19 殲滅作戦2
アトラクション以降、俺たちミステイクの名はサーズカルに知れ渡り、ここでミステイクの一員になったグレッグ少尉は羨望の眼差しで見られるようになった。中にはグレッグ少尉も勇者で、すごい魔法が使えると思っている者もいる。あの馬に乗っていた軍曹ですら、通路で会うと下を向いて道を開ける。こう言うパフォーマンスも海野さんの計画の一部なんだろう。
殲滅作戦出発の日が来た。殲滅作戦については一部の関係者にしか知られていないので、俺たちはサーズカルの外で落ち合い出発する。
ハリタ村まで、二日。ハリタ村から更に二日。
俺の自慢のヘルメットは、視界が狭く、目立つのでかえって危ないとみんなに言われ、標準装備の兜だ。
ハリタ村までは順調に進み、ここで食料と馬車を置き、二名の警備兵を残して後は携帯食を持って山に入る。グレッグ少尉に警備で残るかと尋ねたが、ミステイクの一員として戦闘に参加すると言って聞かなかった。まぁ、彼女の性格からすれば予想通りの返事だ。
峠付近になると、あまり人が使っていないので獣道の様になる。先頭が鉈で潅木を薙ぎ払いながらの進軍となった。それでも海野さんの予定通り、一日で峠を越えここから、物見の砦を潰しながら山と川の間の平地を南進する。
「ぷっぷっ」
頭の中で考えたことに、俺はちょっとツボにハマって噴出した。
「カワハラ中尉、何が可笑しいんですか?」
アリサに聞かれる。
「いや、ちょっと想像しちゃって…、今、亜湖さんとエクレア軍曹って、たぶん仲良く手を繋いで歩いてんだよな」
アリサの頬っぺたが膨らむ。涙目になっている。側で聞いていた数人も、たまらず、プッと噴き出す。そんな敵陣を前にして、気の抜けたことをやっている時だった。
「敵襲!!!」
「えっ?!」
見ると右の山から土煙を上げて、敵の一軍が下ってくるところだった。左の川筋からも雄たけびが聞こえる。伏兵に側面を突かれた、敵にばれていた?!
「やっぱりね」
海野さんが、予想していたように冷静に言う。
「右を池宮さん、左を柿沼さん。裕介君は正面に備えてください。他の人は逃れた兵に備えて、盾を構えて弓に気をつけて!」
ゴォォォ!!!
右は砂嵐、左は大火事。大変なことになっている。
山から馬で駆け下りてきて、馬ごと風に飛ばされるもの、服に火がついて慌てて元来た川に飛び込むもの。襲ったはずの敵は大騒ぎだ、そこに黒い獣が六頭現れた。たぶん、あれがオルトロスだ。俺たちを襲うのかと思ったら、二手に分かれて敵兵に飛び込んでいった。
きっと、あれは、海野さんが操っているんだろう。
「おぉぉ~!」
正面から剣や槍を振り上げて突撃してくる一群が来た。俺は魔力で敵の足元を液状化し落とす、そして固化。予定は変わったが、戦闘は期待通り一瞬で終わった。グレッグ少尉と他七名は剣と盾を構えたが、何もすることがなかった。
敵は死者五名、オルトロスに手や足を食いちぎられた者が四名、火傷を負ったもの、骨折者、打ち身など多数だったが、火傷や骨折者は治癒魔法で直せる。
全部で九十六名。捕縛完了。後は、砦に残っているであろう、親分と数名だと思ったら、亜湖さんとエクレア軍曹が六人を縛り上げて、拉致されたのであろう綺麗な、おねーさん方を連れて砦のほうから歩いてきた。
「こいつがボスらしい」
エクレア軍曹が地面に転がす。ミステイク以外の兵士たちは、それぞれに敵を捕縛したり治癒したりしている。ここにいるのは、ミステイクとエクレア軍曹だけだ。海野さんが前に出る。
「命令だからね、サーズカルに連れて行って裁きを受けてもらうよ」
「くっ…、殺しやがれ!」
「まぁ、どの道、死刑だろうけどね、その前に、教えてくれ、僕たちが進軍してくることを誰から聞いたんだ⁈」
「言うわけないだろう…」
「いや、キミは話すさ。さぁ、誰だ?」
海野さんが、しゃがみ込んで相手の目を見た。
「ザイス・ホフマン将軍…」
「だろうね」
賢者の魔法だろう。あっさり喋った。
「どういうことですか? 海野さん」
「たぶんね、僕たちミステイクを葬りたかったんだろうね。そして、この密輸組織の大ボスは彼なんだろう」
「どうしますか?」
「ん~、どうもしないよ。聞かなかったことにする」
「えぇ~! どうして?!」
「まだ、彼にはやってもらわないといけないことが沢山あるんだ、全部終わるまでは大事な人材なんだよ」
「でも…」
「まぁ、俺は海野さんがそう言うんなら従うぞ」
「私も」「俺も」
柿沼さんの言葉に、池宮さんと亜湖さんも同意する。
「多数決できまっちゃったじゃないですか、じゃぁ、仕方ないっすね」
「そういうことで、グレッグ少尉、エクレア軍曹も悪いようにはしないから、聞かなかったことにしてくれる?」
「ウミノ大尉の命令なら、仕方あるまい」
「承知いたしました」
こうして俺たちのファーストミッションは、納得いかない部分もあるが、終了した。
作戦に参加した者は、一階級昇進し、海野少佐、池宮、柿沼、亜湖、川原大尉、グレッグ中尉、エクレア曹長となり、今回進軍した他九名はミステイク直属の兵となった。大尉となった者には、金貨十枚の褒賞が出た。
他の兵から羨望の目で見られたのは言うまでもないが、連隊長は信用してはいけない人間だと、俺たちは再認識した。