 そう言う意味では、アミルはもっとやり手なのだと言う。ベイグルの厄介者だったカザット地方に目をつけ、ルビースライムの養殖場を作り、熱硬化性樹脂の拠点にしたらしい。今や、カーボン素材はカザット地方の特産品になりつつあるそうだ。

 裕介もホフマンの件で気にはなっていたのだが、アミルの、ものおじしない性格はベイグルの禁忌をも経済的に自立させようとしている。


 考えすぎかも知れないが、裕介は多分、アリサの望みだったのでは無いかと思う。兄弟を母親さえ殺された、その元凶となったカザットに再び同じような事が起こらないよう、優しいアリサが望んだのでは無いだろうか?


 自分が見つけて来たスライムが、そう言うことに役立ち戦後のベイグルの、みんなが幸せになれる方向に知らずに動いていた事を、裕介は嬉しく思った。

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