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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第四章 湖の家
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191 再会

 ミセスセフィアで裕介は、ピルブ村に降り立った。冬支度に追われるピルブ村の村人達は、空を飛んで来た銀色の船に驚いて、家に飛び込む者と、好奇心で何者かを確かめようとする者の二つに分かれた。


「みんな、ただいま!」

「ただいまって… あんたユウちゃんじゃないの?!」

 懐かしい、裕介とセフィアの立会い人をしてくれたおばさんだ。

「一人かい?! セフィアちゃんは、どうしたのさ?」

「セフィアは、アルバスで娘といます。俺は山脈を超えて来たんですよ」

「そうか、娘さんが生まれたのかい、そりゃぁ、おめでとう! その船で山を越えたのかい?」


「嫌だなぁ、トンネルですよ。政府に言われて三月からずっと掘ってたんですよ!」

「へっ? トンネル? そういやぁ、アルバスまで鉄道とかいうものを敷くんだって噂があったね。あれをあんたがやってたのかい?」

「そうですよ。セフィアも元気でやってますよ。アルバルスさんは?」

「あぁ、爺さんも相変わらずさ。行っておやり!」

 その頃になって、家の中に隠れた村人たちが出てくる。

「ほんとだ! ユースケだ! なんで空を飛んできたんだ?」

「セフィアの描いた魔法陣を俺の魔力で飛ばしてきたんです。ミセスセフィアって言うんです。カッコいいでしょ? 水空両用ですよ!」

 子供たちが、わーっと、ミセスセフィアに群がる。


 アルバルスが家から出てきた。相変わらず無言で、にっこりとほほ笑んでいる。裕介は傍まで行くとアルバルスに抱き付いた。

「いろんな魚を釣って来たんですよ!」

「知ってる」

 アルバルスはそう言って裕介を家に招き入れると、山積みになった『月刊怪魚ハンター』の一冊を持ち上げて笑った。

「おぉ、ミリムが出しているって雑誌はそれか!」


 最新刊を手に取って捲ってみる。

『魔王の愛艇ミセスセフィアの全て』

 そういう見出しで、ミセスセフィアっぽいイラストが描いてある。

「ぷっ!」

 裕介は噴出した。


『銀色に輝くアルミ製ボディ。六十馬力(推定)のファインセラミック製魔動モーター船外機と一般十馬力のツインモーター搭載。アタッチメントで空も駆けることが可能! その速度は、水空ともに時速六百ペクトだ。魔力電池の登場で我々も持つことが夢ではなくなって来た!』

 ミリムはミセスセフィアを作って売るつもりなのか?

 記事の終わりに書いた記者の名前が書いてあった。『キレト』


 あぁ、そうかこれを書いたのはキレトだったのか。それならミセスセフィアの製作の時から、側で見ていたからと納得する。キレトも頑張っているじゃないか! 裕介は、キレトの出会いを思い出して嬉しくなった。


「ユースケ! 久しぶりに帰って来たんだから、今日は仕事はやめて村の集会所で宴会だ!」

 村人達が、ドドッと流れ込んで来る。裕介とアルバルスは村人達に連れられて集会所に移動した。

「こんな集会所は、昔は無かったよね?」

「あぁ、お前に教わった刺繍で村に余裕が出来たんでな、冬にみんなで集まって刺繍をする建物を建てたんだ」


 部屋の正面には大きな刺繍の大作が飾ってある。

「去年刺繍したヤツだよ。パルージャ商会は金貨ニ百枚って言ったんだが、売らなかった。まぁ、みんなの合作だからな」

「じゃあ、料理は各家持ち寄りだけどな。ホラ座った座った! アルバルスの爺さんは、隣だ!」

「そうですか。じゃあ、良い酒があるんですよ。ドアーフの酒です!」

 裕介はそう言って、アイテムボックスから酒甕が数個納められた木箱を取り出した。


「ドアーフの酒だって? そりゃ滅多に飲めない上級品じゃないか!」

「ずっと、ドアーフ達とトンネルを掘っていたんでね。分けてもらったんですよ」

「流石だな! じゃあ、飲みながら世界漫遊の話しを聞かせてくれ!」

「世界って言っても、まだたったの三ヶ国ですよ」

「充分だ。俺たちゃ、ベイグルどころかこの村からもほとんど出たことがないからな」


 こうして、久しぶりのピルブ村で夜遅くまで語り明かした。セフィアが一緒だったら、大層喜んだだろうにと裕介は残念に思ったが、時々念話で実況中継をした。念話は、送る当人の気持ちもある程度伝わるので、裕介が安心して喜んでいる事がセフィアにもリーズにも伝わった。


 翌朝、裕介はゲルトに向けて出発した。

「もっとゆっくりして行けば良いのに」

「今度は、セフィアちゃんもリーズちゃんも連れて戻っておいでよ!」

 裕介はみんなに手を振り、ミセスセフィアを浮かばせてゲルトに向かった。


 ゲルトまでは直線距離だと五百キロほどなので、夕方には到着した。先ずはミリムセイコウに向かう。驚かせてやろうと、コッソリと店の入口から入る。みんな仕事帰りなのか、沢山の人だ、品揃えも驚くほど増えている。

 ミリムセイコウ本店は、開店当初のまんまの作りだが、おびただしい竿の数、ズラリと並ぶリールのショーウィンドウ、既に何釣りと釣法とターゲットを絞ってコーナー分けしてあった。

「こりゃぁ、確かに魔界だな」


 カウンターの上に、ズールの歯が飾ってある。

 ヘラカレンと天井から看板がぶら下がったコーナーの棚を、整理している店の赤いユニフォームを着た女性と目が合った。

「えっ!?」

「おっ!」

「ユースケ?! 何でここにいるのだ?」

「カレンさんこそ、元気そうじゃないか!」

「うわー! ユースケだぁ〜!」

 カレンは店中に響き渡る大声を上げて、初めて会ったときの様に裕介に抱きついた。


 その声を聞きつけて、店の奥からミリムが飛び出して来る。

「お兄さん!」

 ミリムは、裕介を見た途端に、その青い目にボロボロボロっと大粒の涙を零して泣きながら駆け寄って来て、裕介に飛びつくように抱きついた。

 驚いたのは、店にいた客達だ。今やベイグルの釣り人の聖地、魔界ミリムセイコウの社長とヘラカレンの生みの親、カレンの、ミリムセイコウの二本柱が大泣きで一人の男に抱きついているのだ。


「なんだなんだ?」

「あれが、魔王様らしいよ」

「魔王って、月刊怪魚ハンターのユースケさんか?」

「ゲェ! 初めて見た。サッ、サインをもらおうかな?」

 抱き合って再会を喜ぶ三人の周りには、黒山の人集りが出来た。

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